52 婚約の宴を終えて
アルヴァン王子、ティーナ、シグルド、ベアトリス、そして妹のソフィアは、披露宴を終えて控え室でひと息ついていた。
アルヴァン王子とティーナの婚約披露宴は、無事すべての式次第を終えていた。
ティーナだけは、いつも通り元気そうだったが、他の四人はさまざまな意味で少なからず疲れが見えていた。
ベアトリスの目は、まだほんのり赤かったが、それに気づいた者はいなかった。
気配を消すことに長けたベアトリスならではの、卓越した技のひとつだった。
そんな中、ソフィアが少し不満げにぽつりとつぶやいた。
「私も、ティーナお姉ちゃんのダンスを近くで見たかったな……」
ベアトリスがややきりりとした声で応じる。
「ソフィア様、今回はこちらに来る条件でございましたので……どうかご理解ください」
「わかってるってば。お姉ちゃんのことがまだ秘密ってことくらい、私だって知ってるの。もう子供じゃないもん」
その言葉に、ベアトリスはふっと微笑みを浮かべ、やさしく言葉を返した。
「はい。ソフィア様は、もう立派なご令嬢でいらっしゃいます」
素直に褒められたソフィアは、嬉しそうに胸を張った。
幼い子の心を育てるには、叱るよりも褒めるほうが効果的だということを、ベアトリスは誰よりも理解していた。
もちろん、それは決して甘やかすこととは違う。
――ティーナのまっすぐで素直な性格も、そうした日々の丁寧な指導の賜物なのかもしれなかった。
シグルドが肩をすくめながら言った。
「最後のあのダンスは圧巻だった。……俺、警備を忘れて見入っちまったよ」
アルヴァン王子は苦笑しながら突っ込む。
「それはまずいだろ、シグルド」
「僕もティーナについていくので精一杯だった。ダンスには自信があったけど……あれは無理だ。ちょっと自信なくした」
「お前、ダンスは苦手だって、いつも逃げてただろ?」
「……あれ? そうだったっけ?」
王子はあきれたように笑いながら、ティーナに向き直る。
「ティーナ、本当に大丈夫か?」
「はい、元気です」
ティーナが変わらぬ笑顔でそう答えた瞬間──
なぜか全員が少しだけ間を置き、そろって引いていた。ベアトリスも例外ではない。
そんな他愛ないやり取りが続いていると、控え室の扉が静かに開いた。
シグルドはすでにその気配に気づいていた。
もじもじと小さな足取りで現れたのは、ファリーナだった。
照れくさそうに俯きながら、一歩ずつ部屋に入ってくる。
アルヴァン王子は少し驚いたようだが、いつもの柔らかな声で言った。
「ファリーナも、こちらへおいで」
ファリーナは頷き、恥じらいを隠しきれないまま、そっとアルヴァン王子の隣に腰を下ろした。
ソフィアが、そっとファリーナの姿を見つめながら言った。
「お姫さまって、本当にいるんだ……きれい。アルヴァン王子様に似てるね」
王子が優しくうなずく。
「僕の妹のファリーナ。そちらはティーナの妹のソフィアちゃん。十二歳だから、ふたりは年が近いな」
そして微笑みながら、
「ソフィアちゃん、ファリーナとも仲良くしてあげてね」
ソフィアは元気よく答えた。
「はい、任せて!」
ラウスの家族は、真面目な兄エドワードを除いて、貴族の上下関係や礼儀作法をあまり気にしない人たちだった。
まだ少し顔色の冴えないファリーナに、ティーナがそっと身をかがめて問いかける。
「ファリーナ様、気分は大丈夫なのですか?」
ファリーナはティーナの顔をじっと見つめ、小さくうなずいた。
「ありがとうございます。……大丈夫です」
そして、どこか不思議そうな声で続けた。
「ティーナ様、この前お会いした時と顔の感じが違って……なんだか、きれいになられた気がします」
ティーナは少し照れたように笑いながら答える。
「これはベアトリスがしてくれたの。今日はこちらの方がよいって言われたの」
「そんなに印象が変わるのですね……」
「私もびっくりしたの。ベアトリスは魔法使いなんじゃないかなって思うくらい」
すると、ソフィアがやや不満げに口をとがらせた。
「ベアトリスは魔法使いなの。でもね、私には“まだ早い”って言って、きれいにしてくれないの」
それを聞いたファリーナが、ぽつりと小さな声でつぶやいた。
「……私なら、きれいにしてもらっても大丈夫」
ティーナが思わずベアトリスの方に目を向けると、彼女はやわらかく微笑んで答えた。
「はい。ソフィア様はアルヴァン王子様とよく似ておられます。今でもとても美しいですし、私でよろしければ、お手伝いをいたします」
そのやり取りを聞いていたアルヴァン王子は、何かに気づいたように声をかけた。
「ベアトリスさん、よければソフィアの化粧を少し整えてあげてくれるかな?」
「かしこまりました」
そう言って、ベアトリスはファリーナと共に静かに部屋の奥へと消えていった。
ティーナは、よくわからない様子で首を傾げていた。
同じように、シグルドもよくわからないまま、怖い顔で首を傾げていた。
──どうやら二人とも、目の前で起きている変化の意味が、まだ理解できていないようだった。
ファリーナは、ティーナに意地悪をしてしまったあと、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
「どうして、私はおチビちゃんのことを嫌っていたの?」
「お兄様を取られる気がしたから?」
「お兄様は大好きだけど、忙しくて私にはあまり構ってくれない」
「妹がいたらよかったのにな。いろいろお喋りして、お人形さんみたいに着せ替えできたら楽しかったのに」
「おチビちゃんは、私と同じくらいの背丈。着せ替え遊びできるかも」
「私も、おチビちゃんみたいに美人になってみたい」
「どうして私は、ティーナさんのことを嫌っていたんだろう」
「仲良くなったほうが、楽しいことが増えるのに」
「私、なんで怒ってたのかな……?」
14歳の反抗期によくある行動だった。はっきりとした理由はなく、ただ何でもないことに腹を立ててしまう──それも、大人になるために必要な感情のひとつである。
そして、ファリーナは知った。
──ティーナにも、妹がいるのだということを。
その瞬間、なぜだか少しだけ嬉しくなっていた。
ほんの少し、胸の奥がやわらかくなる。
きっと、これから自然と仲良くなれる。
そう思えるだけで、少しだけ世界が広がった気がした。
おもしろいと感じた方は、「亀の甲より年の功」をクリックして、他の作品もぜひご覧ください。まったく異なるジャンルの物語を、生成AIを駆使して書いています。




