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050 王都の冒険者ギルドにて

 メアル達がドレスの採寸だった日は、当然ながら男子立ち入り厳禁だったわけで、それはほぼ1日がかりだった。子供逹の剣術指導が終わっても採寸が終わらなかったので、カーライルには自由時間ができた。もちろん普段、用があるときは出掛けたりもするが、基本的にカーライルはメアルの近くに居るようにしている。 子供達は訓練が終わっても手伝いが有り、割りと忙しい。だからカーライルとアルジだけが手持ち無沙汰になった。


 自由時間ができたカーライルは、一人王都の冒険者ギルドに向うことにした。そういえば王都に来てから一度もギルドに顔を出していないと気付いたからだ。

 そもそも冒険者は拠点を移動する際、移転先ギルドにて拠点移動の手続きをする義務がある。以前は登録中の拠点と移動先の両方で手続きが必要だったが、通信用魔導具の普及に伴い、移動先のギルドでの手続きのみで良くなった。なのでギルド側も最近顔を見せないなと思ったら後日拠点を変えたこを知るというのが日常茶飯事になっている。

 顔を見せなくなった冒険者が、いつまで経っても顔を見せず、拠点移動の業務連絡も入らない場合は、他国に渡ったか死んだかのどちらか。そして圧倒的に後者が多いのは言うに及ばず。なお、引退の場合は引退手続きが必要。そういったことから、行方知れずになった冒険者は、冒険者間でその無事を祈って『(他国に)渡った』と言うようになった。依頼遂行中にそうなった者かを把握できているギルド側では戻らぬ者の冥福を祈って『(天界に)渡った』と言うのだった。


 一方、アルジの方はいくら公爵邸が安全とはいえ、メアルの護衛任務中なので屋敷から離れられない。屋敷中がメアル達の採寸で浮き足立っている今、アルジは警戒を強めなければならなかった。


☆☆☆☆☆


 しばらく後、カーライルは人に道を訪ねながらも特に迷うこと無く冒険者ギルドの扉の前に立っていた。ギルドは王都正門近くで大通りから一本路地に入っただけの分かりやすい位置にあった。その辺は都市部のギルドは共通なのか、カーライルが活動拠点にしていた地方都市キノも似たように位置にあった。しかし考えてみれば冒険者はどちらかといえば都市の外に用があるので、当然といえば当然か。


 ーすっかり忘れていたな。拠点移動の手続…


 カーライルがギルドに顔を出す気になったのは、拠点移動の手続きの為だった。王都に来てからもう暫く経っているが、移動手続きをすっかり忘れていたのだ。

 冒険者にはランクがあり、ランクは受験資格を得て、昇給試験に合格することで上がる。そして昇級試験は拠点登録しているギルドでしか受けられない。だから真っ当な冒険者なら移動手続きを疎かにはしない。ちなみに現在カーライルのランクはE。 冒険者の最低ランクはFだが、Fはいわば見習い期間であり、冒険者として認められるのはEからである。 E以上にならなければ拠点移動も出来ない決まりになっている。ともかくカーライルは昇給試験を受けていないので受験資格はあるのだがEランクに留まっていた。カーライルは実にやる気がない冒険者と言えるだろう。


 気負うこと無く、カーライルは中に入る。さすがに王都の冒険者ギルドとはいえ、昼過ぎだからか閑散としていた。 そんなものだろうとカーライルは考えながらカウンターに向かって歩き出す。取り合えず拠点の移転手続きを済ませなければならない。

  

 若い男(カーライル)がギルドに入ってきた時、ギルド内にいた冒険者達は当然ながらチラリと確認した。見ない顔が入ってきたが大抵はすぐに興味を無くした。若い少年冒険者なんて見飽きている。運と洞察力、そして武力的な実力があるか、鍛えられれば生き残るだろう。それくらいの感想しか持たないほど冒険者は厳しい世界である。そんな中、女冒険者だけはカーライルをじっくり見ていた。


 ーへぇ、あの少年は私の視線に気づいているわね。なかなか精悍な顔立ちだし将来性ありかしら。


 女冒険者からみれば、カーライルは少年である。実際のところは記憶を亡くしているカーライルにもわからないのだが、冒険者になるにはアマリア国での成人、つまり15才以上でなければならない為、登録時15才ということにしている。なので現在カーライルは17歳。アマリアの法律上は成人なのだが、世間一般では17才は少年である。見た目的にもどこか少年らしさを残している。態度だけは少年らしくないが。


 女冒険者の考察通り、カーライルは女冒険者がそれとなく自分を見ていると気付いている。カーライルも自分のような若い冒険者など珍しくもないだろうと思っているので、物好きだな としか思わない。登録だけ済めば此処にもう用は無いのだから無視である。


 罪を犯し手配中なら兎も角、依頼受注ペースはさておき真っ当に冒険者活動していたカーライルの手続きはすんなりと終わった。さてメアルに…のついでに他の孤児逹にも(その方が目メアルが喜ぶので)何か土産でも買って帰るかとカーライルが出入口の扉に振り返ると、ふとクエストボードが視界に入った。冒険者がボードの確認もしないで出ていくのも不自然かと、いつもなら歯牙にもかけない男がこの日に限り周囲の視線を気にした。


 ー気まぐれで覗いてみたものの、日帰りで出来そうなものはないな。そもそも昼過ぎに残っているような依頼ならそんなものか


 もともと依頼など受ける気がないカーライルだったが、これまたふとボードの端に貼られている依頼書に目が止まる。それは納品系の依頼だった。納品系の依頼は内容によっては実入りがよい。というのも冒険者ギルドに依頼を出すほどに手に入り難い品、大抵はダンジョンやら兎も角危険なエリアでしか手に入らない品が主だからだ。そして通常こういった依頼は期限を設けない。 だから冒険者は依頼を受けてから探すのでは無く、運良く手に入ったら依頼を受けて納品するのが常である。只、ギルドは仲介手数料を依頼者から取るだけで報酬の支払いは依頼者から直接受け取る必要がある。


 ふと目に入った依頼も”重白金”と”軽黒金”で必要量の最低保証価格も高い。質によっては価格が上がる旨も記載があり、真っ当な依頼であると思われた。なにより依頼者は貴族と思われ

た。難癖をつけて踏み倒そうとするようなことは起きないだろう。


 ーふむ。”重白金”と”軽黒金”か、なぜかは思い出せないが持ってるな。


 カーライルは何故かそれらを持っていた。自身の異能”収納の力”の中に。 


 以前、ミランが冒険者って儲かるんだな、と関心していたが、そんな冒険者は数えるほどで、大抵は活動をし続けないと生活すら回らない。一般人より実入りはいいのは確かだが、支出もかかるのだ。カーライルが金に困らないのは、何故か持っている貴重な品々を売却や、納入依頼の報酬によるところが大きい。なにより結構な金貨をそもそも収納の中に持っていた。


 さて依頼を受けたとして、収納の力の中に収まっている依頼品をこの場で取り出すのは、色々と面倒事が併発するので避けるべきだ。となれば今日のところはこのまま帰り、後日背負いバックなどに予め入れてから出直すべきとカーライルは考えた。もし先に誰かが納品したとしても構わない。そもそもお金に困っていないのだから。そんなカーライルの思考は、即座にメアルへの土産についてに切り替わる。


 ここはやはり食べ物、それも菓子など甘いものがいいだろうな、しかし女の子が喜びそうな菓子とはどのようなものだろうか、ここは聞き込みが必要だな、などと考えながら今度こそ外に出ようとした。


 「あの、黒髪の方、すみませんがお話いいでしょうか」


 そんな声に呼び止められるカーライルだった。

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