第20話:深海の姫君と、月下の甘い包囲網
「あ、あの……! この海を……この『奇跡の美容液』の海を作られたのは、貴方様なのですか?」
海面から顔を出した人魚の姫――マリンは、潤んだ瞳でリアムを見上げていた。
「美容液? ああ、海水をちょっと綺麗にしただけだよ。気に入ってくれたなら嬉しいな」
リアムが屈託なく笑い、マリンに手を差し伸べる。
その手に触れた瞬間、マリンの体にリアムの黄金の魔力が流れ込み、彼女の尾びれが淡い光を放ちながら、すらりとした人間の足へと変化した。
「えっ……足? 陸に上がれるなんて……っ! 私たち深海族にとって、これは伝承にある『海神の祝福』そのものです……!」
マリンは生まれたての小鹿のように震えながらも、リアムの胸に飛び込んだ。
「私、マリン! 貴方様を、新しい海の王としてお迎えしたいですぅ!」
「「「ちょっと待ちなさい(待て・マスターは渡さない)!!」」」
水着姿のヒロインたちが、猛烈な勢いで海から上がってくる。
「マリンさん、でしたか? 陸のルールでは、まずは行列の最後尾に並ぶのがマナーですわよ!」(エルナ)
そんな騒がしい昼が過ぎ、夜。
リアムは砂浜に設営した古代魔法製の特製テントで、波の音を聞きながら横になっていた。
すると、テントの入り口がそっと開く。
「……リアム様、起きていらっしゃいますか?」
月光を背に受けて入ってきたのは、薄い寝衣を纏ったエルナだった。
「昼間はあんなに騒がしかったけれど……今だけは、私だけのリアム様でいてほしいんです」
エルナがリアムの隣に滑り込もうとしたその時、反対側のシーツがもぞもぞと動いた。
「……先客、いる。……マスターの右腕、私の枕」
そこには、いつの間にか潜り込んでいたセレスがいた。
「貴様ら! 騎士として、主君の夜の警護を怠るわけにはいかないと言っただろう!」
リヴィアが武装(なぜか透け感のあるネグリジェ)で突入してくる。
「みんな、どうしたの? 眠れないなら、みんなで星を見ながら寝ようか」
リアムがマットを広げ、古代魔法で天井を透明化する。
頭上には、空中島から見るよりもさらに近くに感じる、降り注ぐような星空。
「……マスター。星、綺麗。……でも、マスターの方が、ずっと好き」
セレスがリアムの手を握り、続いてエルナ、リヴィア、そしてこっそり忍び込んでいたルナとミーシャ、さらにはマリンまでもがリアムの周りを固めていく。
結局、リアムは六人の美少女に囲まれるという、贅沢を通り越して身動きの取れない状態で眠りにつくことになった。
その頃、滅びゆく帝国の王宮。
「報告します! 南の海に『神の光』を放つ島が出現! 全世界の魔力が、その島に向かって流れ込んでいます!」
「……もはや、手段は選んでおれん。禁断の『邪神召喚』を行う。あの王子を、この手で引きずり下ろしてやる……!」
リアムのあずかり知らぬところで、帝国は最後の、そして最悪の暴挙に出ようとしていた。




