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君と始める異世界黙示録  作者: 樹希柳唯
第一章 終末の異世界
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第一章 08.『異変』

 この世界は瘴気に侵されている。


 それは留まることなく広がり、やがては全てを呑み込むという。

 国々の英傑たちが力を併せても、数千年という歴史の中で解決の糸口さえ見つからない未知の現象。今なお、世界を蝕み続けている本物の厄災。



「……世の中の人たちは、どうしてるんだ」

「どうもしません。と言うより、どうもできないが正解ですね。だから、奪えるところから奪って、いらないものは切り捨てて、ひたすら逃げ続けるんです。世界が瘴気に呑み込まれるその時まで」



 瘴気でその土地に住めなくなれば他の国から土地を奪う。それができない力のない国は、国民という自らの肉を切り落としていく。まるで勝者のいない椅子取りゲームだ。どんどん減っていく椅子を、我先にとみんなで奪い合っている。最期には誰も座れなくなると分かっているのに。



「吞み込まれるのは、いつなんだ?」

「大陸が全て瘴気に覆われるのは、二百年後とも四百年後とも言われています。ですが、正確なところはわかりません。今まであった瘴気溜まりが急に膨張することもあれば、何もない大地から突然瘴気が吹き出すこともあります。それに、穢レを放置すればやがて瘴気を生み出すといわれていますので、そこまでくると予想なんてしても意味はありませんから」

「穢レって、でも、守護者ガーディアンがいるんだろ?」

「確かに過去、守護者ガーディアンが穢レに負けた戦いは殆どありません。だからと言ってこの先も穢レをどうにかできるかは別問題なんです」



 何事も絶対はないという話だろうか?

 だがどうも違う気がする。 



「どういうことだ?」

「穢レと戦って生き残れる守護者ガーディアンは半分もいないといわれています。戦いから生きて帰ったとしても、その半数以上は戦闘の怪我や後遺症で年内には亡くなるそうです。日常生活に戻れた者の中で、次も守護者ガーディアンとして戦える者はほんの一握りだと、話をよく知る人からそう教わりました」

「――」



 あまりに手詰まりな状況に絶句してしまう。


 守護者ガーディアンなんていう核級の戦力が命がけでなれば倒せない超級の怪物――穢レ。

 守護者ガーディアンが倒れれば、それは終末時計の針が進むことを意味する。

 そして、そんな人々の抵抗をあざ笑うかのように瘴気は世界を蝕んでいく。

 

 軽く考えていた訳じゃない。

 でも想像が足りなかった。



「なーんて、ちょっと脅かし過ぎちゃいましたね」

「――へ?」

「童話を元にって言ったじゃないですか。そんなに不安に思わなくても大丈夫ですよ。瘴気が~穢レが~なんて、昔から言われていますが、実際にその手の問題が表面化したことなんて殆どありませんから」



 先ほどまでのシリアスな感じは演技だったというのか!?

 セフィリアも人が悪い。きっとエッッなお姉さんや、年齢不詳ギャップおじさんに甘やかされたせいだろう。

 

 謎の先生のモノマネの時もそう思ったが、容姿といい演技好きといい、元の世界なら女優とか向いてる気がする。



「正直ちょっとびびった……」

「カナメは怖がりですね」



 彼女はこういうが実際は残酷な事実というやつなんだろう。

 ただ、にこやかにお茶を飲むセフィリアを見ていると聞く程重い話では無いのかもと思えなくもない。



「そうかもしれないな。けど、話を聞いてみて改めて思ったよ、穢レかもしれないならそりゃ問答無用で攻撃にもなるって」

「その節は本当に――」

「あーそれはもういいからさ! じゃなくて話の続き。俺があそこで穢レに間違われたってことは、あの黒いのが瘴気ってことであってる?」



 危ない危ない。終わった話を繰り返すなど、ノンデリに引き続き嫌味な奴というレッテルが増えてしまうところだった。あれは誰も望まない事故で、避けることもできないものだった。

 そもそもだ、召喚されたばかりのカナメには過去を気にしている暇などない。今を必死に生きなければ明日をも知れない。つまるところ変えられない過去にグチグチいうよりお勉強が優先という訳だ。



「はい」

「じゃあ、あのバケモノが忌獣キジュウ? ソーンさんがあっさり倒してたし」

「あっさりではないんですけど、カナメを襲ってたのが忌獣キジュウです。でも、穢レなんて数百年に一度とかの話でしたから、私も皆んなもびっくりしてました」


 

 そりゃびっくりするだろう。瘴気の中から人が出てきたんだから……ん?



「何で俺は穢レにならないんだ? 人によっては大丈夫とか?」



 ふと思う。瘴気に入り浸っていたこの体は大丈夫なのだろうか?

 傷や粘膜以外なら大丈夫ですとかって場合でもダメな気がする。

 霧の中で目開けてたし、息してたし、怪我したし。

 でも今何ともないし、個体差とか何かしらの理由で案外大丈夫だったりするのか?



「いえ、瘴気にせよ穢レにせよ、触れたり触れられたりすれば必ず穢レになります」



 必ずなるらしい。



「え? もしかして俺、この後穢レになるとか?」

「それは大丈夫です。記録には、瘴気に触れたり、穢レに触れられた場所には瘴紋と呼ばれる痣ができ、そこを中心に肌が徐々に死人色に変化、最終的には穢レになってしまうと記されています。全身くまなく探して、カナメに瘴紋がないのは確認してますので安心してください」



 別の意味で安心できないワードが出てきた。

 全身くまなく? 一体だれが?

 もしかして、セフィリアが!?

 それなら流石にお嫁に行けないぞ!? 



「わ、私じゃないですからね! 私じゃ瘴紋の判別なんてできませんから!」



 体を隠すような素振りで見やると、セフィリアが慌てて否定する。


 

「えっとーじゃあ誰が?」

「ワタシだ」

「ソーンさん!?」



 なんだソーンさんか。

 いやソーンさんなら良いのか? 

 じゃなくて何故ここにソーンさんが?

 じゃなくてソーンさんでもダメだろ!?



「――ゴニョゴニョ――」

「――? あぁ、そういうことか」



 ソーンの私が見た宣言になんて返したらいいか戸惑っていると、セフィリアがソーンさんに耳打ちで何かを伝え始めた。



「大丈夫だ、」



 耳打ちで何かを悟ったソーンがカナメの肩に手を置き語りかけてくる。

 このパターン、嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか。



「女のようなキレイな体をしていたぞ」



 ヤマト・カナメは、異世界に召喚されてから最大の精神ダメージを受けた。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




「で、ソーンさんは何故ここに?」

「堅苦しい奴だなお前も。ソーンでいい」



 なんか、昨日よりテンションの高いソーンさん。

 心なしか顔色もいい。



「なんか、テンション高いですねソーンさん(・・)



 あえて尊称を強調してやる。

 決して精神ダメージを受けたからというわけではない。普通に考えて恩人であるソーンを呼び捨てなどできるわけがない。というかしたくない。



「昨日のソーンはかなり無理をしていたんです。今日だって休養を取るように村のみんなから言われていたはずなんですけどね?」

「そう責めてくれるな。それよりも優先すべきことがあったのだ」



 身体を気遣わない親を窘めるような、ともすれば些細な日常のようにみえるやり取り。しかし、そういうソーンの目はどことなく遣る瀬無さを滲ませていた。



「ソ、ソーン! カナメが、カナメが見てますから!」

「おぉそうか、それはすまなかった」



 ソーンさんに頭を撫でられ顔を真っ赤にしているセフィリア。

 そんな彼女の白髪を愛しむように撫でる褐色の手。

 見守るような黄玉色の瞳からは優しさや愛情といったものがこれでもかと溢れている。


 

「言っても聞かないんですから、まったくもぅ」



 うれしさ半分、心配半分といったセフィリアの表情。

 あまりにも似ていない二人の、一目見てわかる深い絆。それは多分、詮索すべきことじゃない。

 セフィリアとってソーンさんは大切な人で、ソーンさんにとってもセフィリアは大切な人。それが分かれば十分だ。



「それでだ、ヤマトカナメ。お前に話が合って来たのだ」

「えっと、なんでしょうか?」



 黄玉色の瞳に真っすぐに見つめられる。

 美女に見つめられるだけでも緊張するのに、敬意を抱く相手に改まって言われると小学生の入学式より緊張するレベルだ。



「お前は召喚者だと聞いたが」 

「はい」


 

 どんな重要な話が飛び出るのだろうと、そう思った矢先――、



「――!!」

「――?」



 くすんだ金髪が翻り、明後日の方角を向く。

 その唯ならぬスピードと尋常ではない雰囲気に、そっちに何かあるのか? なんて冗談を言える余裕はなかった。



「すまん。話は後だ」



 そういって目にも止まらぬ速さで診療所を飛び出してしまった。

 何か良くないことが起きたのはわかる。そしてその何かは、続く悲鳴で直ぐにわかった。



忌獣キジュウの群れだぁぁぁぁぁああああ!!!!」


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