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プロローグ

 

 ーーーートラックに撥ねられた。


 篠付く雨の中、俺を撥ねてくれたトラック野郎はブレーキランプが点灯する気配もなくビル街へと消えていく。


 道路のど真ん中に投げ出された体、もとい山城一やましろはじめは会社に忘れ物をしたがために外に出てしまった。

 その結果、理不尽とも思えるこの状況に天気は知らぬ存ぜぬを貫くが如く、俺の体に無数の雨を打ちつける。


 そんな中、否が応でも入ってくる情報がある⋯⋯俺の今の状況だ。


 全身を鉄のハンマーで打ち砕かれたような痛みが駆け巡り、耐えられず叫ぼうとしても声を出すどころか呼吸すらできない。

 当然体も動かず、視界が歪んで今にも吐きたくなる。

 先ほどまで煩わしいと思っていた雨音も徐々に聞こえなくなっていき、反比例するように乱れた心拍音だけが耳に強く届く。


 これらの条件が導き出す答えはーー「死」。


 普通ならここで周りから咆哮やら悲鳴やらが聞こえるのだろうが、幸か不幸か今日の昼頃から明日の夜にかけてこの地に台風が降り立つといったニュースが発表され,街には人っ子一人出てきていないのだ。


 この状況、俺の死体を知らない人に見られないことを喜ぶべきか、はたまた直ぐに通報されないことを悲しむべきか。


 あと数十秒で命が尽きる俺にとってはどうでもいい⋯⋯いや全然よくないわ。もう体温とか感じないけど雨のせいで急激に下がってる気がするし、全身骨折してるはずなのに痛みも感じなくなってきた。


 何なら社会人にもなってもうすぐアラサーだというのに浮ついた話一つもなかった。

 唯一仲良かった奴と言えば、高校生時代の雫天しずくそらとかいう前の席の女子だった。


(アイツ今⋯⋯何してんだろうな⋯⋯)


 後悔するほどの人生でもないからここで死ぬことに関しては特別どうということはない。


 ただ⋯⋯次、生まれ変われるなら願わくば人じゃない何かになってみたい。

 理由はない。ただの好奇心。もう一度人になってもやりたいことは思い浮かばないだろうし,例え人になったとしてもその時はひっそりと一人で隠居生活でもしてみよう。


(あ⋯⋯そろそろだな)


 体中の穴という穴から血だけじゃないよくわからない液体が流れ出ていき、俺の周りを染めていく。 


(死に方くらいは選ばせて欲しかったかな⋯⋯)


 誰にか向けての言葉でもないが、心の中に留めておくには少し寂しいような気もした。

 視界も暗くなり、心拍音も聞こえなくなった今、山城一やましろはじめの人生はここで幕を下ろした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「⋯⋯り⋯⋯⋯⋯⋯⋯か」


(⋯⋯⋯⋯何か⋯⋯聞こえる)


「そ⋯⋯⋯⋯に⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯にな⋯⋯」


(⋯⋯こ⋯⋯え⋯⋯⋯⋯?)


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ゴミが」


 そんな心ない言葉が聞こえた途端、鈍い痛みが広がった。


(あだッ)


 声の主はそこから遠ざかるように段々と消えていった。


(えっ⋯⋯何が起きたんだ⋯⋯?)


 その時、暗闇に包まれた視界に光が差し込んだ。


(眩しッ!?)


 それはまるで夜に電気も付けない中、懐中電灯を目に当てられた気分だった。


(⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?)


 夏祭りで最後の花火が消えるように光が収まるのを待つと、そこに広がっていた光景は起きたばかりの脳には少し、理解が追いつけそうになかった。


 圧倒的な量の木。視界の端から端まで見える範囲全て土から立派な幹がそびえ立ち、自由を求めようと伸ばした枝から生えた青々しい葉は、枯れることを知らない様子で風になびかれている。


(え⋯⋯なにここ⋯⋯どこ)


 どうやら外にいるらしい。辺りは暗く街灯の光と思えるものが何一つ近くに無い。

 あるのは天高くからこちらを見下ろす月とその明かりに照らされた木々やその辺に転がっている石ころ。


(今の光は何だったんだ)


 色々と確認したいことは山積みだが、ここがどこか分からないことには始まらない。そう思い、体を起こそうとした時だった。

 俺はようやくそこで自分に起きている異変に気付いた。


(あれ⋯⋯!?⋯⋯⋯⋯!?)


 おかしい。声が出ない。というか体が動かない。動かしにくいとかの話じゃない。あらゆる関節が金属によって固定されてる感覚で、一寸たりとも動かせる気がしない。


(なんでっ⋯⋯うごっ⋯⋯かないっ⋯⋯んだっ!?)


 動かない体をどうにか動かそうと戦うこと一分。

 疲れ果てた俺は息を整えて仮説を立てる。


(やっぱり,事故に遭いはしたが一命は取り留めた?⋯⋯いやそうだとしてもこうして道端に投げ出される理由も状況も分からん)


 あれこれ考えてはみたが、自分の姿形も把握できないし矛盾し放題の辻褄合わずだったので諦めた。


(ま,なんとかなるか)


 この時の俺は、まだこんな状況になっても楽観視していた。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あれからどのくらい経ったか。ぼーっとしていても暇なので、仕方なく俺なりの観察メモを取ってみた。

 分かったことは次の通りだ。

 一 目を閉じると自分の周りが見渡せる

 二 食欲・性欲・睡眠欲,人間の三大欲求が一切感じない

 三 誰も人が通らない

 四 あとやっぱり体は動かない


 最後は分かっていたことだから置いとくとして、最初に気付いたことは目を閉じると見えるはずのない上や下、更には後ろまでもがはっきりと見える。


 どういう理屈かは分からないが、例えるなら全方位にカメラを設置して見たい方向があればそのカメラの視点に切り替えるといった感覚だ。たぶん。


 そこで俺はもしかして超能力的なものかと思い、目の前の石ころを浮かび上がらせようとしたり,空でも飛べないかと試してはみたが、できる気配すらしなかったので早々に止めた。


 次に気づいたのは、欲を一切感じないこと。

 いつもの俺なら五分に一度は眠気を感じていたが、どういう訳かこの状況になってまだ眠気というものを感じていない。


 それと繋がるように他も確認したが、喉も渇かないしお腹も空かないときた。正直これはありがたい。

 移動もできなければ後は飢えて死を待つのみの存在となっていたが、必要な水や食料を探し回る手間が省けたなら運が良かったと言える。

 知らない場所をうろつくなんて死んでもごめんだ。


 あと一応,ムラムラとした気持ちもこみ上げてこないか試そうとしたが、想像だけでは分からずじまいだった。

 何を想像したかはご想像におまかせしまーす。


 そして最後にこの場所についてだが⋯⋯とにかくここは人通りがない。

 体感一時間はゆうに超えているが、それまで誰一人として俺の前を通らないどころか動物や虫さえも見ていない。


 ⋯⋯といった感じだ。本当なら動けない上にここがどこかも分からない場所で独り、焦りまくって誰も来ないことに絶望するんだろうが、食欲がないとなれば話は別だ。

 人間、水なしでは三日しか生きられないと言われているが、その水さえも要らない体なのだから焦る必要はどこにもない。

 ただ、こんな状況でも落ち着いていることには自分でも少し驚いてる。


(さて、一通り把握できてきたところだしこれからどうするか)


 この場所から動かないことには始まらないが、動けたあとのことも考えないといけないので、今後の計画を考えようとした。


 すると、月明かりが俺の隣にある何かを照らした。


(⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯)


 ⋯⋯驚きで俺は言葉も出なかった。

 ソレを見た瞬間、今までの冷静さが吸い込まれたように消え、頭が文字通り真っ白になった。

 何かがあることに驚いたのではなく、先ほどまでそこになかったものが突然現れたこと⋯⋯でもない。

 それが物を反射して映し出す鏡だということはすぐに分かった。


 (⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯椅子?)


はじめまして,レヲンです!

読んでいただきありがとうございます!

趣味としてですが初めて投稿させてもらいました。

二度目ですが趣味なのでとても読めたものではないかもしれませんが,そこは何卒ご了承ください!

続きが読みたいと思っていただけるような作品を作れるようのんびり頑張ります。

※あとちょいちょい訂正すると思います。

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