第1巻:補助
魔法の概要
魔法はエルフによって発明されたと伝えられているが、彼らの信仰によれば、それは神にも似た古き存在――記録には一切残されず、ゆえに今では薄く信じられているのみの存在――から授けられたものだという。その存在を、エルフたちは「森の父」と呼んだ。
世界〈ドラシル〉には、種族や地域、大陸ごとに多種多様な信仰が息づいている。この広大かつ多様な世界において、大陸〈グリンフォール〉には、ロヴクレやミンロウなど十二の国が存在し、それぞれが魔法を理解している。
魔法とは、魔力を行使する能力を表す手段であり、それによって多様な種類の魔法を生み出すことができる。その種類は広範にわたるが、基礎的な分類では水・火・土・光などの属性に集約されることが多い。
例えば火の魔法を放つ場合、詠唱を声に出すか、あるいは心中で思い描くことで力を顕現させる。ただし、心中で詠唱する方がはるかに難しい。
魔法は複雑ではあるが、先天的な適性を持つ者にとっては、呼吸のように自然な行為となる。
魔法を発動させる方法は二つある。最も単純なのは、周囲に存在する元素を利用または収束させて呪文を形にする方法である。もう一つは、自らの魔力そのものを触媒として用いる方法だ。
例えば河辺に立ち、水の魔法を使いたい場合、川の水や空気中の湿気を集めて用いることができるし、自らの魔力によって水を創り出すこともできる。後者は極めて難しく、前者が最も一般的である。しかし、火の場合は事情が異なる。火は自然界に常時存在する元素ではないため、多くの場合は人工的に生み出す必要がある。もちろん近くに火があれば、それを取り込み利用することも可能だ。
仮に、ある人物の魔力量が20だとする。その者が火の呪文を放とうとする場合、近くに火がなければ魔力を触媒として火を創らねばならず、その場合は15の魔力を消費する。もし近くに焔があれば、それを奪い取り呪文に用いることができ、その場合の消費は規模によって2から5程度に抑えられる。――これらの数値はあくまで説明のための架空の例である。
種族と特徴
世界〈ドラシル〉には数多の種族が存在し、それぞれが固有の特性と資質を備えている。ここでは、本巻に登場する一部の種族のみを解説する。
純血エルフ(真なるエルフ)
純血エルフの平均寿命はおよそ一五〇〇年に及ぶ。彼らは古の大陸〈アルファル〉の出身であり、今や遠く忘れられ、語る者も稀な地にその源を持つ。純血エルフは魔法適性において頂点に立つ存在であり、数多の伝説的英雄や強大な魔導士がこの種族から生まれた。魔法との深い結びつきに加え、自然との霊的な繋がりを持ち、長命の祝福を受けている。しかし弱点として、純血のエルフ女性が受胎可能な期間は極めて短く、十年ほどしかない。さらに妊娠期間は三年に及ぶため、生涯にもうけられる子は多くて三人程度である。
エルフ
混血のエルフの平均寿命はおよそ四五〇~五〇〇年。彼らは大陸〈グリンフォール〉に生き、人間との混血によって生まれた。純血エルフに比べ魔法や自然との繋がりは弱まったものの、それでもなお魔法適性においては他種族を凌駕する(それだけ純血の力が卓越していたことを示している)。混血化により、百歳まで繁殖可能となり、妊娠期間も一年へと短縮されたことで人口は再び増加した。魔法の力が弱まったため、徒手格闘や武器術に秀でる者も現れたが、それは少数派である。先祖が誇った強大な魔法の数々は失われ、魔力量も減少したのが最大の代償であった。
人間
人間は世界の混成種であり、平均寿命は一〇〇~一二〇年。鍛錬次第で大きな力を得ることはできるが、それは魔法分野にはほとんど当てはまらない。人間が顕著な魔法の才能を持って生まれる確率は百万分の一に過ぎない。彼らは最強の種族ではなく、水中呼吸や鋭い牙、多層の壁を通して聞き取れる耳といった特別な能力を持たない。しかし、知性においては全土随一である。学ばぬ者もいるが、物事を吸収する速さと機転の鋭さは群を抜く。もしエルフが高校卒業生だとすれば、人間は教授に相当する。圧倒的な人口と、あらゆる困難を乗り越える適応力――それこそが、人間を侮れぬ存在たらしめている。
オーク
オークは戦を渇望する猛き戦鬼にして、古の大陸〈オカディオ〉を故郷とする。命を賭した戦いにおいて、相手の動きを読み切る力は稀有であり、種族として際立っている。肌の色は緑から褐色まで幅があり、寿命は一四〇~一五〇年ほど。剣を握ろうと、素手で挑もうと、戦いにおいて彼らは覇を唱える。俊敏さと持久力は種族中随一であり、まさに肉体の極致を体現する存在だ。
古くから「筋肉ばかりで頭は空っぽ」と揶揄されるが、必ずしもすべてがそうではなく、知恵を身につける者も稀にいる。
闇のエルフ
古の大陸〈ファンダーフォール〉を発祥とし、エルフの遠縁にあたる種族。外見的特徴の多くを共有しつつも、肌は褐色に日焼けし、髪は灰色が多く、稀に金髪の者も現れる。寿命は七百年ほどで、繁殖率も高く、絶滅の危機に瀕したことはない。身長はエルフよりやや低いが、身体能力は高く、特に腕力に優れる。
自然との繋がりは、かつてのエルフをも凌ぐほどに深いが、魔法適性は乏しいため、別の手段で自然の力を引き出してきた。闇のエルフは暗黒系魔法や錬金術を得意とする。純粋な魔法勝負ではエルフに劣り、肉弾戦ではオークに及ばず、学問では人間に勝てない。しかし俊敏かつ軽快な動きと、戦場での狡猾さは侮れない。
デモノイド
角がある――説明はそれでほぼ尽きる。
コニー
寿命は六〇~七〇年。古の大陸〈カラヴァリ〉出身の兎人族で、柔らかな毛皮と長い耳を持つ。俊敏で脚が速く、農耕に長ける。顔立ちは他の人型種族と変わらず、鼻や髪も人間に似るが、耳と短い尾が種族の証。雪の季節には毛色が白く変わり、それ以外の季節は褐色である。聴覚に優れ、嗅覚も人間よりやや鋭い。
戦闘適性はほとんど持たないが、ごく稀に例外的な戦士が現れる。
ラサーティアン
寿命は七〇~八〇年。古の大陸〈カラヴァリ〉に生まれた蜥蜴人族で、かつては獣種の頂点に君臨していた。鱗に覆われた身体を持ち、水中呼吸が可能で、亜種によっては極めて高速で泳ぐことができる。沼地を棲家とする者から砂丘を越える者まで、亜種は多彩。
純粋な腕力はオークに次ぎ、霊的な魔法への適性を持つ。しかし持久力は低く、他の魔法適性も高くはない。
グリンフォール
〈グリンフォール〉には多様な土地が存在し、それぞれが固有の特色を有する。これらはあくまで地名であり、たとえば〈ロヴクリー〉はオークの住む地であるが、それは一つの国を意味しない。ロヴクリーの内部にはいくつもの王国が領土を分け合って存在し、人間の王国がそこに成立することも可能である。
一方、〈ミンロウ〉はエルフの領土であり、彼らは土地を極めて重んじるため、大陸全土を自らのものとして厳重に国境を守っている。このため、ミンロウは一国のように機能しているが、ロヴクリーはそうではない。
これらの土地の境界は、線で引かれたものではなく、地形の変化や河川・山脈といった自然物によって分けられている。しかし、グリンフォールでは度重なる争いにより、国境線が引き直されることもしばしばあった。
セレスティオス暦
〈セレスティオス暦〉は、数百年前、一人の人間――セレスティオスという名の男――によって作られた。彼は極めて精密な暦を計算し、当時人間を好まなかった他種族でさえ、その正確さゆえにこれを採用し、やがて全土の標準暦となった。
一年は四二五日。
一〇か月は三五~四五日の長さを持つ。
一週間は八日。
月(第1月~第10月)
エロリア(40日):霜覆う〈フロストヴェイル〉の中心、雪と氷風が荒れ狂う季節。
ベランドラ(40日):〈ブロッサムリーチ〉の初め、芽吹きと穏やかな解氷の時。
シネストラ(45日):〈ブロッサムリーチ〉盛期、生命あふれ自然が目覚める季節。
ダレソール(45日):〈ブロッサムリーチ〉晩期、花々が満開となり、香りが大気を満たす。
エリンドラ(45日):〈サンクレスト〉初期、日が長く暖かくなる頃。
ファエロリア(45日):〈サンクレスト〉盛期、陽光豊かで緑が繁茂する季節。
グリンドール(45日):〈サンクレスト〉晩期、温暖の極みと祭りの季節。
ヘリオニス(35日):〈ハーヴェストフォール〉初期、澄んだ夜と葉の色づきの兆し。
イリアラ(40日):〈ハーヴェストフォール〉盛期、収穫と涼風の季節。
ジョラセン(45日):〈フロストヴェイル〉、冷風と大雪の予兆に包まれる時期。
曜日(第1日~第8日)
エルドラス / ニュメラ / ヴァルトル / リオラ / サロール / ガルドリン / アルマー / ロベルタス
重要な日付
第4紀 736年
ベランドラ15日〈アルマー〉(02/15/736):タカギ到着。
ヘリオニス末~イリアラ初期(09/??/736):ハンズ、血染めの森にてタカギと出会う。
イリアラ25日〈サロール〉(09/25/736):第五章から第六章の出来事。
イリアラ28日〈ロベルタス〉(09/28/736):エルフの双子、ミンロウの都イーセモアに到着。
第4紀 737年
ベランドラ某日(02/??/737):タカギ、〈フォーリング・グリン〉とレオトゥス王国にて一年ぶりの再会。