第16話:雲海の彼方と、迷子の竜王娘
帝国を離れ、音速を超えて数時間。リアムたちの空中島は、大陸の境界を越え、真っ白な雲が荒れ狂う「絶壁の海」の上空へと差し掛かっていた。
「リアム様、見てください! あんなに大きな虹が……!」
エルナが指差す先には、七色に輝く巨大な魔力の奔流。そこは、人間が数千年にわたって足を踏み入れることができなかった、「神代の龍界」の入り口だった。
「すごいな。大気中の魔力濃度がこれまでの十倍以上だ。……あ、誰かぶつかってくるよ」
「え? リアム様、何を――」
リヴィアが問い返すよりも早く、空中島の防衛結界にドゴォォォォン!!と凄まじい衝撃が走った。
「いったぁぁぁぁい! もう、何なのよこの壁ぇぇぇ!」
結界の表面に、大の字になって貼り付いていたのは、真っ赤な鱗の翼と、立派な角を生やした一人の少女だった。
彼女は、この海域を統べるドラゴンの末娘、ドラ公女のルナ。
「なっ……ドラゴン!? リアム様、お下がりください! 私が斬り伏せます!」
「……マスター。あのトカゲ、美味しそう。……焼く?」
リヴィアとセレスが戦闘態勢に入るが、リアムはひょいと結界の一部を開いて、少女を島の中に招き入れた。
「ひゃぅっ!? な、なによここ……温かいし、いい匂いがするし……。あ、あんたがここの主?」
ルナは顔を真っ赤にしながらリアムを睨むが、彼女のお腹が「ぐぅぅ〜」と盛大に鳴り響く。
「お腹、空いてるんだね。ちょうど今、セレスが地底の森で採ってきた『虹色キノコ』のポタージュができたところなんだ。食べる?」
「ふ、ふん! ドラゴンが人間の食べ物なんて……っ、はふっ! もぐもぐ……なにこれ! 美味しいぃぃぃ! 魔力が、魔力が体中に溶けていくわぁぁ!」
リアムの古代魔法で育てられた食材は、ドラゴンにとっては何よりも贅沢な「魔力源」だった。
一杯のスープで完全に懐いてしまったルナは、リアムの膝に頭を預けて(ドラゴン流の親愛の情)尻尾をパタパタと振り始めた。
「あんた、気に入ったわ! 私、ルナ! お父様には内緒で、しばらくここで美味しいものを食べることにするわ!」
「「「また増えたぁぁぁ!!(というか食べ物で釣られた!?)」」」
こうして、世界最強の種族であるドラゴンまでもが、リアムの「胃袋」と「古代魔法」の軍門に降ることとなった。




