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044 新たな十傑2

 アマリア王国の大型飛空挺の存在が発覚して以降、帝国の軍務大臣アルバート・ジラフィトは多忙を極めていた。帝国の国土防衛を再構築が急務だからである。帝国軍首脳部のトップである彼は、同時に剣聖の十傑の第一席でもある。更には大臣に就任するまで一軍を率いた将軍でもあり、武功も数多く挙げている。正に文武両道とはアルバートを指す言葉だ、と言っても過言ではなかった。 


 軍部でアルバートを嫌っていたのはかつての軍上層部。自分達の席を狙っている(と勝手に思っている)存在であるアルバートを事あるごとに排除しようする程に脅威だったのだ。それ故彼は中央から遠ざけられていた。


 しかし、現皇帝レオジニアスが帝位を実父(先帝)から奪うのに協力。結果、当時の軍上層部を一掃し、新皇帝の元、軍部を掌握するに至った。それから3年、すっかり前線から遠ざかったアルバート。3年前まで帝国は、帝国の西方にある六強国ビラン連合国とのぐだぐだの争いを繰り返していた。しかし新皇帝即位にまつわる争乱と、乱れた国内の建て直しの為、侵攻の手を止めた。3年かけて国内を建て直し、いざ本格的に西へ侵攻しようというタイミングで今回の巨大飛空挺騒ぎである。アルベルトは先日行われた御前会議の日、自らの執務室に戻ってくると、椅子の背もたれに上半身を預け、天井を見上げると深々とため息をついたのだった。


☆☆☆☆☆


「閣下」


 アルベルトはどんなに忙しかろうが、早朝の鍛練は毎日欠かさない。早朝の鍛練場で剣を振っていたアルベルトが休憩に入るのを待って話しかけたのは、彼のパートナーである聖女リフュフィーヌ・リゲインス。帝国聖女の序列2位であり、帝国軍に所属する巫女、聖女を束ねる立場にある女性である。ちなみに序列2位の聖女を指す尊称は「トィーヴァ」、普段彼女は聖女トィーヴァと呼ばれている、アルベルト以外には。


 「リフィか。鍛練場まで来るとは珍しいな」

 「できれば来たくはありませんでしたわ」


 リフュフィーヌは元公爵令嬢だ。リゲインス家はガレドーヌ国建国時の功臣ディラエーヌが賜った家名で、帝国となった際、家臣の中で唯一公爵位を賜った家である。


 リゲインス家は初代以降、代々強い力を持つ聖女を輩出している、帝国にとって決して粗末にできない筆頭貴族家だった。

そんな家に生まれたリフュフィーヌもまた、極めて強い力を持つ聖女だった。


 「それは悪かった」

 「アル様が謝る事ではありませんわ。悪いのはこんな早朝に伝言を送って寄越したレムヌスのパートナーであるレネミー将軍ですもの」


 リフュフィーヌは少し顔を赤らめながら、ふいと顔を横に向けた。素直になれない乙女の様な態度をとったリフュフィーヌだが、現在アルベルトと結婚して7年目である。子供も女児2人、男児1名と夫婦仲は良好である。余談だが女児はリゲインス姓、男児はジラフィト姓(アルバートの姓)となっている。これは結婚時の取り決めで、女児は将来聖女になる可能性が極めて高いからだ。


 鍛練するアルバートに見惚れていたのを誤魔化したかったリフュフィーヌだが、成功したと思っているのは本人のみで、そんな妻をアルバートは可愛いと思った。本当に夫婦仲は良好だ。


 「で、レネミーは何と」

 「揃いました、だそうですわ」

 「ほう、決まったのか。では定例ではないが、緊急で開くか」

 「アルの予定を調整してレムヌスに伝えますわ。それで宜しくて」

 「ああ、リフィ助かる」

 「そんな笑顔を向けられても嬉しくありませんわ」

 「では、今夜にでも改めてたっぷりお礼をしよう」

 「ま…」


 真っ赤になって停止したリフュフィーヌに「朝食は一緒に取ろう。待っていてくれ」と伝えてアルバートは鍛練場をあとにした。一人残されたリフュフィーヌは暫くして再起動した。

 そして


 「どんな顔してアルを向かい合えばいいの…」


 と、澄まし顔を作れそうもない自分自身に問いかけた。



☆☆☆☆☆



 ガレドーヌ帝国軍指令本部の建物は、皇帝の住まう百世宮を含む、各宮殿がある皇室エリアから一番遠い場所にある官舎である。というのも帝国軍の主力は、歩兵、騎兵、魔導砲兵、弓兵、など兵科は多種あれど、基本的には平民から成る。もちろん騎士は騎士団に所属している。そしてレネミーが大臣を勤める軍務省は軍指令本部と騎士団を監督する位置にある。かつてこの3つの組織は、決して仲が良いとはいえなかったのだが、今は解消されている。というのも全ての長がアルバートだからだ。さすがに3つの組織を全て管理するのは物理的に不可能なので、指令本部、騎士団にはそれぞれ普段の業務は本部長代理、副団長が行っている。もっと正確にいえば騎士団の方は、更に副団長から丸投げされたレネミーとイデアが行っている。


 アルバートがレネミーからの伝言を受け取って数日後、ここ軍指令本部の会議室の一室に剣聖の高弟達、剣聖の十傑の数名が集まっていた。流石に全員が集まるにはに日数がたりなかった。ちなみに毎回場所は異なり、今回は軍指令本部だというだけのことである。現在彼らは皆無言でアルバートを待っていた。


 「待たせたな。レネミー始めてくれ」


 会議室に入ってきたアルバートは席に着くなり進行をレネミーに丸投げした。 といっても今回の件を采配したのは3剣の末席で、門弟達を管理する役目を担っているレネミーだ。当然の流れだった。 レネミーはアルバートに頷くと、第3席にいる彼より後方にある空席に視線を移し、口を開いた。


 「今回集まって貰ったのは、十席を外れたカテスの後任が決まったので報告と顔合わせの為です」


 「あー? つうか、そもそもカテスはどうした、死んだのか」


 「え」


 レネミーは思わず困惑の声を漏らしてしまった。この乱雑な物言いに驚いたからではない。上司でもあり、自分より上位に席にいる男が今回の件をまったく知らなかったからである。


 「ク、クヒヒ。笑わせなーいで頂戴、 ダイクバー、流石に無関心すぎるーじゃないん。あなた第2席の上、副団長さーまなんだからーさぁ」

 「うっせ。俺様は忙しいんだ。それより普通に話せっていつも言ってんだろ。ウェクアズ、おめえキモいんだよ」

 「あらー、死にたいのーかしらん。 あんたの死体は脳みそ以外は有効活用してあーげるわん」

 「5席のてめぇが俺を殺るっだって、つまらねえ冗談だな」

 「クヒヒ、強さってのはー、剣の腕だーけで決まるんーじゃないのよー。そのお粗末ーな脳みそでは理解できーないのね、可哀想ねん」

 「ほう、死にたいか、うざい口調を二度と聞かなくてもよくなるし、ここらでぶち殺しておくか」


 「やめんか!」


 ダイクバーとウェクアズに一喝をいれたのは、この場で一番巨体な男。名をテンドルフ・カッツァー、現在は帝国西方軍の副司令の任に就いている将軍の一人だ。十傑としては第4席であり、その巨驅から大剣を豪快に振り回すと思われがちなのだが、突剣の使い手である。そして十傑の中では一番の年長者でもある。

 

 「あーら、怖い怖いーわん」


 先程まで放出していた殺気を霧散させてウェクアズがぷいと顔を横に向けた。ダイクバーもまた興ざめだと舌打ちして黙った。


 「テンドルフ、済まんな。レネミー続けてくれ」


 アルバートに言葉にテンドルフは無言で頷き、レネミーは

口を開く。


 「元10席のカテスは、師より与えられた任務中に何者かに斬られました」


 「ん、カテスを斬った奴がいるのか。てかアイツの体は斬れるのかよ。で、カテスがくたばって新たな10席を決めたと」


 「ダイクバー兄、カテスは一命は取り留めました」


 「ま、そこはどうでもいいわ」


 二人のやり取りを聞きながらウェクアズは目を細めた。


<カテスちゃんが必死だったーから助けたーけど、剣士に戻るのーは無理だわーね。ああなっちゃーねん。クヒヒ>


 息も絶え絶えに、ヤツを殺すとただただ復習の為、生に執着したカテス。その執着故にウェクアズの治療に耐えたカテス。そんなカテスを思い出してウェクアズは嘲笑う。


<ま、復習のチャンスはーあるかーもだわねん。でも気付くかしらーね、今ーのカテスちゃんに>


 そして今のカテスを思い浮かべてウェクアズは更に嘲笑った。

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