049 大魔導具士
時はメアル逹が王都にやってきた辺りに遡る。
アマリア王国の王城エリアにある軍関連施設、その中に兵器開発研究棟がある。その一室で複数の設計士が設計図を前に唸っていた。彼らは国中から集められた魔導具開発におけるエリート中のエリート。彼らこそが、現在開発中の新型アーマ・ドルの開発チームだった。それぞれが高名なアーマドルの設計者や、アーマ・ドル核の製作魔導具士、鎧鍛冶士、武器鍛冶士だ。
「もう少しだけでも出力を下げられないのか?陛下の仰られたとおり、現状ではアレの使用は魔力の無駄が大きい」
「簡単に言ってくれるな。 わかっているだろ。剣に魔力を巡らすのに抵抗が大きいんだ。これでも既に最低限なんだ。下手に落とすとそもそも機能しなくなるぞ。」
「予め言っとくが、剣の魔力抵抗落とすなんて無理だからな。アーマ・ドルの体も武器も魔力で作られた言わば疑似物体。一度物質化した魔力に別の目的の魔力を流し易くするのは敵の魔力物質も弾きにくくなる。つまり簡単に折れる剣になってしまう」
「出力を落とせないならダメージ戻りによる関節への負荷を鎧の工夫で吸収できないだろうか」
「考えてはみるけどね。動きにくくなっては本末転倒だからあまり期待はしないでくれよ」
彼らが話し合っているのは、先日の新型アーマ・ドルによる魔物退治にて発覚した”断罪剣”の問題点についてだ。騎士団長とそのパートナーの聖女によってされた指摘。それはダメージ反射が大きすぎて関節にも余計にダメージ入り、その回復に更に魔力が必要になる点だった。
改善会議も数回重ねているが成果はなし。”断罪剣”の魔力出力を抑えられれば確かに関節への過剰負荷は減るのだろう。だが技術的に高魔力である必要があることもあるが、そもそも高威力でなければ意味がない。必殺技なのだから。だから有効な解決法も見出だせないでいた。この日も何回も繰り返された発言だけで終わろうとしていた。そんな時、突如部屋の扉が開いた。
「ソーデン師!!」
入ってきた男は痩せていて髪もボサボサの上無精髭と身嗜みには全く気を遣っておらず、威厳を微塵にも感じさせない男だった。とてもではないが「師」と呼ばれそうな男には見えない。名はレウル・ソーデン。そう見えないのだが確かにこの男こそがここアマリア王国における技術開発の頂点である”大魔導具士”の称号を与えられている者だった。
「やぁ、君たちも頑張ってるねぇ。久々にお城に用があったから顔を出してみたんだけど、なに皆して難しい顔をしてるのかな」
「ソーデン師、実は…」
「ふーん、難しいことやってんだねぇ」
「はい、このままでも機能するんですが、陛下から改善の指示がでてまして」
説明を聞いたレウルは欠伸をしながら、視界にはいった設計図を数枚手に取った。それは魔術の流れを示す回路図について書かれていて、その回路図を眺めながらレウルはポツリ一言。
「そりゃ。そうなるわなあ」
「それで師はどうしたらよいと考えますか?」
レウルが原因を理解したとみた魔導具士が期待をこめた視線を送りながら訪ねてみると
「うーん。とりあえず回路の見直しをしたらいいよ。これは回路の問題だからねえ。で、君たち ”白重金”と”黒軽銀”もってない?」
レウルは頭を掻きながらここに来た本来の用件を切り出すのだった。
☆☆☆☆☆
残念ながらレウルの要望する品は手に入らなかった。なのでレウルにはここいる理由がもう無い。レウルは自身の研究室に向けてぶつぶつと呟きながら廊下を足早に進んだ。
「なんで一度物質化した上から強引に魔力を流そうとするのかねえ。剣に呪文掘り込んでまでしてさ。コアの容量を無駄に圧迫してるよねあれ。物質化を維持する為の魔力回路あるんだから、剣の維持回路を弄ればいいのにねえ。剣だけ維持回路の本数を増やして使用回路数の制御でやってもいいし、剣に呪文刻むより回路の導線で呪文直接刻んでもいいよねえ」
レウルは簡単に言ったが実はそう簡単ではない。今の維持回路を設計したのがレウル本人で実に効率よくできていて手を加えにくいのだ。レウルの回路に手を加えるという発想がそもそも浮かばない。レウル・ソーデンという名はそれだけビックネームなのだ。
「ま、回路をいじるのは楽だけど、作るとなると魔力抵抗やら強度やらで今の合成金では無理かな。回路が焼けないようにとなるとやっぱ”白重金”と”黒軽銀”が要るよねえ。それらを合成錬金して”透軟金属”作らないと。 こりゃ彼らが気付く前に僕の分を先に確保しないと陛下に全部おさえられちゃうなあ。 うーん依頼をだして手に入るかどうか」
急に立ち止まってため息をついたレウル。 レウルは知らない。レウルの独り言は声が大きく、注意力は散漫、それらを皆が知っているということを。レウルは素直に答えを教えてはくれない。だけど今の様に大きな独り言で答えを呟くのだ。だから今の独り言も勿論全部開発チームに筒抜けになっているのだ。




