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44 二人の愛のはじまり 2

国王ノアティスは、玉階の最上段に立ち、大礼服に身を包んでいた。

その姿は、王としての威厳と長年の統治者としての風格をにじませていた。


ゆっくりと顔を右へ向け、列席する貴族たちを一人ひとり見渡す。

首を僅かに動かして左側にも視線を送ると、その一動作だけで場の空気が引き締まった。


隣に座る王妃セリシアもまた、口元を扇で覆いながら、貴族たちの顔を見つめていた。

その目つきはやわらかくはなく、確かな威嚇の意志をたたえていた。


ノアティス王は、声を張る。

その言葉は、広間の隅々にまで届いた。


「ティーナ・バルティナの──

その徳、その功績。地を潤し、民の命をつなぎ、国への忠義を尽くしたこと。

これを、我ノアティス・ド・ディナスティ・ド・エルディアの名において、正式に認める。

もしもこの定めに異を唱える者があれば、それはすなわち、我が祖国エルディア王国に異を唱えるに等しいと心得よ」


間を置かず、言葉を継ぐ。


「ティーナ・バルティナの行いは、領地を与えるにふさわしいものである。

だが、彼女はまだ若き当主であるため──

成人の時を迎えたあかつきに、正式に領地を封じるとする」


国王ノアティスが玉座にゆるやかに腰を下ろすと、玉階の下、王家の礼冠を戴く大司礼官が一歩進み出た。

そして、玉座に向けて一礼し、場内全体に響き渡るよう、荘重な口調で言上する。


「ここに、バルティナ家令嬢ティーナ殿の

上位貴族としての叙任の儀、並びに

王子アルヴァン・ド・ディナスティ・ド・エルディア殿との婚約の儀、

すべて滞りなく執り収められましたことを、謹んで奉告いたします。


これをもって本日の儀式は閉式といたし、

婚礼の祝賀の宴につきましては、改めて日を定め、

御布告を以て列席の諸侯に伝達されるものといたします。」


すべてが、異例の連なりで始まり、そして進められていた。


本来、上位貴族の叙任にあたり、国王が自ら詔を読み上げることはない。

そのうえ、玉座を降りて被叙任者に直に触れるなど、王国の長い歴史の中でも、数えるほどしか例がないのだという。


さらに異例だったのは、この国家に深く関わる儀式であるにもかかわらず、事前の通達がほとんどなかったことだった。

貴族たちに届いたのは、ただ一言──

「重要な式典につき、できる限り高位の礼装で参列せよ」

という案内だけだった。


そして、式典が終わりを告げたそのとき。

赤絨毯を挟んで並ぶ貴族たちの間には、確かに動揺が広がっていた。

とりわけ、「領地を封じる」という言葉に、空気が一段と重くなる。


領地を与えるということは──どこかの領地が、失われるということでもあった。

その現実が、誰の胸にも静かに、そして重く、沈んでいった。


それも無理からぬことだった。

「ティーナ・バルティナ」──その名を、社交界で耳にしたことのある者は、おそらく一人としていなかった。

少女の存在を知る者すらほとんどおらず、その家名もまた、多くにとって初めて聞くものであった。


やがて、言葉は静かに、しかし確かに、二つへと分かれていった。


偉業を成した少女を讃え、国王ノアティスの英断を喜ぶ声。

そしてもう一方には、突如として上位貴族の列に加えられたことに、驚きと疑念を抱く声があった。


そのざわめきを胸に抱いたまま、式典に列席していた貴族たちは、王宮の回廊を、深く考え込むような足取りであとにしていった。


……


ティーナは控室に入ると同時に、椅子に座ることなく、その場で両手で顔を覆い、しゃがみこんだ。


アルヴァン王子は、包み込むような優しい声で言葉をかける。


「ティーナ、素晴らしかったよ。僕の方が緊張して震えていたくらいだ」


「なにも落ち込まなくていい。今日の君は、いつも以上に美しかった」


するとティーナは、さらに小さな顔を小さな手で覆い、ますます深くしゃがみ込んでしまった。


アルヴァン王子は、どう声をかければいいのか、しばし迷っていた。


──ティーナは落ち込んでいたのではない。

真っ赤に火照った顔を、アルヴァン王子に見られたくなかっただけだった。


今日のアルヴァン王子は、あまりにも素敵だった。


王国中の貴族たちが見守る中で、王子が膝をつき、まるで正式なプロポーズのようにティーナに手を差し出したのだ。


──それは、極めて異例のことであった。

通常、王子が婚約者を定め、婚約者はただそれに従うだけである。


それなのに、アルヴァン王子は、堂々と国王の前で、自らの意志で婚約の申し込みを行った。


超がつくほど天然なティーナでも、少女として、それがどれほど特別なことかはわかっていた。


──自分がどれほど大切にされているのか。

それを思うだけで、控室に入った瞬間、胸の鼓動が一気に高鳴り、顔は真っ赤になり、その場にうずくまってしまっていたのだった。


アルヴァン王子は、何と声をかければよいのかわからず、そっとティーナを支えるようにして立たせようとした。


だがそのとき、ティーナは軽くよろけて──

思わずアルヴァン王子の胸に抱きついてしまった。


アルヴァンは、心臓が止まるかと思うほど驚いたが、

その流れのまま、そっとやさしく、ティーナを抱きしめた。


「ティーナ……僕と婚約してくれてありがとう。本当に、僕でよかったの?」


ティーナは、涙をこぼしながら、小さくうなずくように答えた。


「……はい」


そのまま、ティーナは王子の胸に顔を寄せ、身を預けた。


ティーナは──抱きしめられたことで、頭の中が真っ白になっていた。

そして、アルヴァン王子もまた、「はい」と答えられたその一言に、胸がいっぱいになっていた。


ふたりの鼓動だけが、確かにそこに響いているようだった。


その様子を、気配を消して見守っていたベアトリスが、そっとティーナのそばへ近づき、アルヴァン王子に一礼して声をかけた。


「ティーナお嬢様のお化粧を直します」


その一言で、アルヴァン王子は再起動した。


「あ、そうでした……よろしくお願いします」


ティーナは、まだ顔を隠したまま、ベアトリスに付き添われて控室の奥へと消えていった。


そして──再起動したアルヴァン王子は、大きく両手を挙げ、控室の中央で力強くガッツポーズを決めていた。

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