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少女黙示録  作者: 狩川藍
03『自分のことは他人がよく知っている。だって世間は君を表面でしか見ていなく、それが全てだからだ』
19/43

『放何故崩無は再開する』

002

比愛病(ひめや)先生?」

冷静沈着な口調であったがそれに似合わず何十m離れた相手に届く様な声量で言い放ってみせた。

私は半年ぶりくらいにその名前を口にした。 

現状からしても思っても見なかったし、この惨状を見れば余計その名を口にするとは思っても見なかった。

それ以前にその名前は記憶から消えかかっていた。

命の恩人、肝臓癌の治療をなさってくれた恩方を忘れるところだった。失礼どころか最低である。奴張子碧南と肩を並べるほどクズであると言えるのかもしれない。いや、クズの種類が違うか。まぁそういう奴だ。私は。それでも、一目見た途端に(後ろ姿、遠目であっても)記憶が蘇ったようだった。でも、その言葉、名前を言っても懐かしさと言うのは感じられなかった。

それは責められるべきではない。最低であっても。

人間は不利益は永遠に覚えているだろうが、利益は忘れてしまうのだ。何かやって貰っても感謝一つで済んでしまう。最低でもたった5文字の日本語「ありがとう」で。利益に対する支払う対価が少なすぎると思うのだ。

だから忘れる。でも、自分が不快感を被ると覚えてる。

だから人間は永遠に不幸なんだろう。

幸福が連続して初めて幸せを信じることが出来る。永久に幸せを注ぎ続けなければならないのだ。幸福エネルギーというのがあるのなら摂取効率が悪すぎる。もはや地球温暖化を促進していますと謳い文句にするほどだ。

それが人間というのだから滑稽、滑稽、滑稽にもほどがある。

だが、そんな私ではない。

利益が出てもただの幸福。

不利益が出てもただの不幸。

ただの現象としか根本的に思っていないのではないのだろうか。当たり前。そこにあるだけにしか見えないと。

非人間的である。自分で言うのも何なんだが。

だから本当は、本当はなんていう必要はなかったのかもしれないけれど、肝臓癌を治療されて恩義を全くもって感じていない。そう言い切れる。

ただ治して貰っただけ。ただそれだけ。

そんなふうにしか思っていなかったのだろう。

だから記憶にも残りにくい。

興味も関心も感謝もなかったのだから。

だとしても、予期してかは分かりかねるが、目の前にいる人物が恩人となるのであれば声をかけなければ失礼にあたる。

その上名前を忘れていたのであったならもう罰当たりもいいところだ。名前を思い出したのだからいいのだけれど。思い出していなかったらもうどうしようもないとしか言えない。

その名前を呼べば、巨大な青色の正方形の機械らしき物の近くにいる人間は、

「あっ。あれ。は……烏有己(うゆな)ちゃんじゃあないの。半年ぶりくらい?元気してた?あれ?そもそも何で生きてんの?奇跡?」

と、この一歩謝れば怪しい状況下にあるまじき陽気さで反応を返したのだった。何故私が生きていることに余り驚くことがないのか?が不思議には思うのだが、会えてよかったと思った。

「あれ?名前違うよ?」と開口一番に言われるかもと要らぬ心配をしていたがどうやら比愛病で合っていたらしい。そんだけ言っときながら名前を間違えては格好がつかないけどね。まぁいいさ。

相手は覚えていてくれたのだ。半年ぶりで、ただでさえ医者で毎日大量の患者と接待するのに。

出会い頭に放った一言はなんだが高齢者が孫やら子供やらに言いそうな言葉ランキング上位に入っていそうな返答だ。

とは言っても比愛病先生は二十代後半。即ちアラサーであると。31歳以上でオバサーで、おばさんだと、だから私はお姉さんだ。そう言われた。まぁ見た感じはまだ普通にお姉さんに見える。

そのお姉さんに

「元気です。半年前より健康です♪」

貴方のおかげで元気ですと、言わんばかりに言う。

比愛病先生は建前や虚偽を破るのが得意であったがそう言っておく。何かある訳でもないし、ただただに感謝しているだけであるから破られても問題ない。

「そしてなんで生きているかわかりません。」

実際そうだ。不自然たらありゃしない。こんなに不自然な人間はこの世で私くらいしかいないのではないだろうか。

「……。」

黙られた。至極当然。

何秒か経ってちょうど5秒くらい。

「まぁ。致死率100%の災害で生きているなんてうちからしたら研究対象でしかないのだけれど、不気味で仕方ないね。うん。嗚呼でも、不気味だから触れないって訳じゃあないよ。研究したいよ。好奇心がバックあげよ。でもね、烏有己ちゃんを研究しようと連れて帰ると色々めんどくさいんだよね。その損失分の利益は補えるだろうが、その少ない損失が結構な痛手になるから‥ってことなんだけど…」 

………。

嗚呼。変な雰囲気が流れた。

余り私のことなのに触れない方が良さそうだ。

そして、話を逸らすように、

「で、ここで何してるんですか?」

と比愛病先生に焦点をあてて聞いてみたのだ。

巨大な青色の正方形の機械らしき人物の近くにいるだけで怪しいのだ。もしや「円死光」の起爆装置だと考えもおかしくはないはずだ。恐ろしい考えだろうとは分かっている。それでも最初に思い当たるのはこれだろう?

だって荒廃した名古屋市にいるのだ。犯人は必ず現場に戻ってくるとも言いますし。

まぁここで判断してしまうのはただの愚か者。

話も聞かずに決めつけるのはアホの所業。

言い分を聞かなくてはと。そう考えていると比愛病先生は言い始めた。とは言っても一言、一単語だけだ。

「調査。」といっただけである。

調査?調査員?ここを調べにか?

でも、医者が本業なはずで…。

???

「調査だよ。ピンときてないような感じかね。円死光被災地の現地調査。医者であり研究調査員であるからここにきた。両立してんだよ?どっちも給料もらっている。結構もらってるよ?あー。話がそれたね。うちの癖だ。あぁ。烏有己ちゃんの思っている不幸な事は何にもないよ。この青い機械が円死光の起爆材であるとか、うちがこの名古屋を荒廃させた犯人であるという超展開はない。そんなラスボス的存在はいないし、この世は物語の様に精巧に、精密に作られていないのだよ。寧ろやめて欲しい限りだ。そんな超展開は。ついていけない。この機械の側にもいたくないし、大量殺害、大量破壊の趣味はない。そう言う罪を犯してしまう前にいたたまれない気分になるさ。でも、こんなのは証拠でもなんでもないけどね。まぁでもさ、個人的には烏有己ちゃんと再会できたことには幸福だね。個人主義のアメリカ社会の様な考え方であるけども。まぁあれだ。久しぶり元気してた?あれ?さっきもいったか。」

と、矢張り陽気である。

なるほど、そうなのか。信じてみよう。命の恩人であるからとはなんら関係はないよ。勿論。

「比愛病先生はちょっと抜けてるとこがありますね。」

「そうですよ。烏有己ちゃん。中国の工事並みに抜けてるところがあると言われ時があるとかないとかないとか。」

どっちだよ。

曖昧すぎる。

たが、

「どっちかよくわかりませんが、比愛病先生。一応言っておきますが、抜けている以前に違うことがあります。」

「そうなの?そらあ悲劇だね。」

「いや、悲劇と言うほどではありません。半年前の、そう言わず私が入院していた頃にはよくある話でした。比愛病先生には言っていない事ですし、知ってたなら尚更怖い話ですから。」と冷めた、そうではないな。呆れた、誰に呆れたかはわかりかねるがそんな感じの演技で言い放つ。

「それは安心する。景気の悪い国で生きるより。」

本当この人皮肉が多い物である。一言吐けば皮肉。二言吐けば皮肉。それくらいの頻度で出てきてそうである。

それはいいのだ。伝えなくては。結局はどうでもいいのだが、しかしねぇ。

「あの。比愛病先生。私の名字。烏有己じゃあないんですよ。今は。」

「あー。うん。えっ?へっ?また?」

なんて素っ頓狂な返事を返してくれたのだった。






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