幹部会
ラックス魔法学院中が飾り付けられ、クリスマスの時期となった。「貴族」たちは、毎年、クリスマスをラックスで祝ってからクリスマス休暇と正月休みを実家で過ごすのだが、「普通」の2人は、毎年、その前日にオルシュウレアンに帰っていた。しかし、今年はそうもいかない。クリスマスを祝う日は、午前に5年生全員で部活や委員の部長や委員長を決める最初の「幹部会」を開くので「対抗戦」に出場し、好成績を残した2人は絶対に出場しなければならなくなった。最も午前の「幹部会」が終わればオルシュウレアンに帰って、リドル家とスミス家でクリスマスを祝おうと考えていたのだが、生憎、前日から雪が収まらずスペンサーとレディが飛べないのでソフィアとビクトリアは今年初めてクリスマスをラックスで過ごすことになった。
ソフィアがいつもより遅く部屋を出るとちょうどビクトリアも部屋から出て来た。2人は固まり、一瞬、微妙な空気が流れた。
ソフィア「…おはよう」
ビクトリア「おはよう。」
ソフィアの挨拶の声で、ソフィアとビクトリアは並んで歩き出した。
ビクトリア「帰れないね。」
ソフィア「そうだね。」
ビクトリア「…朝ご飯はちゃんと食べたの?」
ソフィア「まぁ。」
ビクトリア「ん。」
ソフィア「昼から豪華らしいし」
ビクトリア「あー」
そんな話をしながら、2人は5年生が予約した空いている部屋に入るとまだアリスしか来ていなかった。
ビクトリア「おはようございます」
ソフィア「おっ、おはよう汗」
苦手でもきちんとアリスにビクトリアは挨拶をした。しかし、アリスに対して砕けた挨拶をしたソフィアに驚いた。ビクトリアが知らないうちに2人は仲良くなっていたのか、アリスもソフィアに対してソフィアを見て「あぁ」と言った。
5年生の全員が集まり、アランとルーカスを筆頭に男子が席を動かして円状にし、その中心の3つの席に最初から「対抗戦」に選ばれていた成績優秀のソフィア・アリス・ビクトリアが座り、アリスの隣にセバスチャン子爵子息がビクトリアの隣にシャーロット様とパウラ伯爵令嬢が座り、あとは各自自由に座った。
アラン「じゃあ、まずは「生徒会」だけど」
進行は、アランがしてくれることになった。「生徒会長」はほとんど誰もが「対抗戦」で優勝に導いたソフィアだと思いソフィアの方を見た。
ソフィア「私は、辞退するよ」
ソフィアの言葉にみんな驚き、ルーカスは立ち上がって「なんで⁉︎」と言い、ビクトリアも驚いてソフィアを見た。
ソフィア「私は、「図書委員」が良い」
アリス「それじゃあ示しがつかないから、ソフィアが「図書委員長」な。」
アリスの言葉にソフィアは頷いた。「対抗戦」で優勝し、優勝に導いた者は、「生徒会長」になれる権利がある。だが、「生徒会長」を辞退し、別の幹部になる選択をする権利もある。
パウラ伯爵令嬢「じゃあ」
アリス「私も「図書委員」の副委員長。」
シャーロット「まぁ、お前じゃ怖いか。」
アリス「アッ?」
アリスとシャーロット様で一悶着ありそうだったが、オリビアが「まぁまぁ」と2人を止めてくれたので、5年生みんなの視線がビクトリアに向いた。
ビクトリア「…分かりました。」
ビクトリアの言葉にみんなホッとした。成績トップ3の誰も「生徒会長」にならないとなると大問題になったからだ。でも、それ以降、ビクトリアは何も言わなかった。代わりに、ソフィアが「生徒会副会長」にアランを「生徒会書記」にオリビアを指名し、みな同意した。
最初の「幹部会」が終わり、5年生全員がどうにか役職に就き、「貴族」たちはクリスマス会の準備に行った。最後にビクトリアが部屋を出て行こうとしていた。
ソフィア「…トリちゃん。」
ビクトリア「これ以上、嫌な思いをさせないでよ!」
ビクトリアを呼び止めて立ち上がったソフィアだったが、ビクトリアの強い言葉に服の下の方を両手で掴んで俯いてしまった。
ビクトリア「もう‼︎私に近づかっ」
ビクトリアが何かを言いかけたが、ソフィアに服を掴まれて止まった。
ソフィア「…冬休みに魔法の練習を見て欲しい。」
ビクトリア「はぁー…分かったよ。」
大きくため息をついた後にそうソフィアの頭を撫でてビクトリアは言った。ビクトリアはやっぱりソフィアに甘いようだ。涙を堪えながら頷くソフィアを抱きしめて「ごめん」と謝った。
ちなみに、シャーロット様は、教会の「聖歌隊長」になり、また「対抗戦」に出場したセバスチャン子爵子息は、後輩たちの面倒を見る「お世話係係長」に、パウラ伯爵令嬢は、「音楽部部長」に、あとルーカスは、「クリケット部部長」になった。
ソフィアとビクトリアは、みんなから遅れて部屋を出て一緒に歩いて寮の部屋に向かっていた。
ソフィア「服どうしようねぇ」
ビクトリア「いつもの正装じゃダメなのかなぁ?」
ソフィア「舞踏会じゃないけど「貴族」の集まりみたいなものだからねー。」
ビクトリア「そうだよね。」
ソフィア「ドレスでも着た方がいいかな」
ビクトリア「えっ⁉︎汗」
ソフィア「シャーロット様が選んでくれるんじゃないの」
ソフィアが指差した方を見ると待っていたのかシャーロット様が談話室の前にいた。
ソフィア「じゃあ、またね」
ビクトリア「うん、またね」
ソフィアは、シャーロット様に会釈してからビクトリアに手を振って、自分の部屋に向かった。とは言え、自分の服をどうしようかとこめかみに人差し指をつけて唸った。
アリス「ソフィア」
ソフィア「アリス様!」
アリス「「様」やめろよー。」
ソフィア「すいません汗慣れなくて…」
仲良くなるために悪戦苦闘する2人。ついこの間までの突っかかっていた頃の方が仲良く見えてしまう。2人は、まだ余所余所しい。
ソフィア「…どっ汗どうしたの?」
アリス「部屋に来い」
ソフィア「えっ?」
ソフィアは、アリスの部屋でアリスにドレスを着せてもらっていた。
ソフィア「だっ汗ダメですよー汗」
アリス「卒業式は舞踏会だぞ」
ソフィア「いやいや汗」
アリス「良いから!」
ソフィア「…高いのでは?」
アリス「さぁ」
さすが「貴族」トップの公爵令嬢。金銭感覚はバグっているようだ。ドレスを見て慌てているソフィアを他所にアリスはソフィアに化粧をし、アクセサリーを選んでいる。
ソフィア「…やっぱり!汗」
アリス「あー!大人しくしていろ!」




