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異世界美少女エリス<透明の手の魔法>

山下孝介やました こうすけは28歳、都内の小さな出版社で働く編集者だった。仕事は忙しく、収入も中の下。恋愛面はさらに悲惨だった。大学時代に付き合っていた女性に婚約直前で振られ、それ以来、何もかもが空回りしている。


ある日の夜、仕事帰りに立ち寄った公園で、孝介は奇妙な女性と出会った。淡い光をまとった美少女――エリス。どこか現実離れした雰囲気に、孝介はしばらく見とれてしまった。


「あなた、少しだけ変わりたいと思っていない?」


エリスは突然、そう切り出した。訳が分からず問い返すと、彼女は微笑みながら手を差し出してきた。その手には小さな透明な石が乗っている。


「これは『透明の手』の魔法。これを使えば、あなたの手を見えなくし、どんな物でも触れることができる。ただし、この力をどう使うかは、あなた次第よ」


エリスがそう言うと、孝介の右手が急に透明になった。骨も筋も、何も見えない。初めての感覚に、彼は戸惑いながらも興奮を覚えた。


最初は、魔法をちょっとした遊びに使うだけだった。会社で無駄な資料を机からすっと取ったり、混雑した電車の中で邪魔な手すりを掴んでみたり。「透明の手」は便利ではあるが、日常生活で大きく役立つわけではなかった。


そんなある日、孝介は街で偶然、元婚約者の綾香あやかに再会した。彼女は新しい恋人と腕を組み、幸せそうに歩いていた。それを見た瞬間、孝介の中に嫉妬と憎悪が沸き上がった。かつて彼を嘲笑った彼女の言葉が頭をよぎる。


「孝介、あなたじゃ私の未来はないのよ」


その夜、彼は自宅で「透明の手」を見つめながら考え込んだ。そして思いついたのは、復讐だった。


最初のターゲットは綾香の恋人だった。孝介は彼の通勤ルートを調べ、こっそり駅で待ち伏せをした。そして、満員電車の中で彼のポケットから財布をすっと抜き取った。見えない手による犯行だったため、誰も気づかない。


次第に、孝介は復讐の範囲を広げていった。彼を見下してきた上司のデスクから重要な書類を消し、学生時代に彼をいじめた同級生のスマホを奪った。それは簡単だった。透明な手がもたらす快感は、彼の心を蝕んでいった。


だが、孝介は「透明の手」が永遠ではないことを知らなかった。ある日、透明だった手が突然元に戻り、見知らぬ男に財布を掴んでいる瞬間を見られた。


その日から、彼の生活は一変した。被害届が次々と出され、会社には彼の悪評が広がった。社会的に孤立し、家族からも距離を置かれるようになった。


そんなある夜、エリスが再び現れた。以前と変わらぬ美しい笑みを浮かべながら、こう言った。


「あなた、『透明の手』をうまく使えると思ったのに残念ね。でも、報いは必ず受けてもらうわ」


彼女が指を鳴らすと、孝介の手が完全に透明になり、それが全身へと広がっていった。透明になった体は他人に見えなくなり、誰からも存在を認識されなくなった。彼が声をかけても、誰も振り向かない。


それから数年が経った。孝介は目に見えない存在として、ただ街をさまよう日々を送っている。誰にも見られず、誰にも認識されない孤独。しかし、その孤独の中で彼は考えた。


「何のために力を使ったのか……結局、自分が壊れただけじゃないか」


やがて、彼はエリスとの出会いから学んだ教訓を胸に、内なる悔悟を抱えながら新しい人生の意味を探すことを決めた。それが叶うかどうかは、彼の努力次第だったが。


彼の物語は終わらない。どこかの街角で、誰にも見られないまま彼は歩き続けている。

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永遠に彷徨い続けるのか…。 空から天災が堕ちて、世界が滅びるまでか、命が燃え尽きるまでか…。
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