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022 メアルを巡る攻防1

「だからカール様に名前をつけてあげたの」

「なるほどのう。それでカール坊はメアルに頭があがらないのか」


 カーライルの目の前でメアルが冒険者ニースにカーライルとの出会いについて話していた。カーライルは二人の会話を聞きながら頭をかいた。その仕草を見ながら更にメアルは続ける。


「ふふふ、カール様ってとっても照れ屋さんなのよ」


 咳き込むカーライル。思わず ブフッと吹き出すニース。


「ぶふ、ぐふふ。ぷはははは。メアルとは仲良くなれそうじゃのう。うくくくく」

「ニースさん。笑い過ぎだ」

「そんなに可笑しいかしら」

「面白すぎじゃ。くくく。いやすまぬの。カール坊の冒険者時代を知っておるからついの」


「いや、まだ辞めてないだろ」


 一連の会話を聞いていたニースのパートーナー、アルジが冷静に突っ込みをいれる。


「ニースさんと、アルジさんはカール様の冒険者仲間なのね」

「いや、仲間じゃなくて冒険者としての師じゃな」

「それはカール様がお世話になりました」

「ぶふ、カール坊、お主、大事にされておるの。ぷくくく」


「はぁ、正確には生存術を教わっただけで弟子入りはしてない」

「カール坊。お主大森林で死にかけたから。森の住人たるエルフの我に教えを請うたのじゃろう。我が弟子みたいなものじゃ」

「私もカール様のお母様みたいなものだから。同じね」


「ぶふ」


 アルジがついに吹き出した。笑いをこらえてか、肩を揺らしている。そして笑いが収まるとこう締め括った


「カーライル、親孝行しろよ」


 カーライルは目を細めながら、また頭を掻くのだった。



 ーおいおい、あいつら毎日居やがる。どういうことだ。


 剣聖の10人の高弟、世に名高い剣聖の十傑。その第10席にいる男カテスは苦虫を噛み潰したような表情でメアルの周囲にいる者達を見ていた。

 冒険者アルジとニースはなんと、堂々と孤児院の護衛になっていた。背後にルグンセル公爵(フィセルナのこと、騎士団長はフィセルナの興したルグンセル家に婿入りである)がいるのである。さらにその背後は女王ルーサミーが控えている。孤児院側は国の極秘任務なので協力せよ指示されれば否応はない。アルジとニースに給金を払うわけでなく、二人の食費も公爵家より払われるので金銭的には全く困らない。アルジとニースは職員のふりという体で孤児院に常駐したのである。


 カテスが孤児院の監視を始めて5日。監視初日は黒髪の男しか居なかった。なのに2日目の午前から冒険者風の男女が孤児院に来て、3日以降孤児院に毎日いるようになった。これは孤児院に住み着いているようである。


 ーこれは背後に誰か、恐らく貴族だろうが、居やがるな。師に急かされているってに厄介な


 これは一人では無理だと判断し、カテスは一時撤退を決めた。あくまで一時的な措置で諦めるわけではない。単に駒数が必要と判断しただけだった。そうとなれば行動は迅速にしなければならない。師を待たせ過ぎると斬られかねない。尤も師の支度が済まないうちに連れていったらそれはそれで怒るのだ。師でなかったらぶん殴りたい性格の男、それが今世の剣聖だった。


 カーライルはアルジとニースに揶揄われながらもここ数日感じていた視線を今日も感じていたのだが、その視線がふと消えたことにも気付いていた。いつもより早く切り上げたので諦めたかとも思ったが、自身の勘は否と告げている。こんな時、カーライルは勘の方を信じる。冒険者になってから今までの経験則で勘の方が正しいと知っているからだった。


 翌日、ここ数日毎日あった視線を感じなかったカーライルはこれは近い内に動きがあるなと思った。なのでアルジとニースとも情報を共有しておくことにした。この二人が意味もなく孤児院に常駐するはずもない実力者なのは知っている。であれば守るため、護衛するためこうしているのは考えなくたってわかる。そして護衛の対象は間違いなくメアルだ。ニースが片時も離れないのだがら正しく考えるまでもない。そしてだからこそ視線の主は諦めるか作戦を変えるかどちらかを迫られたはずだ。そして自身の勘は後者だと告げていた。


 メアルを連れて孤児院の建物に入っていくメアルとニースを見ながら カーライルは外に警戒を向けているアルジに話しかけた。


 「アルジさん。ここに来る前日、二人でこちらを覗いていただろ」

 「なんだ気付いていたのか。なかなか鋭いな」

 「まあな。で、実はあの日に感じた視線は2方向から2人づつだった。一方はアルジさんとニースさんだったのはこれで確定した」


 「そうか…何故今日それを俺に伝えた」

 「アルジさんとニースさんが孤児院に来てからも毎日視線が1つになったが感じていた。それが今日は感じていない。諦めたのかもしれないが、そうで無いなら」

 「動くか。俺は全く感じなかった。相当隠密能力が高そうだな」

 「隠密能力が高いから腕が立つとは限らないさ。でもこちらの戦力が確定したんで相応の頭数を揃えようってところだろう」

 「目的が嬢ちゃんじゃなくてカーライルってことは」

 「人から恨まれる覚えは無いな。それに初日のみ感じた視線はずっとメアルに向かっていた」

「そんなことまで判るのか。しかし恨まれる覚えは無いってよく言えるな」


 今のカーライルは愛想が悪い冒険者カーライルそのままである。この態度で冒険者仲間の内では浮いているし、喧嘩をふっかけてきた相手は全員半殺しにしている。恨まれることはしてないとはどの口が言うのか、とアルジは思う。


 「俺が知っている事は話した。そちらの事情を教えてくれ。只の孤児に二人ほどの手練れが張り付くなんてそういう依頼でなければあり得ないだろう。メアルに何があるんだ」


 「カーライル。今は視線を感じないんだな。確かか」


 アルジは嘘は一切許さないとばかりの眼光をカーライルに向けた。それは機密事項なのだと物語っていた。


 「ああ。だからアルジさんに教えたんだ」

 「そうか、貴重な情報に感謝する。俺としては何事もなくこのまま期日まで過ぎるんじゃないかとも思っていたんでな。さて推察の通り、メアル嬢ちゃんの護衛を引き受けた。10歳の聖女検査を受けるまでのな」

 「それは長期だな。相当高額な依頼料になりそうだ。孤児にそれだけのお金を掛けれるところといい。孤児院がすんなり二人を受け入れたところといい。相当な権力者か」

 「依頼主についてはあまり詮索してくれるな。でメアルを聖女検査の後引き取りたいがそれまでに拐われるのを警戒していてな」

 「そうかメアルは高貴な出か」

 「そういうことだ。他言は無用だぞ。嬢ちゃん本人にもな」


 アルジはニースが語った内容は言わなかった。教えて言い情報ではないだろうし、それを一介の冒険者が知っていると知られるのは危険と判断したからだった。教えられたカーライルにも危険が及びかねない。


 「わかった。で拐う側も知ってるんだろうな。それ」

 「恐らくな。で、拐いに来るとしたら夜か。ニースには寝るのも一緒にするよう言っておこう」

「ああ、それを頼みたかった。ニースさんによろしく伝えてくれ」

「いや、それは直接言ってやってくれ」


 アルジはニヤリと笑った。

 

「ちっ、髭親父が」


 揶揄われたカーライルが悪態をつくのを聞き、本とメアルの前と態度が違い過ぎるとアルジは思うのだった。

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