54 密かな作戦 2
昼休みの学園。
校舎の屋上には、ひときわ目を引くイケメン三人組が姿を見せていた。
ここは、アルヴァン王子が密会の場として指定した場所である。
知的派のユリウスが、不思議そうに問いかけた。
「アルヴァン王子との密会場所って、ここで合ってるよな?」
「なぜ学園なんだ。セイル、お前は何かわかるか?」
論理派のセイルも納得がいかない様子で首をひねる。
「学園という意外な場所という意味はあるが、もっと適した場所もあると思う……」
そして、腕を組みながらつぶやいた。
「やはり……アルヴァン王子の考えは、僕たちには測りきれない深さがある」
熱血派のレオンが、隣の二人を見ながら不思議そうに言った。
「お前ら、まだ気づいてないのか?──今日は、ドンパッチが学園に来る日なんだぞ」
ユリウスとセイルは顔を見合わせたが、まだ腑に落ちていない様子だった。
レオンは肩をすくめ、続けた。
「ドンパッチの瞳──アルヴァン王子の瞳にそっくりだろ」
言われてみれば、といった表情のユリウスに向かって、レオンは畳みかける。
「あれからずっと見てたけど、体の使い方も、雰囲気も、完全に同じだった。あれは王子だ。間違いない」
そして、決意を込めて付け加えた。
「グレイヴ──あれは護衛隊長のシグルドだ。強いわけだ。いつか俺が勝ってやる!」
ユリウスが、思わず声を上げた。
「どうして、王子が変装なんかして学園に来てるんだよ!」
セイルは腕を組み、真剣な面持ちで唸っていた。答えを導き出そうとしているのだろう。
だが──レオンはあっさりと言い放った。
「知らねえよ。気になるなら本人に聞けって。……ほら、もう来てるしな」
アルヴァン王子は、そんな会話が交わされているとは露知らず、颯爽と歩いてきた。
密会ということもあり、彼は学園の制服を身にまとっていた。シグルドも同様である。
王子は、爽やかな声で三人に語りかけた。
「すまない、少し待たせたようだな。この前の話の相談をしたいのだが、いいかな?」
だが──三人の誰も、すぐには応じなかった。
その沈黙に、アルヴァン王子はわずかに焦りを覚えた。
(まさか……反対派に回るつもりなのか? そうなれば、計画は難しくなる)
レオンがその空気を敏感に察知し、きっぱりとした声で言い切った。
「俺たちは、お前の味方になることにした」
その一言に、アルヴァン王子の表情がほのかに和らいだ。
「こいつらは、アルヴァン王子がどうしてドンパッチに変装しているのか、ずっと悩んでたんだよ」
そう言って、レオンはふと真顔になる。
「俺にはどうでもいいけどな……で、お前、なんで変装してるの?」
その直球に、アルヴァン王子は機能停止状態になりそうになったが、踏みとどまった。
「それは……今は言えない。だが、いずれ必ず話す。今日は、その前に――今後の計画について話をしたい」
ユリウスは、それで納得したのか、表情を和らげた。
やがて、自分に言い聞かせるように、ゆっくりと口を開いた。
「僕たち三人は、レオンが言ったように、アルヴァン王子の味方につくことにしたよ」
アルヴァン王子は、真っ直ぐな目で三人を見つめ、芯のある声で答えた。
「……それは、とてもありがたい。心から感謝する」
ユリウスは、さらに問いかけるように言った。
「僕たちは、何をすればいい?」
その横で、セイルはまだ唸っていた。納得のいく答えを、必死に探し続けているようだった。
アルヴァン王子は、強い意志を込めたまなざしで三人を見つめ、落ち着いた声で語り始めた。
「君たちは、今はまだ何もしなくていい」
「反対派を抑え込むことができれば、王国に権力が集中する」
「そのとき、君たちの家に『代を変える』よう正式に要請するつもりだ」
ここで、王子の言葉が一段と重みを帯びる。
「――そう、君たち自身が、それぞれの家の当主となってほしい」
「残念ながら、僕は若い。僕がどれだけ正しいことを言っても、君たちの父親たちは素直には従わないだろう」
「だから、君たちには、親から“当主の座”を奪う覚悟を持っていてほしい」
「十人の賢者の一人としての地位は保証する。今よりも栄え、権力も大きくなる」
「僕はこのアステリオン大陸を平定する。君たちはその時、不動の地位にいるはずだ」
「当主として、僕の考えに従う覚悟を――ただ、それだけを求める」
そして、少しだけ表情をゆるめ、誠実な声音で続けた。
「僕が間違っていると感じたときは、必ず正してほしい。僕一人では、判断を誤ることもある」
「もし意見が合わないときは、道を違えてもいい。僕に敵対しても、恨みはしない」
「君たちにとっても、決して悪い話ではないはずだ。――どうだろう?」
そう言い終えると、すぐに王子は背を向けた。
「少し悪いが、他に用がある。あとは君たちで意見をまとめてくれ」
そう言うと、少し早足で、アルヴァン王子は屋上から姿を消した。よほど急いでいるようであった。
「……困った。変装の件、どう説明する……うん、どうすれば……」
そんな独りごとをこぼしながら去っていく王子の横で、シグルドは笑みを浮かべていた。
一方その頃、教室では──
「ドンパッチ君は、体調がすぐれないとのことで、午後からお休みになります」
担任がそう告げたとき、「午前中元気だったのにどうしたんだろう」との声が聞こえた。
ティーナには、心配をかけないように「用事がある」とだけ伝えられていた。
その後、アルヴァン王子とシグルドは、バルティネス男爵家の質素な門をくぐり、控えめな佇まいの応接間へと通された。
そこには、椅子に深く腰掛けるクラウスの姿があった。今日は、いつものように膝の上にマルレーネの姿はない。
アルヴァン王子は、ほんの少し安堵の息を漏らしたが、心のどこかで物足りなさも感じていた。
──あの衝撃的な光景。
マルレーネを膝に乗せていたクラウスの姿が、今でも目に焼きついている。
あれを見た瞬間、自分もティーナを膝の上に乗せている情景を思い描いてしまったのだった。
やがて、クラウスが穏やかな声で口を開いた。
「──今日は、どうした?」
アルヴァン王子は、その問いに真剣なまなざしで応じる。
「国軍統帥卿の領地へ視察に行きます。そして、模擬戦で力の差を見せつけ、私に従わせます」
「バルティネス男爵家にも波及があるかもしれません。ですので、念のためにご報告に参りました」
王子はまた、「貴族軍制から王国軍制への移行」という大きな改革についても説明していた。
ティーナを守るため、クラウスには伝えておきたかったのだ。
いつもなら、クラウスは短く「そうか、頑張れ」とだけ言うのが常だった。
だが──この日は、どこか違った。
クラウスが、どこか不思議そうな顔で問いかけた。
「──国軍統帥卿は、まだ……あいつなのか?」
「はい。今も変わらず、同じ人物です」
アルヴァン王子がそう答えると、クラウスは短くうなずき、しばし沈思したあと──
ふいに、悪戯めいた笑みを浮かべて言った。
「……俺が行った方がいいかもしれんな」
そして、軽く続けた。
「俺も、気晴らしがてら同行するか」
こうして、アルヴァン王子は自身の直属である近衛兵隊──
その護衛隊長シグルド率いる一千の精鋭を伴い、反対勢力の首謀者が治める領地へと歩を進めることとなった。
だが、その隊列の中には、誰にも気づかれぬよう紛れて歩く一人の男がいた。
クラウス──彼はただの一兵卒として、密かにその行軍に加わっていたのである。
国軍統帥卿は、二十年前の戦争において、最前線の砦で圧倒的な敵兵力を退け、その名を世に知らしめた名将であった。
戦後も、亡き国王の改革に際し、数々の助言を献じることで、着実に自らの地位を築いてきた男。
その巧みな話術と、相手の懐に入る技により、現国王からも深い信頼を得ていた。
しかし──
アルヴァン王子は、初めてこの男と相対した幼い日の記憶の中で、早くもその本質を見抜いていた。
「──この男は、人に媚びて生きる者だ。信用してはならない」
その確信は薄れることなく、むしろ年を重ねるごとに深まり、王子は数年前より、この国軍統帥卿の動向を密かに監視させていたのである。
国軍統帥卿──
それは、貴族たちが擁する全軍を統括する権限を持つ、まさに軍制上の頂点に立つ役職である。
かつては、代々レオンの家がこの地位を任されていた。
だが──二十年前の戦争において、彼の家は実績において敗れ、その座を奪われてしまった。
この屈辱と悔しさが、レオンの胸に燃える炎の一因でもあった。
以来、大規模な戦が起こることはなく、小競り合いばかりが続く時代となった。
レオンの家もまた、名誉を挽回する機会を得られぬまま、歳月だけが過ぎていった。
そして、その男──その時に地位を奪った人物が、いまだその権限を握り続けていた。
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