第17話:竜王降臨と、究極のペットフード
「ルナ! どこへ行った、我が愛娘よぉぉぉ!」
空を裂くような咆哮と共に、空中島の太陽が遮られた。
現れたのは、全長数百メートルにおよぶ深紅の巨躯――この空域の支配者、竜王バハムート。その羽ばたき一つで、地上の軍隊など一瞬で消し飛ぶほどのプレッシャーが島を襲う。
「ひぇぇっ! お、お父様に見つかっちゃったですぅ!」
ルナがリアムの背中に隠れて震え出す。
リヴィアやエルナも流石に顔を強張らせ、最強の盾と剣を構えた。
「返せ! その不届きな空飛ぶ岩石ごと、我が娘を返せぇぇ!」
竜王が巨大な顎を開き、万物を灰にする『極大ブレス』を放とうとしたその時――。
「あ、ちょっと待って。そんなに怒るとお腹が空くよ?」
リアムが空中島の庭に、古代魔法で巨大な「石の釜」を練成した。
『古代魔法:【超高圧縮・旨味抽出】』
リアムは島の倉庫から、先ほどミーシャが新大陸から仕入れてきた「巨大牛の肉」と、庭に生えていた「魔力キャベツ」を次々と釜に放り込んでいく。
さらに、仕上げに指先から黄金の魔力を一滴。
瞬間に、龍の鼻をも狂わせるような、暴力的に芳醇な香りが空一面に広がった。
「ぬ……っ!? こ、この香りは……!? 我が魂を揺さぶる、この芳しき匂いは一体……!」
ブレスを放つ寸前だった竜王が、思わず空中で静止した。
「はい、お父さんもどうぞ。特製の『龍専用・超魔力ステーキ丼』だよ」
リアムが魔法で浮かび上がらせた、山のような巨大料理。
竜王は戸惑いながらも、その香りに抗えず一口……。
「……!! お、美味しいぃぃぃ! なんだこれは! 我が数万年の生涯で食べたどんな秘宝よりも、瑞々しく、力がみなぎるぅぅ!」
先ほどまでの威厳はどこへやら。
竜王バハムートは、まるで子犬のように尻尾(という名の巨大な尾)を振り、リアムの足元(島の端)に跪いた。
「素晴らしい……! このような料理を作れる者が、人の子の中にいようとは! ルナよ、お前は良い目を持っている! 父も今日から、この島の『食客(居候)』として名を連ねさせてもらおう!」
「「「お父様まで居着いちゃったぁぁぁ!!」」」
こうして、リアムの空中島には「世界最強の用心棒」が常駐することになった。




