表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/56

041 孤児院慰問3

 恥じらうメアルにフィセルナは内心悶絶していた。何て可愛らしいのかしら、と孤児院慰問が始まってから今までに100回以上思っているが、顔を赤くして俯くメアルの破壊力は本日1番だった。とは云え流石は元王族のフィセルナ。それを悟らせるような表情は一切出さない。


 そんな一幕もあり、和やかな雰囲気でお茶会は進む。メアルも最初は遠慮がちなため口だったが、ニースの独特な口調のため口に助けられて打ち解けるのは割りと早かった。


 話はメアルとカーライルの出会いとスタの孤児院での再会。何故、メアルを含むコバ村の子供達が孤児院にいるのかは、事情を知るフィセルナが上手くフォローして濁した。


 「それでメアルの騎士様は剣術を教えているのね」


 「いつの時代も男の子は聖騎士に憧れるものね」


 「冒険者時代のカール坊はぶっきらぼうの塊みたいな男じゃったんだがの。孤児院で丁寧に剣術を教えているのを見た時は驚いたものじゃ。メアルがカール坊に願ったお陰で小僧どもも騎士への道が開けたかもしれんの」


 「わたしも何故かわからないけど、カール様はお願いを聞いてくれて、一緒にいてくれるし、皆に力がつくようにって、狩りをしてお肉を何度も持ってきてくれたの」


 カーライルがいろいろ助けてくれるのは嬉しい。でも何故そこまでしてくれるのか、メアルも判らない。その恩に報いる方法も判らない。孤児のメアルには与えられるものなどないし、そもそもカーライルは何も要らないと言う。結局は、いつもカーライルのその言葉に甘えてしまう。そして、この関係が心地よくてずっと続きますようにとメアルが祈ったのは一度や二度どころではなかった。


 「まぁ、メアルの騎士様は強い上にメアルの頼みは何でも聞いてくれれるのね。素敵だわ。そんな方の教えを受けているのなら、メアルの幼馴染みの子達もきっと騎士になれるわ」


 サーランの賛辞に嬉しそうに、でも少し困ったような複雑な笑みを浮かべたメアル。リカレイやロヨイが騎士に憧れ、ずっと努力してきたのを知っている。だからカーライルに剣術を教えてほしいと願ったし、それで騎士になれたらメアルも嬉しい。しかし騎士は戦いに身を置く者だ。幼馴染み達が怪我をしたら、最悪命を落としたらと心配してしまう。カーライルから教えを受けて本当に騎士になれるかもと思うようになった昨今は、以前のように純粋に騎士への道を応援できないメアルだった。


 「なんじゃ、今になって心配になったのかの」


 「リカレイもロヨイもミランも騎士になれたら勿論嬉しいわ。でも騎士になって怪我をしたらと思うと心配になるの。もしもの話だって判ってはいるのよ。でも、騎士になったら先程みたいにカール様が守ってくれる訳ではないもの」


 「幼馴染み達が心配なのね。でも思ったのだけど、メアルの騎士様の事は本当に信頼しているのね。彼の方が余程危険な目に合っていそうだけど」


 「そういえば、メアルはカール坊には結構無茶振りするの。小僧どもを心配するのにカール坊の心配はしてやらんのか?」


 「え、もちろん心配しているわ。騎士団長様との手合わせの時も、負けるのではって気が気で無かったもの」


 「怪我の心配はしないのね。ジェイの相手に攻めさせない猛攻は新人騎士の訓練でよくやってるけど、怪我人続出なのよ。」


 フィセルナの言う新人とは登用したての従騎士ではなく、近衛になった新人を指す。当然弱い者が選ばれることはない。これはいわば近衛騎士団入団の洗礼だった。貴重な人材を怪我させるのだから、フィセルナにはいい迷惑なだけだった。


 フィセルナの話を聞いてメアルは想像する。カーライルが怪我をする……………怪我をしたカーライル……怪我を……無理だった。そんな姿は全く脳裏に浮かんでこない。ゆっくりと首を傾げるメアル。改めて想像しようとしたが、困った事にどんなに頑張っても想像出来なかった。


 「今判ってしまったわ。なんだかスゴいわ」


 「なんじゃ、何がわかったんじゃ?」


 「わたし想像しようとしたのだけど、カール様が怪我を負っている姿が全く想像できなかったわ。だからカール様は怪我をしない人だと思うの。とてもスゴいわ」


 「うーむ、確かにカール坊が怪我をしたのは我も見たことがないのう」 


 「メアルの騎士様は本当にメアルに信頼されているのね。気S団長の試練も簡単に乗り越えられる彼なら近衛騎士にもなれるのではないかしら」


 「王国騎士団長でもあるジェイから一本取れる程の者が孤児院の職員というのも確かに勿体ないわね。本人が望むなら登用試験に推薦してもいいわ」

 

 「まぁ、カール様が騎士団に」


 カーライルが騎士になれば、今までの様にいかなくなるのはメアルにだってわかる。メアルは正直それは嫌だと思った。判りやすく暗くなった表情に、フィセルナは優しくかたりかける。


 「メアル、何も今すぐの話ではないわ。今は子供達の先生で忙しいでしょうし。メアルの将来がどうであれ、その時に彼が騎士になってメアルの護衛騎士になってくれたら嬉しいでしょう?」


 とたんに表情が明るくなったメアル。そして嬉しそうに頷いた。


 フィセルナとしては2年後の聖女検査の後、メアルに資質無しなら養子縁組みして公爵令嬢する予定である。カーライルを取り込んで自身の権限でメアル専属の護衛騎士にするのは容易い。尤もその場合は王国準騎士の身分は必要ないが。そして、資質ありで聖女学園に入って、巫女か聖女になる場合でも問題はない。その時カーライルが準騎士になっていれば勝手にメアルはカーライルをパートナーに求めるだろうし、カーライルも断らないと思われる。今日の話を信じるならカーライルはメアルにぞっこんだ。


 ーあら? 先日の賭けはお姉様の勝ちってことかしら


 メアルが聖女検査で落ちるのは、正直考えにくい。となれば卒業までこぎ着ければカーラールというパートナーが自動で決まる。そしてメアルが聖女学園に行くことになって、メアルがそう望めばカーライルも騎士を望みそうだ。なるほど、姉ルーサミーはそこまで読んでいたのだろう。先の事はわからないが、先日の賭けは自身に分が悪いようだとフィセルナは認めた。尤も負けたところで困るどころか、弟子として一緒にいられるのだから何の問題もない。つまりはメアルを巫女か聖女にしてから、実は王族の血を引いていると発表するということだ。王族には出来ないが、手元に置く大義名分はできる。



 その後もお茶会は和やかに過ぎていく。メアルとたわいのない会話を楽しみながらサーランはふと気になった事を訪ねてみた。


 「メアルはとっても姿勢がいいわ。孤児院では行儀も教えてくれるの?」


 そんな訳はないことくらいわかっていたし、メアルが従姉妹である以上、サーランも事情を察していた。メアルに行儀を教えたのは母親で、その母親は王宮いたのだろうことも。果たしてメアルの答えは思った通りだった。


 「母様に教わったの。母様はとても優しかったけど、姿勢とかには厳しかったわ」


 「そう…いいお母様だったのね……ああ、そうだわ叔母様!わたくしとメアルはしちょうど背丈も同じくらいだから、ドレスを贈ってもいいかしら。わたくしメアルのドレス姿を見てみたいわ。姿勢のいいメアルならきっとわたくしよりも王女らしく見えるはずよ」


 「あら、いいわね。でも流石に今のメアルに王女がドレスを下賜するの不味いから、公爵家女の子全員分を用意するわ」


 王女が孤児にドレスを贈るのは流石に許可が下りない。一国の王女が身に纏うものは、王女だけの特別な品でなければならない。だから貴族家が真似をするのも論外である。それにアマリアの王女となれば、ドレス一着にかける金額はとんでもない額である。ただのドレスではない。身を守る魔法がかかっているし、その魔法も王族で秘匿している特殊なものなのだ。故に王女のドレスを下賜するなど、当然論外だった。


 「とっても素敵な案だわ叔母様。それならニースさんの分もお願いできないかしら」


 「はぁ?我はドレスなんぞ嫌じゃぞ」

 「わたしも恥ずかしいわ」


 「いいじゃないの。アルジ殿も喜ぶんじゃないかしら。メアルもカーライルさんがきっと喜ぶわ」


 急に発案された孤児院のドレスショー。勢いはサーランとフィセルナにあった。断ろうとしたニースとメアルだったがフィセルナの一言に思わず言ってしまった。


 「そうかの」

 「そうかしら」


 「ええ、間違いないわ」


 第二王女の一言が決定打になった。思い付きだったドレスショーは、女王も巻き込む事態に発展するのだが、この時点で誰にも知り得ぬ事だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ