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060 騎士採用試験1

アマリア王国の騎士採用試験の当日。


 アマリア王城の外郭に近い兵士用鍛練場に、今年も多くの受験者が集まっている。

 その全てがどこかしらの推薦を得た強者であるが、その中にミランとカーライルの姿があった。そして剣聖の命により送り込まれた男、ザッケンの姿も。そのザッケンには、受験前だというのに安堵の表情が浮かんでいる。


 長年の実績という信用のない他国人のザッケンが、ここアマリアでどこかしらの組織から推薦を貰うのは、本来であれば不可能だ。まして剣聖の命を受けてから、さしたる日数も経っていない。ザッケンが王都に着いて、まだ数日しか経っていなかった。


 実はザッケンは、剣聖以外の関係者の協力により推薦を得ている。

 もちろん、王国が認めた組織だけに推薦権が与えられているのだが、帝国の長い手はそういった組織にも伸びているということになる。

 ザッケンが安堵の表情を浮かべているのは、実に剣聖の無茶振りの結果であった。


 さて、ザッケンはさておき、ミランは緊張していた。対して隣のカーライルは、普段どおり自然体だ。


 「先生は緊張しないの?」

 「しないな。試験だけだろ。別に殺し合いしろって訳じゃない」  

 「う、それは、そうだけどさ」

 「その試験だって剣の腕を試されるだけじゃないかもな」

 「え、騎士試験なのに?」

 「騎士ってのは剣の腕だけでなれるもんじゃないだろ。騎士の資質があるかを見るんじゃないか」


 カーライルに言われて、ミランは初めて気付いた。

 騎士になるために剣の訓練ばかりしてきたけれど、ひょっとして礼儀作法とか必要なのでは、と。


 ――あれ? 先生のほうが、僕よりよっぽど危ないんじゃ。


 横目でカーライルを見る。カーライルの自然体が、可笑しくなってきた。


 「どうせ試験内容がわからないんだ。考えるだけ無駄だ」

 「そうだね」


 ミランは、ふっと力が抜けた。



 試験は走り込みから始まった。ペースは個々の自由だが、歩くことは許されない。走りを止めた時点で失格。時間は鐘一つ分(二時間)。とにかく走り続けるのが最初の試験だと説明された。

 王城内に許可なく武器を持ち込むことはできないため、受験者は皆帯剣していない。重りがない分、楽に走れる。体力を温存した走りをすれば、余裕のある試験といえる。

 ただし、歩いているより遅い走りは真面目に走っていないと判断され、やはり不合格になる。

 毎年数名は脱落するのだが、今年は脱落者なしという結果になった。


 「次は、受験者同士で試合をしてもらう。呼ばれた者は前に出なさい」


 受験者達が走り込みをしている最中、模擬剣が運び込まれてきていたので、ミランは予想どおりだと思った。

 待つあいだ緊張するのが本来のミランだが、今のミランはいい意味で力が抜けている。それに気づかないほど、走り込みの疲れが残っていたのだ。


 何組かの試合が終わり、その時が来た。


 「次、ミラン、およびマテウア。前に出ろ」


 二人はそれぞれ木剣を持ち、対峙する。

 ミランは油断なく対戦相手マテウアを観察する。

 年は二十代だろうか。ミランより頭三つ分は背が高い。まさに大人と子供の対戦といえる。マテウアからは、明らかにミランを格下と見る嘲りが感じられた。


 ――油断してる。チャンスだ。


 「始め!」


 監督官の合図と同時に、マテウアが駆け出す。一瞬で間合いを詰め、放たれたのは上段からの振り下ろし。

 

 「それまで!」

 

 勝負は一瞬でついた。


 「勝者、ミラン」


 マテウアの木剣は、振り下ろされて地に着く寸前で止まっている。対してミランの木剣の柄の先端はマテウアの喉元すれすれで止まっていた。

 一撃で決めるべくマテウアの斬撃は疾く、力一杯振り下ろされた。もし当たれば、ミランの命はなかったかもしれない。

 しかしミランは、頭上から振り下ろされた木剣の勢いを木剣の腹で受けて滑らせ、そのまま柄で突いた。

 カーライルがミランに教えた、勝つための技。カウンターだ。


 ミランは特に、上段からの振り下ろしに対するこのカウンターに重点を置いて練習してきた。背が高い相手ほど上段から攻めやすいという心理を考えての選択だったが、見事に功を奏した。

 相手の剣を滑らせる技術は難しい。刃で受ければ刃こぼれするし、噛み合えば滑らない。かといって腹で受けるのは剣そのものにダメージが入り、曲がったり、最悪折れてしまう。

 当てるタイミングと受ける角度が重要であり、難易度はかなり高い。


 マテウアは信じられないという表情で固まっていた。喉は急所のひとつ。そこを柄とはいえ突かれては、ひとたまりもない。はっきりと敗北を突きつけられ、膝から崩れ落ちた。


 礼をして下がったミランは、大きく息を吐いた。どっと出た冷や汗が背中を一気に濡らす。本当に紙一重の差だった。試合中は必死だったが、終わって緊張が解けたのだ。


 ――練習での先生の剣のほうが疾かったから、なんとか見切れたってところかな。やっぱ先生って凄いんだ。


 試合での緊張と恐怖がおさまると、今度は第二試験を突破した喜びが湧いてきてミランはカーライルを探した。

 ミランはカーライルをすぐに見つけた。ちょうど試験官がカーライルの名を呼んだからだ。


 カーライルも難なく勝った。相手の攻撃を余裕で躱し、焦った相手が大技を繰り出そうとした一瞬の隙を的確に突く。

 攻撃を仕掛ける前に、カーライルの木剣の切っ先が喉元皮一枚の位置で止まっていた。


 「先生おめでとう」


 ミランの元にやってきたカーライルを笑顔で迎えた。カーライルは「ミランも見事だった」と言いながら頭を掻いた。

 

 やがて2次試験は終了し受験者の半分が、次の試験に挑むことになった。その中に、ザッケンの姿もあった。


 しばらく待たされると、騎士の鎧を纏った一団がやってきた。一団を率いているのは、近衛騎士団団長ジェイコフだった。近衛騎士団のみならず、全騎士を束ねるトップの登場に、試験官達は慌てる。どうやら予定外の事態らしい。


 「なに、配役を変えただけだ。内容は変わらん」


 その言葉を受けても、試験官達の困惑は晴れなかった。それは次の試験内容の難易度が跳ね上がるからだ。

 試験官達の動揺は受験者達にも伝わり、場がざわつく。


 ――可哀想に。今年は合格者ゼロかもしれない。


 監督官の一人は、本気でそう思った。


 「諸君、まずは二次試験通過おめでとう。急遽、最終試験の担当になった騎士ジェイコフだ」


 急に現れた騎士の放つ威圧感に、受験者達はごくりと喉を鳴らす。ちなみにカーライルは、面倒だと思っただけだったが。ザッケンは目を細めた。


 「さて、最終試験の説明をしよう。なに、簡単な試験だ。今から俺と、俺が率いる騎士団がお前達に攻撃を仕掛ける。終了の合図が鳴るまで、立っていられたら合格だ」


 そう言い放ったジェイコフは、自身では爽やかなつもりの獰猛な笑みを浮かべたのだった。

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