47 二人の愛のはじまり 5
そして今──アルヴァン王子は、執務室で“イケメン三人組”と呼ばれる青年たちと向き合っていた。
三人は、最初こそ緊張した面持ちで王子の前に立っていたが、
アルヴァン王子の落ち着いた態度と、まるで昔からの友人に語りかけるような穏やかな声色に、三人は少しずつ緊張を解いていった。
絹糸を思わせる滑らかな金の髪が、差し込む光を受けて、やわらかく揺れている。
その髪の奥からこちらを見つめるのは、深い意志をたたえたエメラルドグリーンの瞳だった。
姿勢は真っすぐに伸び、その立ち姿からは、誠実な人柄が自然と滲み出ていた。
やがて、会話は静かに核心へと移っていく。
アルヴァン王子は、声の調子を変えることなく淡々と語り始めた。
だが、その一言一言には、揺るぎない覚悟と、確かな自信が宿っていた。
「僕は、この国を変えたいと思っている」
静かに放たれた一言に、三人の視線が集まった。
「そして、その変革には──君たち三人の力が必要だと考えている」
最初に口を開いたのは、知的派のユリウスだった。
端整な顔立ちに、涼やかな銀灰の髪を持ち、静かに微笑むだけで空気が引き締まるような美しさをまとっている──そんな彼が、少し眉をひそめて尋ねた。
「……でも、僕たちはまだ学生です。親の意向に逆らうこともできませんし、そんな重大な話を僕たちにするのは……少し違うのでは?」
アルヴァン王子は、まっすぐユリウスを見つめ、静かに答える。
「ユリウス殿も、僕と同じく十八歳だ。僕がこの国の将来を考えているなら、君にもその責任があるはずだ」
そして、論理派のセイルが続けた。
青灰色の髪と切れ長の瞳を持ち、整った輪郭に無駄のない所作を添えて、冷静な声で問いかけた。
「──何をするつもりなんですか?」
アルヴァンは、淡々とした語調を保ちながらも、揺るぎない意志を込めて告げた。
「貴族軍制から、王国軍制に移行する」
その言葉に、三人は揃って息を呑んだ。
この制度は──上位貴族にとって、決して許容できるものではなかった。
兵権を王に明け渡すということは、反抗の手段を手放すことになるのだ。
「この国のまわりには、今もなお多くの敵国が存在している」
「この国で内乱が起これば、多くの民が命を落とし、領地は奪われ、奴隷となる」
「僕は、そのような愚かな結末を、この国にもたらしたくはない」
「だからこそ……国王による独裁体制も、変える」
「国王はこの国の象徴とし、実際に国をまとめる役割は、十人の“賢者”に託すつもりだ」
「そして君たちには──その最初の“賢者”として、この国を導く指導者になってほしい」
「この構想は、父であるノアティス国王の、正式な意思である」
「僕は、アルセリア大陸全土を平定し、この地から争いというものを完全になくすつもりだ」
「君たち三人には、どうしてもその道を共に歩んでほしい。力を貸してほしい」
その言葉を受けて、三人は誰も声を発せず、ただ茫然と王子を見つめていた。
──あまりにも壮大すぎる。
この大陸の長い歴史において、アルセリア全土を平定した者など、未だかつて存在しないのだから。
アルヴァン王子の顔には、それがまるで当然のことのように、いとも簡単に成し遂げられる──そんな確信に満ちた表情が浮かんでいた。
「なぜ、君たちにこの話をするか──それは、君たちが僕と同じく“若い”からだ」
「今この瞬間、僕たちには何の権限もない。けれど同時に、何の制約もない」
「だからこそ──僕たちでなければ、国を根底から変えることはできない」
その言葉を受けて、セイルが冷静に問いかけた。
「……なぜ僕たちなんです? アルヴァン王子とは、これまで面識もなかったのに」
その問いに、アルヴァンは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
──ドンパッチとして学園で昼食を共にし、談笑を交わした日々の中で、この三人なら信頼に足ると感じた。
だが、それをそのまま口にするわけにはいかなかった。
「……僕は、あらかじめ調べていた。君たちなら、民の幸せを第一に考えてくれると」
そして、王子は少し声を落とし、淡々と続けた。
「この国の最上位貴族は、君たちを含めて十名。
僕の調査では、賛成派が二、中間派が六、反対派が二──という構図だ」
「もし君たち三人が僕に協力してくれれば、賛成派は五となり、中間派三、反対派二に変わる」
「君たちの判断で、この国は──繁栄か破滅のどちらかを選ぶことに成る」
「この場での返答を望んではいない。自らの意志で決めてほしい」
その言葉を聞いた熱血派のレオンは、目を輝かせていた。
太陽のように明るい茶髪と、はつらつとした整った顔立ち。
感情が表情にすぐ現れるその顔には、まっすぐな情熱と少年らしい爽やかさが宿っていた。
まるで燃えるような使命感が、彼の中に芽生えているかのようだった。
一方、ユリウスとセイルは、深く沈黙の中に沈んでいた。
──ここまで話すということは、もう逃げ場はない。
アルヴァン王子の側につくか、あるいは敵として立ちふさがるか。
その選択によって、自らの家が繁栄するのか、あるいは滅ぶのか──
その覚悟を、彼らは試されているのだと感じていた。
そして彼らは、王子の語る理に、破綻が一つもなかったことにも気づいていた。
この国の十八歳は、日本で言えばまだ高校生の年齢かもしれない。
だが、この国では、早ければ家督を継ぎ、政に携わる者もいる。
──その年齢は、もう“子ども”ではない。




