第18話:ドラゴンの求愛と、乙女の防衛線
竜王バハムートが島の「外周警備兼・食客」となってから、空中島はかつてないほどの平和(物理的な意味で)を享受していた。何せ、世界最強の個体が空を見張っているのだ。
だが、島の中は別の意味で嵐が吹き荒れていた。
「ねえ、リアム! 私の鱗、綺麗でしょ? 触ってもいいわよ、特別に!」
ルナがリアムの腕に抱きつき、自分の頬をすり寄せる。ドラゴンの鱗は本来、鋼鉄より硬いはずだが、彼女のそれはリアムの魔力に当てられてか、吸い付くように柔らかい。
「あはは、くすぐったいよルナ」
「もう! ドラゴンの求愛は情熱的なんだから、ちゃんと受け止めてよね!」
その言葉を聞き捨てられなかったのは、いつもの三人だ。
「……求愛、ですって?」
エルナの手にしたティーカップが、みしりと音を立てる。
「ドラゴンだろうと何だろうと、リアム様の『特別』は、一番長くお側にいる私たちが決めることですわ!」
「そうだぞ! 列に並べ、トカゲ娘! リアム様の隣は、剣術の稽古(と称したデート)で私が予約しているんだ!」
リヴィアが魔剣を抜き放ち、ルナとの間に火花が散る。
「……マスター。あの子、うるさい。……丸焼きにして、お父様に返す?」
セレスが無表情に、しかし指先にどす黒い魔力を集めて呟いた。
「わ、わっ、みんな喧嘩はやめようよ! ……そうだ、ルナも一緒に寝れば落ち着くかな?」
リアムの天然爆弾が投下された。
彼は単に「広い川の字で寝ればいい」という意味で言ったのだが、乙女たちの脳内は別の方向にフル回転する。
「な……!? リアム様、それは……夜の……っ!?(赤面)」
「ま、待ってください! それなら私が右側を!」
「私が左だ! 死守する!」
「……私、マスターの上。重石になる」
結局、その夜。
リアムの巨大なベッド(古代魔法でふかふかにリフォーム済み)には、四人の美少女と一人の「無自覚な聖王」がひしめき合うことになった。
幸せな(?)悲鳴が夜の空中島に響く中、外で月を眺めていた竜王バハムートが、満足げに鼻を鳴らした。
「ふむ……リアム殿。我が娘をよろしく頼むぞ。……さて、明日の朝食は何かな?」
リアムのハーレムは、ついに種族の壁すら超えて、空前絶後の賑わいを見せ始めていた。




