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017 孤児院での再会

 スタの街に平和が戻って10日以上経ち、街は魔物騒動など無かったかのように日常を取り戻していた。


 その間に警護隊は放置した巨兵を回収した。しかし街の評議員達は大破した巨兵2体の修繕で頭を悩ませていた。巨兵に関しては修理にしろ、新造にしろ兵器である以上、当然ながら国の許可が要る。簡単な手続きではないし、それなりに時間もかかる。それよりなによりお金だ。国に支援を要請すれば半額程は出してもらえるが、すぐに貰えるわけでもない。しかし出来れば巨兵はすぐに修理したい。次いつ魔物が発生するかは判らないのだから当然ではある。なので先ずは修理許可が降り次第、街の予算で早急に対応しなかればならない。


 そんな街の事情など知る由もない孤児院の子供達は元気に暮らしていた。特に男の子達は今も騎士を見た興奮も覚めずに庭で稽古をしている。庭から孤児院の正面玄関は丸見えである。その日も誰か見知らぬ大人が孤児院に入っていくのを子供達は見ていた。


「あれってさ。きっと養子探しだよね」

「いい服着てたね」

「あんな裕福そうな家に引き取られないよなあ」


 子供達は知っている。彼らの目的は自分達ではないことを。そしてこの先を言う愚は犯さない。一心不乱に稽古しているリカレイやロヨイに聞かれると面倒な事この上ない。腕っぷしでは勝てないのだから。


 そう子供達は皆知っている。孤児院に来る見知らぬ大人達のほとんどが、メアルを養女に迎えたいのだという事を。


「今日もきてるんだ」

「うわっゴメンって、ミランか。もう、びっくりさせるなよ」


 子供達の会話に割って入って来たのはミランだ。一瞬ぎょっとした子供達だったがミランと知ってほっとした表情を見せた。


「ああ、ごめんごめん。でも二人には聞かれないようにね」

「わかってるって」


「にしてもメアルは8才だからあと2年は養子えんぐみだっけ?っての出来ないってのに」

「うーん、今のうちに申し出ておいて10歳になって聖女検査受けたら即引き取りたいんじゃないかな。なんか手続きもあるんだろうし」

「見た目に騙されてるよな。メアルは引き取ったら大変だぞ」

「だな。世話やけるな」

「しー! 聞こえるって」


 ミランが慌て止めた。幸いリカレイ達はカンカンと木の棒の打ち合いに一生懸命でこの一連の会話は聞こえてないようった。二人の稽古は実際に騎士を見てから更に熱心になっている。


「にしても ロヨイモリカレイも凄いよな」

「うん、二人なら騎士になれるかもだな」

「そうだね、二人ならきっとなれるよ」


「ミランも騎士になりたいんだろ」

「まあね」

「俺たちの中じゃミランって一番年上だよな」

「まあ、12歳だしそうだね」

「じゃあさ、入団試験てのうけにいくんだろ」

「ああ、適正試験だね。うん13歳からだから来年受ける予定

「いいなぁ、警護隊での適正試験っての受かったら、騎士になれるんだろ」


「ちょっと違うかな。適正試験では推薦状が貰えるだけだよ。騎士の入団希望者って多いから、警護隊とか冒険者ギルドとかそういうところの推薦状が無いと試験を受けさせて貰えないんだってさ」


「うへえ、そっからが本番じゃん」

「まぁミランなら大丈夫。頑張れよ」


「うん。ありがとう」


「俺たちは戻るけどミランは」

「僕はもう少しやってくよ」

「そっか、じゃあな」


 二人と別れたミランは木の棒を構え素振りを始めた。気性が穏やかなミランだが、孤児院の中では実はミランが一番強い。(リカレイやロヨイは認めていない)先ず年長だけあって背が高い。そして力が強い。ただミランの強さは守るときに発揮され攻める方はそれ程でもない。ミランがその気ならリカレイとロヨイ二人がかりでも捌けるくらいだ。ただ二人を倒せないので、持久戦になる。そしてミランは持久力も高い。だから最後まで立っているのはミランだ。ミランの強さはそういう種類の強さだった。


 ミランもまた騎士を目指す。間に合わないかもしれないが諦めたらそこで終わりだ。リカレイやロヨイも日々頑張っている。ミランが素振りをしている内に先ほどの来客は帰っていった。更に素振りをしているとまた別の来客が来たようだ。しかしその来客はミランの方に向かって歩いてくる。ミランは男と知り合いだった。素振りを止めてミランは久しぶりに会うその男に声をかけた。


「お久しぶりです。カールさま」

「久しいな。覚えていてくれたか」

「それはもう。忘れないですよ」


「村の事は聞いた。先ほど神殿で祈りを捧げさせて貰った」

「あ、それはありがとうございます。カールさま」

「ミランは無事だったようでなによりだ」

「ええ、運が良かったので。カールさまもお元気そうでなによりです」


「なんとか食えてる。で、さっきから気になってるんだが、そのさまっての何だ。前はそんな呼び方じゃなかっただろ」


 孤児院にやってきたのは黒目黒髪の冒険者カーライルだ。カラーライルはアンとの約束通りメアルに会いにやってきたのだった。そしてカーライルはアンとメアルだけでなくミラン達、元コバの村の子供達とも知り合いだった。


「うーん、僕としてはカールさんて呼びたいんだけど」


 歯切れの悪い答えをミランが返した時、横合いから声が掛かった。


「あ、カールさまじゃん」

「おーほんとだ。カールさま久しぶり」


「リカレイ、ロヨイ、二人も無事でなによりだった」


「おう」「まあな」


「で、ミランにも聞いたが、なんで様付けなんだ」


「あー、それな」

「そう呼ばないとメアルが怒るんだよ」


「犯人はメアル嬢ちゃんだったか」


「理由は本人に聞いてくれ。俺らも知らん」


 子供達とカーライルがしばし立ち話していると、水桶と手拭いを持ったメアルが庭に出てきた。いつものように稽古している男の子の為にだ。同然カーライルに気付く。


「まぁ、カール様」


「久しぶりだな。メアル嬢ちゃん」


 カーライルはメアルに近づくとメアルから水桶を受けとり、男の子達に渡す。


「カール様ありがと」


「どういたしまして。元気そうで安心した」


 カーライルがそう言うと、メアルは一瞬驚いたような表情になったが、突然クルッと回り、カーライルに背を向けた。無言でカーライルに何も答えない。少し両肩をあげている。これは怒らせてしまったかなとカーライルは頭を掻いた。


「メアル嬢ちゃん」


 呼び掛けにメアルは応じない。しばしの沈黙。


「……私たち…大変だったの」


 しばしの沈黙の後、メアルが沈黙を破りポツリと呟いた。


「ああ、神殿で冥福を祈ってきたよ。メアル嬢ちゃんが無事でよかった」


「全然無事じゃないもの」


「もっと早くに来てやれなくて済まなかった」


「カール様は薄情だわ」


 メアルの言い分はメチャクチャでそれは本人もわかっている。なぜこんな返事をしてしまうのかメアル自身わからないでいる。駄々っ子になってしまったメアルに男の子たちは驚いていた。ミランがメアルを嗜めるべく声をかけようとしてカーライルに手振りで止められた。


「そうだな薄情だった。それをアンに怒られてな。反省してメアル嬢ちゃんに会いにきた」


「え、アン姉様に会ったの」


 アンの名は効果覿面だった。ずっと背を向けていたメアルが驚いて振り返った。


「やっと顔を見せてくれたな。王都に向かう途中のアンに会った」


「まぁ、アン姉様は元気だった」

「ああ、とてもな。今ごろはとっくに王都に着いているだろうさ」


「よかった。心配してたの」


「そうか。アンも心配していた。嬢ちゃんが気落ちしてるんじゃないかってな」


「アン姉様…アン姉様はやっぱりお姉様だわ。カール様は薄情だけど」


「そう言うな。反省している」


「ほんとうに反省してるの」


「ああ、暫くは街に留まるつもりだ」


「暫くってどれくらい」


「そうだな、俺の金が尽きるか、メアル嬢ちゃんの気が済むまでな」


「ほんとう」


「ああ、約束しよう。だから許してくれるか」


「ええ、許すわ。約束ね」


「約束だ。よろしくメアル嬢ちゃん」


「ふふ、これからよろしくねカール様」


 気が済むまで一緒にいてくれると約束してくれて、とたんにメアルは機嫌を直した。スタに来てからメアルはずっと自分を押さえていた。おっとりたした性格とはいえ、まだ8歳の子供なのだ。そこへ甘えられる相手が突然会いに来てくれた。メアルの押さえていた感情がカーライルに爆発してしまったのだ。


「おいおい」

「メアル無茶振りしすぎだろ」

「カールさま。そんな約束しちゃって大丈夫」


 男の子達が心配は尤もだ。しかし、その心配に対しカーライルは余裕そうだ。


「ああ、この街の宿代程度なら飯付きで30年は余裕だな」


「30年って」

「すげえ」

「へぇ冒険者って儲かるんだねぇ」

「流石カールさまスゴいわ」


「で、メアル嬢ちゃん。なんでカール様って呼ぶんだ。昔はさんだっただろ」


「うふふ秘密。カール様はやっぱりカール様じゃないと駄目なの」


 そう言ってとても嬉そうにメアルは微笑んだ。

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