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061 騎士採用試験2

 本来の最終試験は準騎士達が行うはずだった。しかしジェイコフが連れてきたのは、全員フルフェイス、フルアーマーの全身鎧を着用した正騎士だ。しかも鎧はミスリル製というおまけつきである。


 ジェイコフが急遽出張ってきたのには、もちろん理由がある。そしてこれは予定外ではなく、予め手配されていた。

 むしろ試験官に事前連絡が行っていなかった方が予定外だったのだ。これはジェイコフが手配したからで、フィセルナの手配だったなら連絡ミスは起きていなかっただろう。


 ――カーライル、奴がいるからな。騎士団の実力を疑われたらかなわん。


 これが今回の変更の真相だ。準騎士では、下手をすれば全員カーライルに倒されかねないと、ジェイコフが本気で危惧したのである。


 試験官が補足事項の説明を始めた。


 この試験は、絶体絶命的な状況でも折れず、立ち続け、生き残る。戦乱の時代の騎士に必須の資質を見るのが目的であること。細かいルールは以下のとおり。


 事前に引かれた線から出ると場外となり脱落。

 膝をついたり、背中を地につけたら脱落。

 急所に寸止めされたら脱落。

 受験者、騎士ともに同じルールが適用される。

 制限時間については明言なし。


 試験を始めるにあたり、まずは刃を潰した鉄剣と盾を選ぶところから始まった。

 様々な長さ、重さが用意されていた。受験者達は手に取って具合を確かめながら、己の命運を託す剣と盾を選んだ。


 騎士達も全員、盾と刃を潰した鉄剣を所持している。

 

 「ミラン、乱戦になる。始まったらお互いの背を守りながら乗り切るぞ」

 「うん。先生」


 小声で相談した二人。その会話を近くにいたザッケンも聞き取っていた。


 騎士達と受験者達が一定の距離を取って向かい合う。騎士の数はほぼ同数。ただし騎士達は互いの動きが干渉されない距離を取り、エリアの端から端まで一列に並んでいる。受験者側が騎士達を包囲することは叶わない陣形だった。


 開始の合図までの間が、ミランには永劫に感じられた。受験者が痺れを切らしそうになった、その間のあと、試験官が開始を告げた。ついに最終試験が始まった。


 騎士達がゆっくりと前進してくる。実に騎士らしく、正面からの制圧が目的らしい。


 受験者の一部が走り出す。その狙いは一番端の騎士だ。その騎士を倒すか、場外に押し出して陣形を崩すのが目的である。うまくいって後が続けば包囲できるかもしれない、と踏んだのだ。

 その意図を察した数名が、反対側の端にも駆け出す。


 端の騎士は、ラインすれすれに走ってくる受験者に動揺することなく、周囲と歩調を合わせて前進する。


 まさに接触する瞬間、先に動いたのは騎士だった。武器を構えて突進してくる受験者に一瞬で間合いを詰め、盾を横に払う。シールドバッシュである。盾は受験者の肩を捉えた。


 ラインすれすれを走っていた受験者は、予想しなかった攻撃にバランスを崩し、ライン外に出てしまった。


 「3番、脱落!」


 シールドバッシュをした騎士が、外に出てしまった受験者に告げる。今回、受験者の持つ盾には番号が書かれており、その番号が脱落判定に使われている。


 3番に続いた者も、端にいた騎士の隣の騎士に迎え撃たれ、その鋭く重い斬撃を捌ききれず膝をついた。


 「14番、脱落」


 反対端でも似たような光景が繰り広げられる。

 盾で防がれ、足払いで転ばされ、剣で制圧される。


 「7番――」「34番――」「27番、脱落」


 「突破は無理だ! 集団で対応しろ! 集まって円陣を組むんだ!」


 個の技量では刈られると判断した者が声を張り上げる。冒険者だったこの男は乱戦になると踏んだ。勝つ必要はない。要は時間まで持ちこたえればいいのだから。

 その声に従って円陣ができるが、中には反発する者もいた。中央突破を図ろうとした十名は、騎士達の壁に遮られ、各個撃破されていく。


 騎士達は個の技量もさることながら、集団での連携も優れていた。状況に合わせて、粗に密に、剛に柔に陣形を変えている。


 ――円陣で耐えるのが一見正しいように見えるが、それだと包囲されてすり潰されるか、一点突破で一気に崩壊だな。


 そう感じたのはカーライルとザッケンだった。個も集も実力が違う。終了時間が明示されていない中で耐え切るのは難しい。実際、騎士側の作戦は包囲殲滅だった。


 「あんたら、円陣に加わらないのか」

 「ああ、その方が掻き乱せそうだ」

 「俺も加えてくれ」


 カーライルとミランに加わったのは、二人の会話を聞いていたザッケンである。ザッケンはカーライルとミランの試合も見て、その実力の高さを理解していた。


 「好きにしろ」

 「よろしく頼むぜ」

 「よろしくお願いします」


 カーライルを前面に、お互いの背中を合わせるように三方に向き合う。各々が一二〇度ずつ受け持つ、小さな円陣だ。


 この小さな円陣の存在によって、騎士側は最低でも六名は対応しなければならない。既に騎士の数の方が多い今の状況では、円陣が大きいほど崩される危険性が高い。その気になれば、円陣を包囲しつつ余剰人員で一点突破し、円陣に穴を開けて中になだれ込むことができる。だからこそ、この小さな円陣の存在が、騎士に一点突破させる余剰戦力を与えないでいるのだ。


 騎士達の動きはカーライルの予測通りだった。円陣とカーライル、それぞれを包囲せんと二手に分かれて集まり出す。ここで密集させることで、円陣と見せかけた中央突破を防ぐ目的だ。この集団を包囲するだけの結束も練度も、受験者達にはないと判断されてのことでもある。それらを指示されることなくやってのける騎士達の練度の高さは、さすが六強国アマリア王国の騎士といえた。


 円陣に動きはなく、あくまで待って時間を稼ぐ姿勢だ。騎士達が一定の距離を取り、円陣を包囲せんと陣形を変えていく。


 カーライル達を囲もうとしたのは六名の騎士。


 この時までジェイコフは一歩も動かず、試験開始時の場所に立っていた。だがカーライル達を囲もうとする騎士達、特にカーライルが相手するのが実質二名だと分かると、駆け出した。


 その騎士は何が起きたのか分からなかった。今まさに包囲が完成し、二対一で屈服させにかかる瞬間の出来事だった。


 隣にいた同僚が後方へ吹き飛ばされたのだ。音からして、同僚は吹き飛ばされ、ひっくり返ったのだろう。脱落だ。


 本能が体を動かした。バックステップで下がる。自身がいた位置に、一瞬剣が突き出されていたように見えた。目の前の黒髪の男の攻撃だった。


 次の瞬間、さらに隣の同僚が声を上げた。


 「参った。脱落だ」


 状況を見たいが、ちらりとでもよそ見すれば黒髪の男に刈られる気がして、視線を外すことができない。


 「お前は隣の42番に行け。そいつは俺がいく」


 背後のジェイコフの声に、騎士は従った。


 ミランは二人の騎士を相手に持ちこたえていた。カーライルや急遽仲間になった男に手を出させないよう、牽制も入れる。

 二人を相手にして、さすがにカウンターを仕掛けることはできずにいた。


 一人減らしたはずの42番、ザッケンは、ジェイコフの参戦で振り出しに戻り、再び二人の騎士の攻撃を捌くことになった。目の前の敵二人は慎重派だ。だから隙を見せない限り、無理に仕掛ける必要はない。

 隣の子供もまだ未熟な点はあるが、守りに徹すれば相当固いと判断できた。

 問題は黒髪の男がジェイコフに刈られないかどうかだ。ジェイコフも黒髪も強者だ。勝負がどちらに転ぶかで自身の命運が決まる状況に、舌打ちをしたくなるザッケンだった。


 円陣の方は、なんとかすり潰されずに持ちこたえていた。だが半数以上が脱落し、風前の灯火だった。

 騎士達の方は数名の脱落が出ただけで、余剰人員が生まれている。一点突破の体制が整い、致命の一撃が整った、まさにその時、それが聞こえた。


 それは凄まじい勢いの剣の打ち合いだった。

 ジェイコフの凄烈な攻撃の嵐を、一歩も引かず全て打ち返すカーライル。それだけでなく、ジェイコフに攻撃すら仕掛けていた。

 二人の斬撃の応酬は、互いに盾を捨てるところから始まった。

 二人の打ち合いは徐々に速度を上げていく。攻撃の打ち合いなど、カーライルらしくない。彼は攻撃を躱すのが上手い男だ。その理由は明白だった。背後のミランを庇っているのだ。

 二人の戦いの凄まじさに気を取られ、受験者も騎士も手が止まる。ミランやザッケンでさえだ。目を離すことができなかった。お互い全く引かず、激しさだけが増していく。


 ――やはり、こうでなくてはな。


 ジェイコフは攻め手に敢えて緩急をつけなかった。これは試験であって殺し合いではない。カーライルが暴れすぎないよう押さえる。それと同時に、カーライルの実力を騎士団内に示す。そういった思惑があったのだが、なによりこの応酬が楽しくなってしまった。


 だが、そんな楽しさもいつまでも続かない。


 「そこまで」


 我に返った試験官の声が、会場に響き渡る。

 剣を打ち合った瞬間、ぴたりと止まる二人。

 

 この日、十四名が試験に合格した。

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