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020 閑話 アマリア女王の決断

矛盾する部分を修正しました。

ー015話のその後の話ー


 聖女の間から執務室に戻った女王ルーサミーと聖女フィセルナ。ルーサミーは興奮気味の妹のフィセルナを見ながら冷静に考えていた。まずスタにいる少女が初めの聖女の色を持っていると知っているのは本来は王位継承者のみ、故あってフィセルナも知っているが現在は姉妹とその母親、つまり先代の女王の3人だけの筈だ。先代の女王は既に引退し、政治から一切手を引いている。なので少女を、”初めの聖女”絡みを理由に保護する公表ができない。王位継承者だけに知らされる秘された情報であり、初めの聖女の情報は一切表に出せないからだ。なので保護するなら兄の忘れ形見としてになる。真偽はこの際重要ではない。しかし、本音を言えば次代の王位継承者を指名していない今の状況で候補を増やしたくはなかった。女王としても二人の娘を持つ母としてもだ。少女にはそのまま平民としてスタで暮らして貰っても正直困らないのだ。なんにせよ、まずは少女のことを調べなければならない。


 それから数日後、ルーサミーの執務室にて


「で、調べはついたかしら」


 もちろんこれはメアルについてだ。重要なのはその子が本当に初めの聖女と同じ、水色がかった銀の髪と澄んだ湖のような蒼い瞳を持っているかだ。


「もちろんよ」


 あの後フィセルナは、すぐに調査員をスタに送った。フィセルナが手を鳴らすと、扉がノックされた。ルーサミーが許可を出すと執事のクロードが入ってきた。見た目は手鏡に見える映像記録の魔導具と書類を持っていて、クロードは恭しく主に差し出し、ルーサミーはそれらを受けとった。


「さすが我が妹ね」

「陛下の貴重な時間を頂くのですから当然でございます」


 ルーサミーは受け取った書類に目を通しながら妹の用意の良さを誉める。クロードの手前フィセルナも臣下としての返事をした。読み終わったルーサミーは、今度は手鏡型の魔導具を手に取った。


 ルーサミーが鏡に魔力を通し魔導具を起動させる。ルーサミーの顔を写していた鏡面の画像が歪み、やがて別の場所を写し出した。問題の少女がに町中を歩いていてこちらに向かってくる。彼女の回りには3人の男の子がいた。少女達はどんどん近づいてきて、少女の顔がはっきりとわかる距離になった。そしてすれ違ったと思われるところで映像が終わった。


 ーなるほど、正にあの絵の聖女様をそのまま幼くした感じの綺麗な子だわ。それに確かにお兄様の面影があるわね


 確かに手鏡の少女は王家の血を受け継いでいそうだ。それに兄が初めの聖女様似だったのだ。そして、この2点は王家の血筋の正当性を示していると、ルーサミーは感じた。公表出来ないのが残念だがルーサミーは嬉しく思った。


 鏡を置くと、ルーサミーはクロードに顔を向けた。


「これの中身は確認したのかしら」

「はい、その報告書の少女の様子が写っていました」


「そう、他には」

「いえ、他に特にございませんでした」


 ルーサミーはその回答に満足そうに頷いたが、ふと悪戯を思い付いた子供のような表情を一瞬だけ見せた。その表情を見たフィセルナがクロードを下がらせようとしたが、ルーサミーの発言の方が早かった。


「疑問に思ったでしょうから伝えておくわ。ひょっとしたらだけど養女にするかもしれない子よ」


「そ、その子は一体」


「まだ、可能性の話。だから調査しているのよ。この事は……わかっているわね」


「はい、他言いたしません」


 綺麗な臣下の礼をとったクーロドに、ルーサミーはニコリと綺麗な女王の笑みを浮かべ、クロードにに下がる様指示を出した。クロードが退出し、また姉妹二人だけになるとフィセルナはため息をついた。


「お姉様、クロードが可哀想だわ」

「つい悪戯したくなるのよ。もし漏れて他の貴族が先んじて王家が養女にしたがっている子を保護してくれてもいいわね。肝心なのは連れ去れてない事よ。国外にね」


「ミリンダとサーランに知られても知らないわよ」

「ライバルにもならないわ。報告書読んだでしょ」

「おっとりでうっかりな子…確かに率いる者の資質は無さそうだわ」

「可愛いらしいけどね。それに我が娘達が少しだけ焦ってもいいじゃない。いい刺激になるかもしれないわ」


「そういうものかしら、親でない私には判らないわね。で、2年間はどうするの」


「そうねえ、女児は10歳の聖女検査までは法によりいかなる養子縁組も認められない。それが王家であってもね。2年間は保護する手段がないわ」


 領主貴族であれば、すぐには養女にできなくとも美しい子だからという理由で自領の孤児院に引き取り保護するという手が打てる。女王制の王家だからこそ辺境の街の子を引き取る理由がないのだ。無理押しは余計な軋轢を各所に産むだろう。どうにも今はタイミングが悪い。


「お兄様の忘れ形見でもあるのだから、すぐにでも引き取った方が」


「まだ確定ではないけど、それでも引き取れないわ。お兄様はもういない。王族として保護するのなら後ろ楯が必要になる。つまり私と貴女のね。それに準備も必要よ。2年後なら丁度いいくらいだわ」


「わかったわ。だけど話は通しておく必要があるわね。現時点でも引き取り希望が数多よ。調べきれていないけど、国外からもあるかもしれないわ。それに誘拐の可能性だって」


「そう、そこなのよね。まずスタには領主もなく、街内にある孤児院はひとつだけ。だから他領への孤児の移動をするには書類審査が必要になる。そこを監視しましょう。合法的な相手ならこれで牽制できるでしょう。問題は非合法の手合いの場合だけど…あ、そうだわ、フィセルナ、彼らに連絡とって頂戴」


「彼ら…ああ、彼らね。判ったわ。でもいいの。彼らに頼むのは流石にもったいないわ」


「確かに過剰だけど、表だって動けないのだもの。仕方がないわね」


 女王の判断に妹の聖女は頷いた。

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