表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔道騎兵連隊の創設(三十と一夜の短篇第82回)

作者: 錫 蒔隆

ツヴェルフラント大公ギーゼルヘルは、頑迷固陋な因習に囚われぬ若き英主である。

ノルデン辺境伯から身を起こし、十二の諸侯領を糾合。飛ぶ鳥を落とす勢威である。

聖騎士ジルベルトは、大公の忠臣にして知友である。斧槍ハルバトを振るっては、大力無双。

金狼騎士団(きんろうきしだん)を率いては、常勝不敗。大公ギーゼルヘルの覇道王業を能く扶けている。


「ジル。魔道士どもに騎乗を教えてやってくれ」「殿、ご再考いただけませぬか?」


魔道士というのは聖教秘奥派を信奉する異端者たちで、教皇庁から悪魔認定される。

妖術を能くするために、過酷窮まりない弾圧と迫害を受けつづける選民たちである。

秘奥派を保護した大公は教皇庁との対立を鮮明にし、自陣営に魔道士を組みいれた。

教皇庁は戦争で魔道士を使役することを固く禁じているが、大公は権威を冒涜した。


魔道士の有用性については、ジルベルトも認めるところだ。だが、騎乗は認めない。

騎乗は騎士の特権である。それを魔道士に認めれば、騎士は騎士の面目を喪うのだ。

ノルデンは千里馬の産地、軍馬はあまりある。大公はそれを大いに活用すると言う。

聖騎士ジルベルトの家格は低く、大公格別の取りたてあってこその役職を得ている。

端くれといえども騎士。魔道士がごとき賤民と、騎士が同等であってはならぬのだ。


「王侯だ貴族だ平民だ奴隷だという時代は終わる。魔道騎兵連隊は、時代の尖兵だ」


主命とあればジルベルト、従うほかに途はない。大公のために、我と矜持を捨てる。

大公は奇しくも自分と同じ名を持つ少年魔道士を寵愛し、魔道騎兵連隊の長とする。

ギーゼルヘルは火眼赤髪かがんせきはつの美少年。炎の魔法に長じ、眠りの妖術にも精通している。

ただひとりで敵の百人隊を焼きつくし、百人隊を昏睡させる抜群の大魔道士である。


ジルベルトは主命に従い、ギーゼルヘル以下千人の魔道士に騎乗を調練していった。

魔道士らは呑みこみが早く、難なく千里馬を乗りこなす。魔道騎兵はたやすかった。


魔道騎兵連隊は、大いに戦果を上げた。騎士の機動と弓兵の射程を兼備する新戦術。

縦横無尽の傍若無人な無敵の兵団は、鎧袖一触で教皇庁を攻めほろぼしたのである。

ツヴェルフラントは帝国となり、大公は皇帝を称する。連隊長ギーゼルヘルは宰相。

聖騎士ジルベルトは元帥として、軍を預かる。開明的な治世が訪れるはずであった。


帝国宰相ギーゼルヘルが皇帝ギーゼルヘルを弑逆し、ギーゼルヘル二世として即位。

辺境平定中であった帝国元帥ジルベルトは憤怒、金狼騎士団を率い帝都へ殺到する。

その途上でほかの騎士団を糾合し、ジルベルトの報仇軍は五万余にまで膨れあがる。

対する魔道騎兵連隊は、結成時から変わらぬ面子の千人のみ。多勢に無勢の蟷螂斧とうろうふ

ギーゼルヘル二世は帝城外へ打ってでて、魔法の陣城を発現させてそこへ逼塞する。

円形の魔法城は、これまで彼らが殺してきたむくろの骨肉で紡がれている。腐臭が漂う。

ランスチャージも投石も、腐肉を四散させはする。散らせたあとから、腐肉が湧く。

不浄の城は形を変えつつ形を保ち、魔道騎兵は腐肉の城壁上から騎士らを見おろす。

城壁上で馬を走らせ、下へ向けて魔法を放つ。腐肉にたかる蝿の群れを、虐殺する。

理力が尽きた魔道騎兵はスロープで城壁下へ下ろし、理力十分な魔道騎兵と替わる。

無為の突撃を繰りかえす騎士どもを、順繰りに効率よく魔法で薙ぎはらってしまう。

ジルベルトはギーゼルヘル二世の炎撃を受けて焼死、報仇軍はひとりのこらず全滅。


新しい世が始まる。旧来の支配層が下層となり、虐げられてきた者らが権勢を得た。

ギーゼルヘル一世がめざした万民平等の理想から乖離した、暗黒と絶望が到来する。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 法で平等を定めても、社会が受け入れる準備がなければ、どえらいことになってしまうことがあるようです。 [気になる点] 連隊長が宰相で、騎士が元帥なあたり、内政はどうなっちゃってるのか心配にな…
[良い点] 「ギーゼルヘル二世の治世が始まった」とはしていないラストが趣深いです。 下剋上。万人の万人に対する闘争。これもまた平等の一つの形ですね。 命の値打ちを決める社会の形が壊れた、という結末。…
[一言] 無情ですね。 思い描いた美しい未来図をにぎわす人物が、みんな同じ方を向いてるとは限らない。 ギーゼルヘル一世は後世で、愚王なんて言われてしまうんでしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ