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013 魔を絶つ巨大なる騎士

 メアルは孤児院の窓際で空を見ていた。そしてそれに気づいた。


「あら、あれは何かしら」


 メアルの言葉に他の子供達が反応し、窓際に集まってメアルの指差す先を見た。その先には空を飛ぶ何か。


「なんだあれ」

「飛んでる」

「あれってもしかしたらヒクウテイってやつじゃないか」

「まぁヒクウテイって飛べるのね。スゴいわ」

「飛べるから飛空挺って言うんだよメアル」

「そうなんだ。ミランは物知りね」

「まあね、というか、飛空挺ってことは騎士が来たんじゃない」


「きっと魔物を退治しにきたんだ」

「すげえ、本物の騎士」


 ヨロイとリカレイが興奮気味に叫んだ。時間があれば警護隊の訓練場に勝手に出入りしている2人には、気を許してくれた隊員の知り合いが何人かいる。彼らから騎士と巫女の事を聞いて知った中に、飛空挺があった。巫女のパートナーになって、正式に騎士に任じられるといくつかの特典を貰えるのだが、その中の一つに、国が所有する飛空挺の使用許可を貰えるというものがあるのだ。飛空挺によって騎士の機動力が桁違いに跳ね上がった。今、子供達の発見した飛空挺はせいぜい馬車くらいの大きさでカヌーに羽のような板が付いた様な外見をしている。メアル達が見守る中、飛空挺は西門の方に移動すると空中で止まった。


「あら止まったわ。飛空挺って止まっても浮いていられるのね。本当にスゴいわ」


 飛空挺が動かずに浮いていられる事にメアルは感嘆した。リカレイ達に教えてもらってメアルも飛空挺の事は知っていたが見たのは今回が初めてだ。男の子達も見たのは初めてなので空中で止まった飛空挺をメアルと同様の不思議に思うだけだった。


 アンに教えてもらって作った紙飛空挺は、落ちるまで飛び続けて空中で止まるなんてなかった。だから空中で止まれるなんて、子供達には驚きの事実だったのだ。


☆☆☆☆☆


「くそ! 殺られた」


 コルド03が操作不能陥ったサントスは操作球から手を離し、巨兵とのリンクを切った。先にリンクを切ってたタジンは既に弓を手に取っている。


「こうなったら、総員で牽制し続けるしかありません。隊長」

「それしかないな。援軍が来るまで何とか死守するぞ」


 タジンが警護隊体調長に指示を仰ぎ、隊長は決断を下す。巨兵との戦いで魔物の跳躍力では街の外壁を越えれないと判断。なので警護隊総員で外壁上から弓矢で牽制し、よじ登ろうとしてきたら槍で突いて落とす、を繰り返して時間稼ぎをしようという作戦だ。


 隊長が既に外壁上にいる射手達に攻撃の指示を出そうとしたその時、誰かが叫んだ。


「飛空挺だ、援軍がきてくれた! 騎士様が到着したんだ、助かったぞー」


 その叫びはタジンが待ちに待ったものだった。いやタジンだけでなく街全体が待ち望んだ報せだ。騎士であれば魔物を退治

してくれる。緊張感から解放されて安心した警護隊隊員の中には尻餅をついてしまった者が複数居たのだった。


「やっと来てくれたか」


 タジンは、大きく息を吐きながら安堵に身をまかせて呟いた。


 大小個人差はあれど、概ね安心感に包まれていた警護隊隊員の中にあって、異なる感想を持つ者が居た。ジーキスである。ジーキスも騎士の到着を待ちに待っていたが、それは情報の為だった。ジーキスはこの為に外壁上の守備に志願していたのである。


 ーふぅ、巨兵が揃って殺られてヒヤヒヤが、志願した甲斐があったぜ。さぁて王国の人形の勇姿、じっくり拝ませてもらうぜ。


 かつて戦の主力であった巨兵からその地位を奪ったもの、今の戦の主力兵器、それがアーマ・ドルだ。その名は古代語で騎士人形を意味している。アーマ・ドルは巨兵と同じく魔力を動力として動く巨大人形兵器である。しかしながら巨兵とアーマ・ドルの間には大きな差がある。巨兵は動力たる魔力を蓄え、制御する巨大な魔導球を必要とし、更に魔導球に騎士が一時的に同化し巨兵を動かしていた。それだけでも高度な技術なのだが、高度な制御術式を用いて技術向上を図っても魔力出力の効率的な運用は難しかった。対し、アーマ・ドルの魔力の源は膨大な魔力を持つ巫女と呼ばれる女性である。巫女はアーマ・ドルの核に魔力を注ぎ、核の力を借りて自らの体を依代にして巨大な騎士を創る。巫女が魔力出力をコントロールするので魔力効率は比較にならないほど高く、結果稼働時間が巨兵より長かった。


 ちなみにアーマ・ドルの核に魔力供給をする女性をなぜ巫女と呼ぶのかは諸説あるがここでは省く。


 二者の比較に話を戻すが、稼働時間よりなにより維持経費や運用面で大きな差があった。アーマ・ドルの体は要は物質化した魔力である。実際にある物質で構成される巨兵は損耗するがアーマ・ドルにはそれがない。輸送面の差は更に大きい。アーマ・ドルの場合は騎士と巫女の二名の移動で済む。アーマ・ドルの核は巫女が身に付ける装飾具のサイズで大抵はペンダントだった。だが巨兵はそうはいかない。戦地まで分解して運び、戦地にて組立て直し、調整し直して初めて使えるのである。輸送計画にかかる手間、輸送コストや非戦闘員の技師、整備士の派遣、更に平時は保管の為の場所、それら必要となるのだ。アーマ・ドルが産み出された後、国々がアーマ・ドルに主力を切り替えるのは必然だった。


 アマリア王国は大陸に六強ありと吟われる内の一国であり六強国で最も豊かな経済力を持つ国として知られている。その経済力でもって周辺国と同盟を結び、同盟盟主国として大陸の中央に大勢力を築いた。故にアマリアの国土はここ長らく戦火にさらされていない。故にアマリアのアーマ・ドル情報ほとんどなく、その情報が得られる機会もごく僅かだ。それらの情報は高く売れるだろう。ジーキスは大金を得る僅かな機会を得のだった。



 飛空挺が止まった位置はスタの街の門と魔物の中間地点だ。飛空挺は垂直に高度を下げると、スタの外壁より少し高い位置で止まった。魔物は宙に浮かぶ飛空挺の中から命を3つ感じ取り、涎を垂らす。視線は飛空挺に固定されている。


 飛空挺の上面の蓋のようなものが空き、中から一組の男女が出てきた。二人は青地に縁が白のサーコートを着ていて男性が女性をお姫様抱っこしていた。慣れているのか女性は顔色ひとつ変えていない。そして男は女性が頷くのを見て、女性を抱えたまま飛空挺から飛び降りた。


 男が飛び降りた瞬間、魔物はそれを刈るべく動いた。同時に女性の胸の一点が光り、それは一瞬で広がって光の柱となった。目を開けていられない程の眩しさ。魔物であさえ眩しさで動きを止めてしまう程の眩さだった。思いがけない光にジーキスは掌で光を遮りながら舌打ちした。一瞬でも見逃すまいと目を見開いていた分、光をまともに見てしまったのだ。


 光が収まった時、そこには身の丈90メタ(9メートル)、巨大なフルプレート鎧の騎士が立っていた。どこか人間離れした体型の巨兵と比べれば、その体型は先ほどの男を巨大化させたようなスマートな体型をしている。それもアーマ・ドルと巨兵の大きな差で、操縦者の身体寸法を徹底的に計測した上で創られる核により産み出されるアーマ・ドルの体は、操縦者が自身の体を動かす感覚とほぼ同じ感覚で動かすことができるのだ。


 巨大な甲冑の騎士は右手にロングソードと左手にはナイトシールドを装備していた。白い全身鎧に、盾にはアマリア王国の紋章『向かい合う2人の乙女』が描かれている。騎士の持つロングソードの刀身が魔力の光を帯びて輝き出し、騎士は上段に構えた。


 魔物は突如現れた巨大な騎士に怯むことはなかった。なぜなら魔物にあるのは他の命を刈り取ることだけ。そして目の前の巨大な騎士からは命の波動を二つ感じ取っていた。ならば魔物の行動はひとつ、襲うだけだ。


 魔物は巨大な騎士に向かって駆ける。距離が縮まり魔物は躊躇無く飛びかかろうとした。


 一閃


 その動きは正に一閃だった。騎士の素早い踏み込みから繰り出された上段からの振り下ろしの斬撃は魔物を真っ二つにした。光る刀身の為か、軌跡の残光が魔物を切り裂いた様にも見えた。


 スタを襲った魔物騒動だが、アーマ・ドルの一撃で決着という実にあっけない幕切れとなった。

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