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012 魔物騒動3

 スタが門を閉ざして3日の昼。その間魔物は姿を現さなかった。住人は家に籠り出歩くものはいない。水も食料はまだ十分にあるので当面問題ないが、人々は不安の中にいた。度々魔物の脅威にさらされてきたスタの街ではあるが、ここまで長期的な閉鎖は実に20年ぶり。それだけ今までは、魔物が手に負えなくなる前に討伐できていたという事だ。そしてそんな日々に変化が起きた。


 魔物に街中が怯える中、孤児院の子供逹は今日も元気だった。といっても庭に出る許可は出ず、窓から外を見ながら騒いでいるだけなのだが。


「魔物が出たって俺たちが守ってやるぜ」

「ああ、俺逹にかかれば魔物なんて簡単さ」


 と、こんな感じでリカレイとロヨイはメアルを心配させまい、メアルにいいところを見せたい、と大言壮語を吐いている。そんな2人にミランは少し呆れているが、メアルはにっこりと微笑んでいる。


「ふふふ、リカレイもロヨイも強いもの。心強いわ」


 自身で発した強いという言葉にふと、以前出会った黒髪の少年の顔が浮かんだ。初めて会った筈なのに以前にも会った事がある様な気がした。それだけでなく彼が一緒にいれば安全という謎の安心感を勝手に感じたのだ。


 ーカール様はどうしてるかしら


 メアルは窓越しに空を見上た。曇天だが雨が降りそうな感じもしない。晴れていないのがカール様らしいと、メアルは勝手なイメージで思う。困惑気味だった少年の顔が自然と脳裏に浮かび、思わずメアルはふふふと笑みを浮かべた。そして自分が名前をつけてあげた黒髪の少年が元気でいますようにと心の中で祈るのだった。


☆☆☆☆☆


 昼頃だろうか。外壁上で見張りをしている一人がそれを見つけた。それ、即ち狼の魔物は聞いていたより遥かに大きかった。4足歩きなので外壁より高くはないが、立ち上がれば外壁の上面に前足をかけることくらいは出来るかもしれない。もし跳躍力が高いなら飛び越せるのかも知れない大きさだった。そんな恐怖にかられた見張りは急ぎ、魔物発見の笛を鳴らした。


 笛を受け、避難指示の5回鐘を何回も繰り返えされた。なんとしても魔物の街への侵入を阻止すべく、スタの街の誇る巨兵コルド02と03の2機が起動し立ち上がる。遠隔操作型の巨兵は操縦者の安全が保てるなら便利な機能を有していた。今行った様に遠隔起動ができるのだ。だから巨兵を前もって外に置いて、いざという時に操縦者は街の中から安全に巨兵を操ることができるのである。


 スタの街には東西に門があるが、今回門を閉ざすに際し、それぞれの門に巨兵を配置していた。魔物が発見されたのは西側の門で、討伐隊が逃げ帰ってきた方でもある。当然なのだろうが、万が一東門側に現れたら街に乗り込まれる可能性もある。

魔物が人の匂いにつられてやってくるなら、間違いなく人が出入りする東西の門を目指すに違いなかった。


 魔物はまっすぐスタを目指さず、どこかで寄り道をしてきたのだろう。警護隊の想定以上に大きくなっている。かつて国が有していた操縦者同化型の軍用巨兵なら問題ないだろうが、その半分のサイズであるスタの街の巨兵では4、5歳の子供が大型犬に挑むような感じになってしまっていた。


 ークソッ 騎士がくる前にやってきやがって!寄り道するんならこっちに来るのはもう少し後にしろや

 

 西側の門を守るコルド02を操縦しているタジンは内心毒づいた。声に出さなかったのは下手に声に出して、その一瞬の隙が命取りになるかもしれないからだ。魔物が恐ろしいのは魔の気配で恐怖を振り撒いたり命を刈って巨大になるだけではない。単純に身体能力が跳ね上がり、頑丈になるという戦闘力の面での恐ろしさがあった。故に既に魔物と対峙し牽制中のタジンは一切気を抜くことが許されなかった。コルド03を操るサントスが駆けつけるまで単機で持ちこたえなければならないのだ。


 狼の魔物は大きくなりやすい事から今回、巨兵の兵装を変えている。左手の鈎を通常の手に戻し、大型の盾を装備している。主兵装も短槍から長さ70メタ(7メートル)のハルバードに変えている。スタの警護隊、巨兵操縦担当者の中でタジンだけが巧みに扱える装備だ。生身であれば身長の1.5倍以上ある長柄の武器を片手で扱うなど、人間離れした膂力が必要になるのだが、巨兵であればパワーの問題はない。操縦者がそれを巧みに扱えるかどうかが問題なだけである。因みにサントスの操るコルド03の兵装は、大盾装備は同じだが武器は短槍のままだ。なお副兵装は2機とも鉄棍のままである。


 タジンは操っている巨兵より大きくなっている魔物に対峙し、街に向かおうとしている魔物をハルバードで牽制する。対し、魔物の方も行動を邪魔する巨兵を敵と認識した。これを狩らない限り壁の中の獲物にありつけない。あの中には多くの獲物がいる。あれを狩らなければならない。頭の中で何かがそう指令してくる。その指令に抗えない。殺したいという衝動が大きくなり、それ以外は考えらない。視覚で、聴覚で、嗅覚で、ともかく感じた命は悉く殺したくて殺したくて堪らないのだ。


 目の前にあるコレに殺意は沸かないが、邪魔するのであれば排除しなければならない。魔物はソレの首らしき所を噛み千切るべく瞬時に肉薄する。しかしそれは何か大きな板に遮られて達せられなかった。


 タジンが魔物の攻撃を盾で防ぎつつ、その威力に舌打ちしたくなった。その瞬発力に押し倒されないように守るだけで精一杯だった。ここまで接近されると長柄の武器は扱い。かといって今武器を切り替えるのは得策ではない。その判断を瞬時にしたタジンはハルバードを握ったままの右手で魔物を殴りつけた。


 一瞬の攻防は痛み分けといったところか。いくら巨兵のパワーをもっていても腕力だけで殴った拳にさしたる威力は無い。魔物を一瞬怯ませただけだった。魔物にあるのは他の命を奪うことと、邪魔するモノを排除すること。その命が尽きるまで痛みを感じることも無く、獲物を狩り続けるのが魔に取り付けれた命の末路だった。


 魔物が怯んだ隙にタジンは体勢を建て直し、少し後ろに下がりハルバードの間合いを取り戻した。 2撃目は同時に動いた。タジンは魔物を貫くべく突きを繰り出し、魔物は先程同様巨兵の首に食らいつこうと突進する。


 バキン!


 タジンは嫌な音を聞いた。魔物がハルバードの切っ先を躱し、木製の柄を噛み砕いた音だった。そして魔物は次に首を狙い跳躍すべく一瞬実を低くして力を貯める。


 タジンは武人として優秀な男だった。咄嗟に前に出て、盾で魔物を殴り付ける。まさに魔物が飛びかかった絶好のタイミングだった。盾は魔物の頭に直撃し、そのまま振り抜かれた。


 普通なら吹き飛んだだろう。しかし魔物は吹き飛ばなかった。首の骨が折れることも無かった。しなやかに殴られた衝撃を受け流したのだ。盾の当たった部分の皮が抉れたがそれで怯みはしなかった。盾を振り抜き無防備になった巨兵の首目掛けて襲いかかった。


 タジンの巨兵は魔物にのしかかかられ押し倒されてしまった。武器を鉄棍に持ち替えたかったが前足で押さえつけられて身動きが取れない。巨兵の力をもってしても振りほどくことが出来なかった。



 サントスは見た。魔物に押し倒されているコルド02の頭に魔物が食らいつくのを。そのまま噛み千切られて頭が宙に舞うのを。それでも足掻こうとするコルド02。魔物は己の邪魔をし、頭を失ってなお動きを止めないコルド02に対し、執拗に攻撃を加えた。頭の次に武器を持つ右腕を頭と同じように食い千切った。それは決定的な隙でもあった。対峙さえしなければ魔物は生き物ではない巨兵を敵と認識できない。サントスは今が好機とばかりに盾を捨て短槍を両手で持ち、コルド02に気を取られている魔物に突撃を仕掛けるのだった。


 サントスの槍は魔物の胸を貫く筈だった。しかし運はサントスに味方しなかった。右腕の次に魔物に噛み千切られて適当に放られたコルド02の左腕がサントスの方に放られた。そして魔物の視界に突進してくるコルド03の姿が入ってしまった。


 襲いかかってくる異物を敵と認識した魔物の動きは早かった。魔物は瞬間的に二足立ちになり、上からのし掛かるようにコルド03を迎え撃った。元々スタの巨兵より大きくなった魔物である。2足立ちになればコルド03より身長は遥かに高い。繰り出される瞬間に魔物に立ち上がられたコルド03の槍の切っ先は。止めることが出来ずに突き出され空を貫いた。


 ーしまった!


 視界が暗くなる一瞬の刹那に、サントスは魔物が口を開けて食らいつこうとしているのを見た。


 後はコルド02と同じだ。魔物は両の腕を噛み千切って無力化させた。ようやく邪魔がいなくなった魔物は視線をスタの街に向けた。街を覆う壁は高いがその中には殺すべき命が一杯ある。


 ゆっくりと街に近づく魔物。もはや魔物の前に立ちふさがるのは頑丈な石造りの外壁だけだった。

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