『放何故崩無と這入込乃々程缶』
004
その音は4音節。漢字で書くと3文字。
その短い言葉に希望に満ちたように聞こえた。
でも、分かるが言っていることは分かるが、懐疑的である。
「私です…か………」
シリアス感で言ってみた。
まぁ後部座席に横たわっている姿ではシリアス感など軽減、ほぼ無いといってもいい。ダサくも見えるかも。
「私だよー、君なんだよー。円死光致死率100%を掻い潜った奇跡に等しい君なんだよー」
そう褒められた。褒められたんだよね?
「だから助けた……。いや、それは後付けかな。目の前に血溜まり作っている女の子がいたら助けようとするよねー」
それは当たり前だ。当たり前過ぎて言うことないくらいに。
たが、この携帯電話もインターネット接続出来ない状況下に助けも呼ばないし、周囲に医療用キットやAEDもない。あったら私が回収している。
「でまぁ。ギリギリだねー。ギリギリ。自分が発見したのが後1、2分遅れていたらここまでの回復はあやし〜ところだねー。だからと言って完全な回復はしていないよー。さっきみたいに身体を起こすと痛いからー。ほら、君の体に無数の線が繋がれてるでしょー。」
嗚呼。これか。胸とか太腿とかおそらく背中にも取り付けられているこれ。周囲にも散在している。そして、それを取り付けるために服を剥かれ四捨五入で半裸状態な私。
何だろうかと(AEDのようなものかな?でも全くの別物であるのは確かだろうかとは分かる)スルーしていた。でも、話の流れ的に聞いていいだろう。素朴な疑問としてきく。
「何ですか?これ」と。その線を掴んで。
「それはねー。蘇生装置。いや、大してそんな能力はないよ?名前だけ大層なだけ。蘇生なんて何分の一の確率でしか成功しないのだよー。それでも軽傷ならモーマンタイな能力値。重症でも時間をかければ治る代物。嗚呼。その部位が治癒すれば自然とその線は外れるから身体が変なふうにならないと思うよ?そこら辺の安全装置はちゃんとしているはずなんだけどーどーかなー?」
「どうかなぁ。って少し怖いのですけど。」
「大丈夫。大丈夫。安全性は後輩が確認した………。はず。」
数秒の沈黙。
はずって不安を駆り立てるなぁ。
ああでも、そんなには心配していないよ。
「ところで、こんな便利な技術があるのに世間で広まっていないのでしょうか?」
と考えなしでいう。
考えなしでも分かる。これは便利過ぎる道具だ。
革命がおきる。医療革命が。
もしかして、もしかしたらもう私が知らない所で革命が起こって一部医療機関で実用化されているのかもしれない。
一般的に知られていないだけかもしれない。
あれ?変なふうに結論付いた。
多分違うような結果なのだろう。
「あー。うん。まぁ。これが試作品だからだよー。」
仮説は無効となった。
もっと根本的な問題であった。
売り出してもないから出回る訳がない。当たり前。
出回っていたら密告している裏切り者がその中京円研にいるのだろう。でもそんなことはないいい会社なのだ。いい会社と言ってもついさっきまで名前を聞いたことある…くらいの認識だったのだが……。
まぁいいか。だが、試作品というのは聞き逃さない。私はその試作品を試される実験台だ。いい気がしない。
で、実験は成功したのかな?まぁそれを使うしかないくらいにボロボロになっていたことは覚えている。骨は少なくとも折れ、出血多量だったろう。
私は程缶さんに感謝すべきなのだろう。
感謝する感情はないけど……。
適当に「は、ははっ……」と苦笑いで済まし、受け流す。
まぁ笑っているのは口だけだ。目は死んでいる。
「でもさー。一度商品化にまで案がまとまっていたのだけどねー。薬局とか病院とかの医療機関に相当に圧力をかけられてしまってねー。残念ながら断念したんだー。それでも開発をやめるには惜しいから引き続き研究してんだわー。で、これ言っていいのかなー。あー。別にいいかー。もう他人ではないのだしー。……………。あれ?自分は君の名前を聞いていなかったなー。このままずっと代名詞で言うのは嫌だよー。名前も知らないなんて少し気分が悪いから教えてくれるー?」
これ言っていいのかなーとは何だろうか。嗚呼。話がそれそうだ。
確かにそうではあるなぁ。相手の名前を知らずに話すと言うのはさ。いい気はしないだろう。
程缶さんが名乗る時言っておけばここで聞きたい話を遮らないでスムーズに言っただろう。
いや、でも聞かれなかったし……。まぁこれは露骨な言い訳だな。聞かれたら答えよう。知られて都合が悪いほどのものではないし、都合が悪かったなら言われない。でも、今は別に都合は悪くない。かと言って都合がいいわけでもない。嗚呼。なんかよく分からなくなってきた。都合、都合と使い過ぎて。まぁとにかく名乗ると言うことだ。
「放何故崩無です。放出の放に、何故ならの何故で、放何故で、崩れ無いで崩無です。」
と、丁寧に漢字まで説明する。
仰向けに不可抗力で寝そべっているから丁寧さのかけらも感じ無い。その寝そべっている私を程缶さんはバックミラーで確認できるので丁寧な口調だけだ。
「んー。放何故崩無……。崩無ちゃんねー。何だか凄く語呂がいい名前だと思う。」
利医紗ちゃんに続き程缶さんにも語呂がいいと言われた。いや、その前からもだ。
でもまぁ。利医紗ちゃんは「野比のび太みたいだね」と言う不名誉な、そう言ったら失礼かもしれ無いけど、少なくとも名誉であると言うことはない。そのキャラクターの行動やイメージの悪さが払拭できない。
放何故崩無。
野比のび太みたいだねとは言われたが、自分ではわりかし芸術点の高い名前であると感じている。
以前の、と言うか生誕当時の名前、病宮崩無よりは美しいと思っている。
語呂がいい。これもまた認めざる事実であったりする。
「で、自分は名乗ったけど、漢字の説明した方がいいのかなぁ………。」
と私が説明したばかりに説明しようとする。
まぁいいのだけどね。
「じゃあ説明していくよー。大分にややこしいけど、いたらな説明かもしれ無いけど気にしないでねー。這入込乃々程缶ですー。這入乃々の這入は、うーん。これが一番説明しずらい。這入るの這入なのだけど……。言うにしんにょうに、入江の入りなんだけどー。嗚呼あれだ。這いよれ!!ニャル子さんの這だよ。」
「はぁ。分かります。」
這入るね。小説家が粋な感じで書くアレね。
「分かった!それは助かる。自分いつもここで手こずるからさー、あとは簡単だよー。その這いよれの這に入江の入りをつけてやっとこれで、這入と読みまーす。それに込み入るの込で、えーと。例えが思いつか無い。あー。中野ニ乃の乃で分かる?」
「ん?」
「駄目かー」
程缶さんがアニメとか漫画好きなのは分かった。
私はあまりついていけ無い話だ。創作物は嗜むことがなかったからね。読んでも夢野久作とかかなぁ。最近のは滅多に読ま無い。ニャル子さんを知っていたのは矢張り奴張子碧南だった。
「あっ」と閃いたような声を出す程缶さん。でも、直様「いやぁ〜」と難色を示す。
でも決めたようで
「乃ちの乃なんだけど分かる?わかんないかー。でもこれ以上例えが分から無いー」
「嗚呼。分かります。」
「知ってるのー!!」
と驚きの口調で言った。
これは小説で知った。昔の小説は何かと難読漢字を使ってくる。私のなかの難読漢字の情報源の四割はあまり読ま無いのに小説である。残りの六割は言言言。
「それデー。した名前ねー。これは苗字に比べりゃ単純よー。程よいの程に、空き缶の缶で程缶。以上。程缶課長とでも呼んでほしいねー。分かったかなー。崩無ちゃーん」
私の呼び方は「崩無ちゃん」で固定されているようだ。利医紗ちゃんと同じく。それはいいとして、
「えっと……。程缶課長って?なんでですか?流れというか私たちの仲的に違う気がしますけど……。」
会社の序列を表す課長という役職をつけて呼ぶなんて違和感のほかでもない。違和感の塊だ。
その会社の社員でもないのに。
「違わなーい。違わなーい。崩無ちゃんには自分が働き勤めている中京円研に入社してもらう予定だけどー。嗚呼。勿論のことながら拒否権などないですよー?」
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