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優しすぎる王太子に妃は現れない〜私がその座を手に入れてみせましょう〜【完結】  作者: 七宮叶歌
第14章 来たる時

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来たる時Ⅰ

 三人でリビングへと向かう。テーブルには肩幅大の正方形の白い箱が置かれていた。丁寧に青いリボンでラッピングされている。


「送り主は誰?」


「それが分からないのです」


 メイドは首を横に振り、箱へと視線を移す。


「このタイミングで贈り物など怪しさしかないが……エレナ、開けてみなさい」


「うん」


 父に促され、リボンを解いてみる。そっと蓋を開けると、そこには――。

 心臓が飛び跳ね、一気に血の気が引いていく。何が起きているのか理解出来ない。手も震え始め、蓋を落としてしまった。


「脅迫? それとも威嚇……?」


 声を振り絞る母も眉間にしわを寄せている。父なんて言葉が出ないようだ。

 箱に収められていたのは食器『だった』ものだった。粉々に割れ、原形が分からない。ピンクの小花の散った白い欠片が太陽の光を反射させる。その上には青い封筒が置かれていた。父は恐る恐る手を伸ばす。


「手紙もあるようだな」


「お父様、怪我しないようにね」


 私には封筒を開ける勇気はない。ここは父に託そうと、その片腕にしがみつく。手紙に羅列してあったのは、上品さと優雅さの中にある棘だった。


 * * *


 ペアのカップ&ソーサーは気に入っていただけましたかな?

 美しいものは儚くて脆い。

 ご一族の行く末、心より案じております。


 * * *


 赤文字で、堂々とした達筆だ。

 この食器は私とリュシアンを重ねたものなのだろうか。送り主が私を襲撃した主犯なのだろうか。断定するにはまだ早いけれど、そう思わざるを得ない。


「なんて不気味な手紙だ……」


 父が便箋に手を掛けたので、慌てて止めた。


「お父様、破かないで! 証拠になるかもしれないから」


「あ、ああ」


 父は目に涙を溜め、震える手で便箋を封筒へと戻す。母は耐え切れずにへなへなと椅子に腰を下ろした。


「こんなの、心臓が持たないよ。エレナ、贈り物は受け取りを拒否しよう?」


「うん、そうだね」


 両手で顔を覆う母に、小さく頷いてみせる。私も脅迫に耐えられるほど、頑丈な精神はしていない。身体の力が抜けてしまいそうだ。


「エレナ、部屋で休んでおいで」


「うん、そうさせてもらうね。ありがとう」


 父の笑顔に見送られながら、リビングを後にする。笑顔とはいえ、父の目は笑っていなかった。

 誰がこんなことを。部屋に入るなり、テーブルに突っ伏した。大きな溜め息を吐き、唸る。


「リュシアン様、助けて……」


 弱音まで吐いてしまう。あの温かな笑顔に寄り添ってもらいたい。手を握っていて欲しい。

 せめて励ましてもらおうと、手紙を書くことにした。羽根ペンとインクを引っ張り出し、テーブルに並べる。


 * * *


 リュシアン様


 お元気でいらっしゃいますか? 悲しみに沈んではいませんか?


 私は元気です、と言いたいところですが、駄目かもしれません。

 今日、脅迫と思われる贈り物が届きました。ペアのカップ&ソーサーが粉々に割れていたのです。誰がこんなことを……。

 怯えるばかりで打つ手がありません。リュシアン様、心配させて申し訳ございません。


 エレナより


 * * *


 こんな手紙、送りつけても良いのだろうか。少し考えてしまったけれど、相手は一生を添い遂げるかもしれない人なのだ。ここで遠慮しては、一生遠慮してしまうだろう。

 封筒に入れ、しっかりと青い封蝋を押す。あわよくば国王の耳にも入れて欲しい。願いを込めてメイドへと手渡した。どうか、返事が届きますようにと祈らずにはいられない。

 この日はそれ以上何もする気力が起きず、自室で窓の外を眺めて過ごしていた。


 翌日、食器が置かれるような些細な音で目が覚めた。寝ぼけながら音がした方を見てみると、メイドがマグカップをテーブルに置いていた。ほのかに紅茶の香りがする。


「おはよう」


「おはようございます」


 メイドは私を見て口に手を当てながら笑うと、お辞儀をして部屋から去っていった。今は何時なのだろう。時計を見てみれば、一時を回っている。昨夜は十一時頃にベッドに入ったので、完全に寝過ぎだ。現実逃避でここまで眠れるとは。自分に呆れて何も言えない。

 今日こそ何も起きなければ良いな、とベッドから抜け出し、テーブルに着いた。いただいた紅茶は雑味が多く、少しだけ渋い。城での生活でずいぶん舌が肥えてしまったのだな、と小さな笑いが漏れてしまった。

 さて、今日は何をしよう。昨日の贈り物に、送り主の痕跡が残っていないだろうか。調べてみるのも良いだろう。

 ここには家族以外に助けてくれる者はいない。泣き虫な父と少しだけ悲観的な母を頼ってばかりではいられない。私が動かなくては。胸の前で拳を作り、自分を奮起させる。

 リビングへ行くと、両親が何か話し合いをしているようだった。私が顔を出すと話を止め、私が不安がらないようにするためなのか、二人揃ってにこやかに微笑む。


「おはよう」


「もうおはようの時間じゃないぞ」


 言われてみるとそうだ。三人でひとしきり笑うと、早速話題を変える。


「昨日のカップ&ソーサーってどこにあるの?」


「ん? 物置にしまったが……何かあったか?」


「ちょっと調べてみようと思うの」


 私の提案に父は眉間にしわを寄せ、母は口をへの字に曲げる。


「調べるって、何を?」


「誰が贈ったものなのか、証拠が残ってるかもしれないでしょ?」


 父も母も「うん」とは言ってくれない。これでは埒が明かないと、一人で物置へと向かった。

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