36 婚約の申し込み
国王ノアティスとティーナが初めて対面してから、ひと月が過ぎようとしていた。
その日、王城の書斎には柔らかな陽光が差し込み、窓辺には静かな風が吹いていた。
アルヴァン王子は、父であるノアティスと向かい合い、進行中の灌漑事業についての報告を行っていた。
「計画より、かなり早く進んでいると聞いたが──」
ノアティスがゆっくりと問いかける。
「はい。想定よりも早い進捗です。このまま順調に進めば、二年ほど短縮できる見込みです。一部地域では、すでに水の供給が始まっています」
王の眉がわずかに動く。
「……やはり、あの娘の力か」
「その通りです。ティーナ嬢の力によるところが大きく、私の想像を超える成果を上げてくれています」
ノアティスは、小さく笑った。
「お前がなぜ何も言わなかったか……ようやく分かったよ」
微笑には、皮肉でも怒りでもない、親としての理解と少しの驚きが滲んでいた。
「──あの力は、あまりにも強く、あまりにも純粋だ。だからこそ、危うい。」
「重々承知しております。今後も、私が責任を持って見守ります」
深々と頭を下げるアルヴァンに、王はゆっくりとうなずいた。
「爵位を上げることは可能だが。どうやって彼女が成し遂げたと説明する?」
「バルティネス男爵家が、私財を投じて労働者を増やし、民のために事業を加速させた、という形で公表するのが適切かと考えております」
「なるほど、悪くないな。実は私も、同じ案を思っていた」
ノアティスは楽しげに言った。わざと王子の返答を待ち、彼の判断を見極めていたのだ。
「だが、問題はクラウス男爵だ。おそらく──あの男が一番の壁になる」
「はい。ティーナ嬢からも聞いております。爵位や地位に興味はなく、静かな暮らしを望んでいると」
「……本当に、大した男だ」
ノアティスは懐かしそうに遠い目をした。
「奴隷制度を撤廃する利を示し、より優れた武器で相手国の戦意を削ぎ、効率的な国政の構想も立てていた」
王は、敬意を込めるように一言一言を丁寧に語った。
「今のこの国の安定は──間違いなく、あの者の功績があってこそだ」
「……そのような人物だったのですね」
「うむ。先王の遺した記録に、最近ようやく目を通した。お前が“あの娘を連れてくる”と聞いたときに、気になってな」
ノアティスは苦笑する。
「先王は急に亡くなり、私も若くして王座を継ぎ、国を守ることに必死だった。資料の存在すら、すっかり忘れていた」
「父上のご苦労は、側近たちから聞いておりました」
「ふむ……それにしても、不思議なものだな。一家そろって、この国と深く関わる宿命にあるとは」
ノアティスの視線は静かに揺れていた。
「先王はクラウスに爵位を与えようとしたが、本人はそれを断った。さらに、自分の記録を歴史から消すようにと願い出たらしい」
「記録を……?」
「ああ……他の者に利用されることを恐れた先王は、その願いを受け入れたのだ」
ノアティスの語る声に、かすかな尊敬がにじんでいた。
「私も、“メイド・オブ・マスター”が送られていたとは知らなかった。先王と、その妃だけが知っていたようだ。──あれは監視であり、同時に深い敬意でもあったのだろう」
そして、王は真正面からアルヴァンを見つめる。
「──お前自身の言葉で、クラウス男爵を説得してみるがよい。あの男こそが、最大の壁となるかもしれぬ」
その眼差しには、息子としての成長を見守る父のまなざしと、国王としての厳しさが、静かに同居していた。
「──謹んで、全力を尽くします」
アルヴァン王子は、深く礼をとった。
──そして、ある日の午後。
変装を解いたアルヴァンとジグルドは、ティーナに案内されながら、バルティネス男爵家の小さな門をくぐっていた。
ティーナは、いつもと変わらぬ様子で家の扉を開け──婚約の申し込みという、人生の大きな一歩を踏み出そうとしていた。
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