美少女の罰ゲームに付き合う
「いつもありがとね」
出原佳は勝負ごとに弱い。
高校二年生になったときのクラス替えで初めて同じクラスになった。それから知ったことなのだが、彼女はよくゲームで負ける。友達同士で遊ぶときに楽しみのひとつとして罰ゲーム付きでやるそうだ。
そして、彼女は負けるとよく僕に頼みごとをする。
内容はカップルの真似事で、放課後や休日に映画や喫茶店、ゲーセンにショッピングモール、プールなどに付き合うことがある。
今回の罰ゲームは文化祭を二人で回ることであった。
今日は土曜日。校内には学生だけでなく様々な人が来ていた。まあそれ自体は活気があって良い事なのだう。内向的な僕からしたら辛いけど。ただ辛いのは人が多いからだけではない。
いつもより男の視線を強く感じる。放課後や休日と違って校内に出原さんを知っている人が多いせいかもしれない。
気持ちはわかるよ、校内一の美少女と呼ばれる出原佳と二人で回っている男がいたら気に入らないのは当然のことだ。イケメンなら許されたかもしれない。でも僕はカッコ良くない。周りから見たら、なんであいつが出原さんと、てな感じで不満が溢れ出るんだろう。殺気が少ないのは僕の体格が良いからかもしれない。
罰ゲームの始まりは高校二年の五月からだった。ゴールデンウィークの間に一度出かけたので覚えている。
出原さんは最初の頃は遠慮がちに頼んでいた。
面倒に感じた僕は断ったのだけど彼女は引き下がらず、他の男子にはお願いしづらいとか、男子と二人きりは不安とか怖いとのこと。いや、見た目の怖さなら僕の方が上だと思うけど。目つき悪いし、強面だし。
今までの罰ゲームでは男と二人で、というのはなかったらしい。高二にもなったし、青春ぽいことがしたかったのと、出原さんに彼氏がいたことがなかったからとのことだ。出原さんが恋愛経験がなかったのは意外だった。
彼女の罰ゲームをやり遂げる気持ちの律義さに最初のほうは渋々了承した。
出原さん曰く、僕と一緒にいると安心するらしい。男というよりはクマのマスコットみたいに思われているのかもしれない。マスコットにしては可愛くはないけど。
慣れてきた最近では当たり前のように頼んでくる。
僕も、いつものアレね、ぐらいの感覚になった。
出原さんの良いところは見た目だけではない。まあモテるから当然なんだろうけど。
僕みたいなスクールカースト下位の人にも態度変わらず接しているところがすごい。普通は僕らみたいな下位カーストの扱い酷いからね。
初めての罰ゲームのときは、まあお互い緊張していたけど。それ以降、慣れてくればいつも楽しそうにしている。今も可愛い笑顔を僕に向けてくれていた。いや、これは惚れるでしょ。
罰ゲームもただこなすだけではつまらないとのことでミッションがあるらしい。今もミッション中で恋人繋ぎで歩いている。まあこれにはまだ慣れてない。
「上柴くん」
「ん? ああ」
手を放して廊下の壁に背を預けて腕を組む。
「ちょっと待っててね」
「わかった」
トイレに行った出原さんの帰りを待っていると、一人の女子が近づいてきた。
周りの注目を集める美少女で出原さんの親友といわれる富岡詩。
「一人か、意外だな。友達と回らないのか?」
「あなたがそれを言う? 人の親友を奪っておいて」
「酷い言い草だな、わかってるだろ。いつもの罰ゲームだよ、罰ゲーム」
「罰ゲーム?」
なにとぼけた顔してる。
「友達同士で遊んだ時にやってる罰ゲーム。今回は文化祭で一緒に回るように言ったんだろ?」
「……ああ、なるほど。そういうことね」
顎に手を当てていた富岡さんが今理解したみたいな顔をしていた。そういう演技いらないから。それとも罰ゲームってことは隠していたのか?
「もしかして、言ったら駄目だったやつか。罰ゲームを知らない前提でやらなきゃいけなかったのか? 悪い。出原さんに最初に頼まれたとき、僕を説得ために言ったやつなんだ。僕がなかなか了承しなかったからさ。出原さんは悪くないんだ。だから他の人には黙ってて欲しいんだけど」
「ふっ、心配しなくて良いわ。罰ゲームなんてやってないから」
「は? どういうこと?」
「それは本人に確認しなさい」
含み笑いをして富岡さんは歩き去ってしまった。入れ替わりに出原さんが戻ってくる。
「あれ? 今の詩だよね、なに話してたの?」
「なあ、確認したいことがあるんだけど―――――」
この後、ばつが悪そうに答えてくれた。
そして、恥ずかしそうに彼女の本当の気持ちを正直に話してくれたので許すことにした。