046 メアルの採寸
今日はメアル達、女児の採寸の日。 フィセルナがメアルのドレス姿を見たいが為だけに行われる孤児院内ドレスショー。メアルだけを贔屓しているんじゃないよ。という建前で女児は全員参加だ。完全に巻き込まれた形のメアル以外の女児達だが、皆、一時でもお姫様になれると喜んでいるので、特に問題もなく準備は着々と進んでいた。
一応公平性に気を遣うフィセルナだが、そもそもここ公爵邸孤児院はハッキリ言ってメアルの為の孤児院である。メアルが皆と一緒に居たいと望んだから作られた。フィセルナがメアルを手元に置くための荒業なのだ。でなければ、自身が住む公爵邸を孤児院にする必要など全く無いのだから。
さて、メアルもこの日ばかりは朝早くから起きて……ではなく起こされて、身嗜みを整えられた。うつらうつらしながらではあったが。そんなマイペースなメアルをいつもなら見守っているニースの姿が本日はない。彼女もまた別室にて身嗜みを整えられていたのだ。
「メアルちゃんの髪は綺麗ねえ」
「まぁ、そうかしら」
「本当よ、全く痛んでいないのだもの。羨ましいわ」
「うふふ。ありがと」
そんな会話を交わしながらメアルの髪を梳かしている公爵家のメイドは感嘆していた。メアルの髪はいつだって艶やかだ。比べて他の孤児達はここに来てから清潔にはなったが、艶やかとはいかない。これは孤児達があまりに贅沢にならないようにと髪用のオイルまでは与えていないからだが、メアルは此処に来た時、既に艶やかだったとメイドは記憶している。一人だけ艶やかなのだから印象にも残るだろう。
☆☆☆☆☆
メアル達女児達とニースは一室に集められていた。子供たちは初めて入った部屋だが、窮屈どころかまだまだ余裕がある。ダンスの練習だってできそうな位に広い。
「ほう、本当にお姫様みたいじゃな。メアル」
「まぁ、ありがと。いっぱい髪を梳かして貰ったからかしら」
「そうかそうか。その編み込みも素敵じゃな」
メアル達は普段はしない編み込みをメイド達によって施されている。一番起きるのが遅かったメアルの元に孤児たちの支度を終えたメイド達が集まって、あーでもないこーでもないと、ちょっとした騒ぎなって仕上がったメイド達渾身の出来なのだ。
実はメイド達は今回のイベントで皆メアルの担当になりたがって、くじで決める事態になった。メアルは本当に可愛らしいのだ。それにメイド達は気付いている。フィセルナがメアルを引き取るために公爵邸に孤児院を作ったことに。もっともメイド達だけでなく誰でも気が付くだろう。それだけメアルの容姿は際立っている。それにメアルだけ護衛が付いているのも通常では有り得ない。 メアルと仲良くなっておけば、将来専属にしてくれるかもとメイド達が考えるのも無理はない。
「ニースさんのほうこそ、まるでお伽噺の妖精のようだわ。本当に綺麗」
メアルは目を輝かせている。ニースもそうじゃそうそうじゃろうと笑う。ニースもまた、エルフ故に極めて整った容姿している。若干出が足りないところがあるが、ボディラインが出るドレスならスレンダーでとても美しく輝いて見えるだろう。
「しかしドレスなぞいつぶりだろうかの」
「ニースさんはドレス着たことあるのね。スゴわ」
「まぁの。これでもレディじゃからな」
ニースは軽く言い放ち、それ以上は語らなかった。それでもメアルには見えない角度で少しだけ苦々しい表情を浮かべたのだから、決して楽しいだけの思い出ではないのだろう。
さて、暫し皆が各々会話を続けていると、部屋にフィセルナが入ってきた。控えていたメイド達が一斉に頭を下げたので、メアルら子供達もそれに習った。
「顔を上げて頂戴。まぁ皆可愛らしいわね。ニースさんも素敵だわ」
とっても偉いお貴族様であり、この屋敷の主人のフィセルナの登場に最初子供達は萎縮したものの、上機嫌なフィセルナの優しい言葉に徐々に和んだ雰囲気になっていった。そうなった一番の要因は何と言ってもメアルとフィセルナの会話だろう。
「メアル、今日は一段と可愛いわ」
「フィセルナお姉様は今日もお綺麗です」
「…メアル、抱き締めてもいいかしら」
メアルの返事も待たずにメアルを抱き締めるフィセルナ。恥じらいながら応じるメアル。公平性もへったくれもなくメアル贔屓なのだが、その点を突っ込める者はこの場にいない。ただデレデレのフィセルナが気難しい人ではないのは他の子供達にも伝わった。メアルを十分堪能したフィセルナはメアルの手を握りながらニコヤカにもうすぐ公爵家御用達のデザイナーが到着すると皆に伝えた。
ニースはメアルが王家の血を引いていると知っている。はっきりと聞いた訳ではないが、メアルがフィセルナの兄の忘れ形見であることも察している。今、改めて並んで立つメアルとフィセルナに目を向ければ、二人のなんと似たことか。フィセルナもハッキリ言って極めて美形だ。先入観無しで見れば手をつなぐ母子にしか見えない。
そしてメイド達も気付く。中にはメアルの血統に思い当たった者もいたが、それを口に出すような者はここに雇われることはない。只、どうしてフィセルナがこの屋敷に孤児院を作ったのか納得したのである。ひとつ言えることは、メアルは可愛らしい孤児から、ここルグンセル公爵家の”お嬢様”になったいうことだろう。もっともメアルは全く気付いていないが。
ノックの後、部屋に入ってきた執事がデザイナーの到着を伝えた。フィセルナが許可を出すと、デザイナーが数名の部下を連れて入ってきた。そして皆が違和感を覚えた。
まず、デザイナーが必要以上に緊張してる。連れて来た部下達は更に輪をかけてガッチガチだ。そんな中、只一人だけ極めて自然体な部下がいる。それだけでも目立つのだが、この者、それ以上に異質だった。フィセルナはその異質な者の顔を見て顔を引き攣らせる。何故ならフィセルナがよく知る人だったから。子供達の感想が一番的を得ているだろうか。子供達は思った。あの人が一番偉そう、と。 まず纏うオーラが違う。従う者が出すオーラではなかった。その異質な者は入ってきた誰よりも気品があり、そして美しい。そしてフィセルナに似ている。そんなどう考えても高貴なお方が制服を着ている違和感が半端なかった。
オネエサマ、なにやってるの!
フィセルナは、違和感が半端ない姉に目で訴える。
それに対し、女王ルーサミーもまた妹であるルーサミーに目で返す。ウィンクをしながら。
私もメアルに会いたかったのだもの。だから来ちゃった。てへ
姉妹の目での会話はこの場にいる皆にバレバレだったという。




