第1話:死の大地で目覚める真実の力
豪奢なシャンデリアが輝く帝国の謁見の間。そこには、冷徹な空気が張り詰めていた。
「リアム・フォン・エグゼイド。貴様を本日をもって廃嫡とし、帝国より追放する」
玉座に座る父、皇帝が吐き捨てた言葉に、周囲の貴族たちからクスクスと嘲笑が漏れる。
「魔力測定値、ゼロ。我が帝国始まって以来の無能だ。生かしておくだけで一族の汚点となる」
「父上、お待ちください! 私は……!」
リアムが声を上げようとしたが、横にいた長兄が冷たくその肩を蹴り飛ばした。
「黙れよ、無能。お前の居場所はこの輝かしい帝国にはない。精々、南の『死の砂漠』で魔物の餌にでもなるんだな」
有無を言わさぬ強制転送。
視界が歪み、次にリアムが目を開けたとき、そこにあったのは黄金の宮殿ではなく、見渡す限りの熱砂と、命を拒絶するような熱風だった。
「……はは、本当に捨てられたのか」
手元にあるのは、古びたナイフ一本と、一晩分にも満たない水筒のみ。
歩けども歩けども、景色は変わらない。喉は焼け付くように乾き、ついにリアムは膝を突いた。意識が遠のく中、砂の中に埋もれていた「何か」に指が触れる。
それは、不気味なほど冷たい、黒い石板の破片だった。
『――資格者を確認。魔力回路の凍結を解除します。個体名:リアムを【神代の系譜】へ再接続』
頭の中に、無機質な声が響いた。
直後、リアムの全身を、かつて経験したことのない衝撃が駆け抜ける。
「が、あぁぁぁぁっ!?」
熱い。全身の血が沸騰するような熱気。
リアムの体内で「ゼロ」と判定されていた魔力が、実は測定器が計測しきれないほど巨大な塊だったことが証明されるかのように、周囲の空間が震え始めた。
『古代魔法:【万物創造・極】、および【理の守護】をインストールしました』
リアムが、本能のままに地面へ手を触れる。
「……水だ。水が、欲しい……!」
その瞬間。
ドォォォォォン! と爆音を立てて、砂漠のど真ん中から巨大な間欠泉が噴き出した。
ただの水ではない。魔力を孕んだ聖なる水が、またたく間に周囲の砂を湿らせ、枯れ果てた大地から瑞々しい青草が猛烈な勢いで生えてくる。
「な、なんだ、これ……」
呆然とするリアムの前に、一匹の傷ついた生き物が姿を現した。
白銀の毛並みを持つが、ガリガリに痩せこけた子犬のような魔獣。だがその瞳には、知性と神々しさが宿っている。
リアムは無意識に手を差し出した。
「お前も、一人ぼっちなのか?」
リアムの手から溢れる、温かく強大な古代の魔力。
それに触れた魔獣が、驚いたように目を見開き、そして喉を鳴らしてリアムの手のひらに頭を擦り付けた。
後に『世界の果てに現れた楽園の王』と呼ばれる少年の、自由な生活がここから始まった。




