第12話:空飛ぶ市場と、聖者の慈悲
「リアム様! この島にあるものは、どれもこれも下界なら国家予算が動くレベルのお宝ばかりですぅ! これを腐らせておくのは商人の名が廃るですよ!」
猫耳をパタパタさせながら、ミーシャが鼻息荒く提案した。
「でも、僕はお金に困ってないし……。あ、でも下界の帝国では魔力不足で食べ物も足りないって聞いたな。それなら、少し分けてあげようか」
リアムの軽い一言で、空中島は高度を下げ、帝国の国境付近にある貧しい村の上空へと移動した。
村人たちが「空に島が現れた!」と腰を抜かしている中、リアムは古代魔法で地上へと続く「光の階段」を設置する。
「さぁ、皆さん! 今日だけ特別、空飛ぶ聖域の恵みを格安でお分けするですよぉ!」
ミーシャの呼び声に誘われ、恐る恐る階段を登ってきた村人たちが目にしたのは、まさに天国だった。
「こ、これは……『太陽の雫』!? 病の母が欲しがっていた伝説の果実が、なぜカゴいっぱいに盛られているんだ!?」
「この魔導クワを使ってみろ。一振りで枯れた土地が生き返るぞ。……え? 値段? そこの石ころ一個でいいよ」
リアムが無欲に(というか価値観が壊れた状態で)配る品々は、村人たちにとって奇跡そのものだった。
エルナは聖女として村人たちの治療にあたり、リヴィアは騎士として秩序を守り、セレスは無表情に荷物を運ぶ。
「……マスター。村の人、みんな泣いて喜んでる。……マスターは、やっぱり凄い」
セレスがリアムの服を掴んで呟く。
しかし、そんな平和な光景を、遠くから苦々しく見つめる一団があった。
それは、村から不当な税を搾り取っていた地方貴族の私兵たちだ。
「ええい、どこの馬の骨か知らんが、私のシマで勝手な商売は許さん! あの島を拿捕し、金目のものを全て奪え!」
重武装した兵士たちが、光の階段を強引に駆け上がってくる。
だが、その先頭に立っていたリヴィアが、冷たい笑みを浮かべて剣を抜いた。
「おい、ゴミ共。……リアム様の慈悲の時間を邪魔するな。死にたくなければ、今すぐその薄汚い足を引け」
帝国最強の騎士の一人であったリヴィアの覇気に、兵士たちは蛇に睨まれた蛙のように硬直する。
さらには、空腹を満たし、病を治してもらった村人たちが、手に手に農具(リアム製・超高性能)を持って立ち上がった。
「リアム様を、俺たちの救世主様を邪魔する奴は許さねぇぞ!」
リアムは本人の知らないところで、ただのスローライフを超え、人々から「空の聖王」として崇められ始めていた。




