02.07 :必殺、ディス・イズ・ア・ペーーーーン!
冒険者ギルドの建屋はまるで、西部劇にでも出てきそうな外見をしていた。木の扉を押して入る、そう西部劇にバーのように賑やかで、猥雑な雰囲気が感じられた。……建屋に入る前の、外からでも。
中ではならず者達が昼間から飲んだくれて、くだを巻いているのだろうと、俺は想像した。カランとベルを鳴らして入ると、ソッコーで絡まれる。此処はガキ共の遊び場なんかじゃねぇぞと。
仕事をしに来たんだと言うと、貴様等に出来る仕事なんざねぇと嗤い、出来るかどうか俺様が試してやろうと殴りかかってくるのだ。必殺技の名前を叫びながら。必殺、ディス・イズ・ア・ペーーーーン!
「あら、インドール様。怖じ気づきました? また、今度にしますか?」
想像、もとい妄想が忙しくて足を止めた俺に、シアがそう訊いてきた。草、実に草。
何を仰る、シアさんや。wktkですよ、wktk。俺は再び、空いた右手を掲げた。
「冒険者ギルドーーーー!」
「冒険者ギルドーーーー!」
俺が再び起こしたコールに、ユリン嬢も当然のように応えた。シアはそれだけで実感したようだ。wktkであると。
カランとベルを鳴らし、俺達はwktkな気持ちで冒険者ギルドへ足を踏み入れた。中はたくさんの人がいて非常に賑やかではあったが、俺の妄想に出て来たような飲んだくれはいなかったと言うか、酒を飲んでいる人自体がいなかった。そもそも酒類の提供自体がなさそうだった。
俺達はその中を真っ直ぐ受付カウンターへと向かい、受付嬢の前に立った。受付嬢は笑顔全開で対応してくれた。
「王都の冒険者ギルドへようこそ♪ お仕事のご依頼になりますでしょうか?」
ああ、そっちに思われたか。俺達は冒険者ギルド内にいる冒険者らしき人達と比べ、とても良い服を着ている。なるべく質素で動き易そうなものを選んだつもりではあったが、それでも俺達の服の方がずっとずっと上等なものだった。
まあそれは置いておいて、俺達はとりあえず否定する。
「いいえ、冒険者登録をしに来たのです」
「です」
俺の言葉にユリン嬢も乗っかり、シアが静かに頷いた。
それは言うまでもなく、冗談でも冷やかしでもない100%の本気だ。そんな俺達の様子に受付嬢は驚きを隠せなかったようで、念押しで訊いてきた。
「ほ、本当にですか? 冒険者稼業は安全で低レベルの仕事では大きなお金になりませんし、大きなお金になるような仕事はとてもとても危険です。その上で、収入も安定しません。そんな冒険者に、本当になりたいのですか? なって、よろしいのですか?」
「はい、強くなりたいので。そして、家からの許可は貰っているので」
ダンジョン等に武者修行へ行く為に、その安全性を証明する必要性が出て来た。故に冒険者になる。うん、無問題だ。
俺自身が強くなっておきたい理由はいくつかある。隣にいるユリン嬢を守る為とか、この2度目の人生を楽しむ為とか、考えればもういくつか挙げられただろう。だが、一番の理由はグアノを前面に立たせ、俺自身は何も出来ないという木偶にはなりたくないからだ。
と、そんな俺の思考が伝わる筈もないが、受付嬢は少し考え、1つ息を吐いてから頷いた。そして、書類を3組取り出し、俺達の前に差し出した。
「畏まりました。冒険者ライセンスを発行致しましょう。こちらの規約をよくお読みの上で、氏名と誕生日の署名をお願い致します。代読・代筆はご必要ですか?」
「ああ、大丈夫です」
俺はサクッと断った。俺もユリン嬢も読み書きは問題ナッシングだ。5歳の頃から文通していたし、そもそも貴族子女なのでね。で、シアも下級とは言っても貴族子女なので読み書きくらいは普通に出来る。
と言うか、逆に言うと一般庶民の識字率は高くはないのだな。識字率ほぼ100%の現代日本での前世の記憶を持つ俺には、出来ない人が少なくないという世界というものは却って気付けないことだった。よし、下水処理施設での読み書き学習教室というのを提案しておこう。
そんなことに気付かされながら読んだ冒険者登録の為の規約は、ごくごく当たり前のことが記されていた。他者に迷惑をかけてはいけない。乱獲はいけない。依頼に課せられた締切はきちんと守ること。依頼は自身のレベルに合ったものを選ぶこと。その他犯罪行為を行ってはならない、関与してもならない。といったことだ。そして、破った者にはその程度によって罰則が課せられるとも。
……まあ、普通だな。そう思った俺はさらさらっと署名し、誕生日を記載して受付嬢に渡した。ユリン嬢もシアも同じように受付嬢へ渡した。受付嬢は俺達が記したものをチェックし、そして微笑んだ。
「ご署名に関しては問題ございません。これにて冒険者ライセンスを発行致します。決まり事としましては、先程お読み頂いたもの程度となります。では最後に、冒険者ランクについて説明致します。冒険者ランクはS・A~Gの8つのクラスに分かれておりまして、一定以上の成果を挙げますとランクは上がり、失敗続きや罰則等によってランクは下がります。ランクによる差異はこの通りです」
受付嬢はそう言って、俺達の前に1枚の紙を出した。そこには冒険者ランクによる差異が記されていて、こういうものだった。
S:伝説級冒険者。
A:超上級冒険者。騎士爵以上の貴族になることが可能。
B:上級冒険者。難しい依頼でも対応可能。上がる為には成果を挙げ、試験に合格する必要あり。
C:中級冒険者。少し難しい依頼でも対応可能。このレベルから指名依頼の受諾も可能。
D:下級冒険者。通常レベルの依頼ならば対応可能。
E:初級冒険者。難しくない依頼ならば対応可能。戦闘を伴う依頼は自己判断で対応可能。
F:半人前。少し簡単な依頼ならば受けることが出来る。戦闘を伴う依頼は上位冒険者の同伴があれば対応可能。
G:見習い。簡単な依頼のみ受けることが出来る。戦闘を伴う依頼は対応不可。登録直後は皆、此処からのスタート。
まあ、一歩一歩上がっていけばいいかな? そう思った俺に、受付嬢は残念なことを言った。言いやがった。
「なお、此処への記載はありませんが、Fクラスに上がれるのは10歳以上、Eクラスに上がれるのは12歳以上と取り決めが御座いますので……」
「俺とユリン嬢はしばらくGクラスのまま固定と?」
「そうなりますね、申し訳ありませんが」
「ええ〜、ざんねーん」
大して残念でもなさそうな感じで、ユリン嬢もそう言った。恐らく、何となくでも予想はしていたのだろう。
俺も今となってはダメだと冒険者ギルドが言う理由も分かる気がした。年齢制限を設けないと、小さい子供がどんどん危険な場所へ向かってしまうことを容認してしまうことになるからだ。
じゃ、両親ズはこうなることを分かった上で、ああ言った訳か。FでUでCでKですな。……と、言っても意味はないか。
「じゃ、しばらくは鍛錬しつつGクラスで地道にやっていくとしますわ」
「じゃあ、そんな感じで頑張っていきましょうね♪」
「「…………」」
シアはそんなことを言って、俺とユリン嬢の肩に手を乗せた。まるで、幼稚園の保母さんのように。その様に、俺とユリン嬢はちょっとイラッとした。
お姉さん面をしているが、お前は戦闘面以外はポンコツだろうが! と、心の底から思ったのだ。紳士として、口にはしないでやったが。
「じゃあ、どんな依頼があるのかみてみよっか」
その一方で、ユリン嬢はなかったことにしたらしい。スッと椅子から立ち上がり、サッと依頼の貼られている掲示板に目を向けた。実に迷いのない素晴らしい動きで、草だった。
受付嬢はそんな俺達をちょっと苦笑い気味に微笑みながら見て、言った。
「冒険者ギルドには鍛錬場もあります。鍛錬場に関してはGクラスでも利用可能ですので、積極的に利用して下さいね。先輩冒険者達の鍛錬を見るだけでも勉強になりますから」
「……了解」
今度は俺が苦笑いせざるをえなかった。受付嬢は言った。そう、言いやがったのだ。
……ザ・フラグを。
「さ、こっちだよ。早く見に行こ♪」
「ああ、はいはい」
ユリン嬢は俺の手を持つと、グッと引っ張って掲示板の方へと連れて行った。普段の鍛錬の成果なのか、その力は存外に強かった。
掲示板の前に行って、掲示されている依頼内容を見ていった。依頼は個別に紙に書かれ、掲示板に貼られていた。各依頼内容には依頼事項、場所、達成までの期日、戦闘の有無、必要冒険者レベルといったものが箇条書きで分かり易く書かれていた。そこはしっかりとした仕事がされているらしい。うん、素晴らしい。
さて、Gクラス向けの依頼は……
・迷子になった子猫探し
・下水道敷設手伝い
・薬草の採取及び納品依頼
この3つが並んでいた。
「どれがいい?」
「薬草で」
どれがいいか訊いてきたユリン嬢へ、俺は即答でそう返した。それしかないと。
理由は消去法。猫探しは見付けられる気がしない。下水道はいつもやっていることだし、相談役がバイトに入るのもおかしな話だ。
うん、薬草しかない。
「じゃ、それで。シアも問題ないよね?」
「ええ」
3人で合意し、依頼内容を熟読し始めた。その時だった。
俺達の背後にぬっと大きな影が立ちはだかった。
「あぁん? こんな所で、ちんまいガキ共が何してんだ? あぁん?」
テンプレである。冒険者ギルドへ初めて行った際に起こるであろう、フィクションならば確実に起こるであろうテンプレである。振り返ると、そこには髭面の熊みたいな容姿をしたオッサンがいた。そして、臭い。
……モチのロンで、嬉しくはなかった。FでUでCでKですな。




