『言言言言乃波は他人に優しい』
006
「さっきぶり。今帰りですか。」
なんて他愛もないありふれた日常フレーズを言う。
本当忘れてしまうほどに他愛もない台詞。
「あっ。崩無ちゃん。うん。今帰り。委員会ちょっと長引いちゃったから少し遅くなっちゃった。」
と少し驚きながらも、他愛もない台詞で返してくれた。
なんだかこの一文を聞いただけでも節々から人柄の良さが滲み出ているような気もする。
「へぇ。そうなんですか。あれ?そういえば何処の委員会に入ってたっけ?覚えてなくて御免。」
ここでされげなく(さりげなくではなかったかもしれない)聞いておこう。
今しか無いこともないけど聞いておこう。
そして別に要らない情報かも知れないが、これからずっと分からない思ってしまうと少しながら歯痒い気持ちになる。
聞いて損は沢山人生でしてきたのだろからこんなもの誤差。
人生暇潰しだ。
「図書委員長だよ。本好きだからね。」
優しい口調、優しいイントネーションでいつもの様に答える。
基本聞いたら疑問も持たずに答えてくれる。拒否したことなんてあったかなんてわからない程だ。(多分無い筈だ。あってもオブラート過ぎて気付かないだろう。)
と言うか図書委員長で正解だったのか。良かった。なにが良かったのか分からないけど。
その解答を頂いた対価なのか(違う。ただ聞きたかったのだろう。)逆に言言言から質問を被せてきた。
「崩無ちゃんはなんで帰り遅かったの?」
下駄箱から靴を取り出しながら言った。
純粋無垢に。
数学の補修とか断り切れずに掃除を押し付けられていたとかの嘘が多々思い付くけれども本当のことを言うのは少し迷った。
迷ったせいで隣の人の靴を取り出してしまった。
でも本当のことを言おう。
碧南じゃあないのだから。
他者の秘密事項はしっかりと保守してくれる物分かりのいい人。
あっ。でもこの事件に碧南が関わっているのは少し問題だな。
こう。真摯に謝ってくれたのはいいのだけどアイツはポロっと言いふらす危険性があるからなぁ。お前が悪いのに。
大分心配だ。明日、碧南が言いふらしそうになったら全力を持って止めにかかろう。早めに学校に行こう。そう決めた。
そんなのに比べては失礼なくらいいい人だ。
話しても一ミリも害なんて発生する余地なんてない。
言言言を信じよう。
言言言なら素晴らしい助言と言う付属品が付いてくるやも知れない。
そうなることを期待しよう。私はそれにレイズする。
まぁ最悪(最悪なんてないないか。リスクゼロだ。)「それは災難だね」で済む。
安心材料はある。
不確定だが。いや外す確率は低いそう思った。
だから私は言言言にこの事故と言うべき出来事を私目線で語った。ちゃんと聞き終わるまで静かになにかを考える様に聞いてくれた。
「それは…。酷すぎるね。私がそうなっていたらどうしようもなかった気がするよ。」
同情はしてくれたけど(それだけで十分だけど)解決策はくれなかった。
何でもできる完璧少女に期待しすぎるのもよくないか。
全てに期待されて、全てが出来るなんて人間じゃない。
ヒューマンエラー顔負けだ。
いや、でも彼女も完璧美少女らしいけど失敗する。
何百回に一回と。ほんとに正確なくらい何百回に一回。しかも重要なところではない。
少し不自然さが否めないが気にするまでもない。自分が気にし過ぎなのかもしれない。
まぁいいか。
「そうかぁ。明日、地獄に落ちるしかないか。」
なんて冗談交じりの事で返答した。
九割は、いや、100%くらいはさ本当だろうけど。冗談が比喩表現か。
私の価値観的に地獄と言うのは肉体的な苦痛が多いイメージがある。針山、釜茹で、etc。「大道絵」みたいなことしか想像できない。
これは私には耐えることが出来る程に非人間的ではない。
だが、教師に呼び出されて注意を受けるくらいじゃあ響かない。物ともしない。
これじゃあ注意されても反省しない奴だが、何故なら彼女は優しいだけで非情な少女。
優しさの根源は非情だが、暴力にはどうやっても抗うことど出来ない。
言うならば中途半端。
完全な非情なら良かったかもしれないな。この先を考えるならば考えてもしょうがない。そういう人間なのだ。
「そんな落ち込むことないよ。元気出して。」
慰めの言葉をかけてくれた。
優しい。
こんな聖人みたいな人といたら自分が言言言に依存しそうだ。
それくらいに優しくみえる。
そういって優しさを振りまいた直後にチャイムが鳴った。
「キーンコーンカーンコーン」と言う聞きなれたやつだ。これが最終チャイムなのだろう。私はギリギリまであの冤罪を晴らすことをしていたのか。(晴らすのを諦めたけれども)
もう日が暮れている。
「早く校舎から出ようか。いつまでもいたら怒られるかもしれないからさ。」
それは勘弁して欲しい。時間の無駄だし、また怒られるのは憂鬱だ。
学校出ても、学校前で喋っている奴らがたまにいるけど迷惑だよね。
チャイムは「帰れ」って意味だと思う。
だから私と言言言は足早に学校の校門の外に出た。
やっと帰れる。
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