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君と始める異世界黙示録  作者: 樹希柳唯
第一章 終末の異世界
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第一章 06.『何だかんだでようやく』

 


「ユーファ姉さん!? そんな勢いよく開けたら扉が壊れてしまうじゃないですか!」

「ご、ご、ごめんね? 穢レかもしれない奴とセフィが一緒だと思うと気が気じゃなくて……それに――」


 

 颯爽と登場した桃髪トラウマのお姉さんだが、次の瞬間にはオロオロと慌てふためいている。最初の威勢はどこへやら。



「それに何ですか!」

「あぅ」 



 なんか、孫に嫌われそうになって慌てている祖母みたいでこれまた居たたまれない。

 こうしてみると、妹思いのお姉さんなんだなと思ったりもする。

 怖いのは変わらないけど。

 正直まだ直視できないけど。


 いや。

 いつまでも、マイナスな印象を引きずるのはよくない。不幸な事故で過ぎたことなのだから、互いに手を取らねば赦しはなくなり、いがみ合いだけが残ってしまう。


 よし、あの恐ろしい魔術も大切な妹を守ろうとした姉の想いだと考えれば、美しい姉妹愛のように見え……! 見えっ! …………見えないっ!

 どうやっても無理だ。土槍は土槍だ。美しさのかけらもない凶器だ。


 落石の真下にいる自分を想像してみてほしい。怖いだろう? しかもその岩が、先端鋭利化という殺意MAXなオプションを追加しているのだ。普通にトラウマだと思う。


 溜飲が下がるどころか今更ながらもうちょっと優しい殺し方でも良かったのではと不満レベルが1上がる結果に終わる。

 なのでここは二人の会話を眺めるだけにすることにした。



「すぐに言い訳するのは姉さんの悪い癖です! どんな大義名分があったとしても、結果として今回は私たちが加害者で、カナメは被害者なんです! 第一、カナメは穢レでも穢人でもない。そう結論が出たはずです。それとも……私とソーンの言葉では信用できなかったんですか?」 



 最初の剣幕で既にタジタジだったトラウマさんは、信用できないかと問うたセフィリアの続く悲痛な訴えにとうとう何もできなくなり、涙目でカナメに助けを求めてきた。



「うぅ……」



 そんな目で見られても無理です。可愛いとか可哀想とかより恐怖が勝つんです。

 というかこの間に割り込むのは一高校生で部外者なカナメには少々ハードルが高すぎる。非情な決断だが、ここは甘んじて説教を受けてもらおう。触らぬセフィリアに祟りなしだ。


 カナメは顔をそ逸らし、本件は自分の手には余りますと言外に伝える。


 途端、翡翠の瞳が訴えてくる。薄情者と。


 無茶だ。横暴だ。カナメだって一応はチャレンジしてみたのだ。

 一見すると少女がプリプリと怒っているという可愛らしい表現が似合いそうな場面。だが彼女の目を見た途端に印象ががらりと変わる。


 本気なのだ。目力が強いとかではなく、訴えてるようなその眼差しを見てしまえば、彼女の想いに割り込もうだなんて思えるわけがない。



「姉さん、どうして目を逸らすの?」

「ぁぅ、ぇと、その、はい。ごめんなさい」

「謝る相手は私ではありませんよね?」

「そうよね? わかってるわ。だから、ね? 怖い顔しないで?」


 

 セフィリアがいつもの穏やかな顔に戻ったのを見て、安心したようにこちらに向き直ったトラウマさん。

 あの時、カナメを殺そうとしていた時の氷のような冷たさは見る影もない。



「誤解とはいえ――」



 おしとやかな所作で腰を折り謝辞を述べるユーファさん。

 その姿を見れば、先ほどまで感じていた恐怖はほとんど消えていた。

 今なら彼女を真っすぐに見られる気がする。


 桃髪のボブヘアー。少しつり目な翡翠の瞳。

 肉感的な体を真っ赤なスレンダードレスに包んでいる。ただ、


 深いスリッドから覗く太股。

 中心が大きく空いた胸元、そこからこぼれてしまいそうな大きな果実。

 ドレスに包まれていると表現していいのか大いに疑問が残るほど危うい。

 ぶっちゃけ目に毒すぎる。


 その上から羽織っている黒い羽で作られたショールのような物のおかげで、辛うじて衣装のように見えるのが唯一の救いだ。

  

 こうして改めて間近で見てみると、なんだかポンでエッチなお姉さんというだけな気もしてきた。



「いきなり攻撃して、その、ごめんなさ――おい。誰がポンでエッチなお姉さんだ?」



 腰を折った姿勢はそのままで、首を傾けながら能面のような顔でこちらを睨んでいる。



「――!?」



 どうして!? なんで!? 口に出してなかったよな!? というかその顔怖すぎる!!



「えーと、ユーファ姉さんは、向けられた異性の心の一部がわかるんです……」



 セフィリアさんの遅すぎる解説で、失言したわけじゃないことはわかったが――、


 その格好でそれは健全な男子キラーすぎる! これは罠といっても過言じゃない!

 というかこれは不味い。ユーファさんの目が本気マジだ。 

 顔を赤くして俯いてる場合じゃないよセフィリアさん! せっかく助かったのに、ここでられちゃうって!



「人が誠心誠意謝ってるっていうのに何考えてんだてめぇ? 劣情に塗れたクソ猿がぁ! セフィから離れ――きゃう!」



 カナメの異世界ライフに、怒れるお姉さんが終幕を下すと思われたそのとき、ゴンッと一発、痛そうなチョップが桃髪の脳天に落ちた。



「いつまでも来ないと思ったらこれだ」



 矢倉にいた三人、その最期の一人。

 異世界で出会った中で唯一の男性だ。ちなみに悲鳴を上げて逃げて行ったガチムチな誰かは忘れました。


 橙色の瞳に薄い金髪。

 不健康そうな蝋燭じみた肌だが、カナメ見る限りでは二十代後半に見えなくもない。

 ぶっちゃけ、顎髭と目元から口端付近まで深く刻まれた皴、それと低くしわがれた声のせいで正確な年齢がわからないというのが本音だ。



「フリートォォォ~」



 頭を押さえて蹲るユーファさん。めちゃくちゃ痛そう。


 

「ユーファレッタが迷惑をかけた。俺はハルフリートだ。今回は色々とすまなかったな坊主」


 

 喋り方もオッサンぽくはある……ほんとに何歳なんだ、この人?



「あーその件は大丈夫です。先ほどお二人から、今ハルフリートさんから謝罪までしてもらったんで。もう気にしてません」

「そう言ってもらえるとありがたい。でだ、村長がお呼びだ。いろいろ思うところもあるだろうがついてきてくれ」

 


 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆




 村の中心にある大きなベルテント。そのテントが村長兼、セフィリア宅らしい。

 

 他が木製の簡素な家なのを見ると、豪華というかオシャレに見える。

 ちなみに、最初にいた場所は村の診療所で、医師はセフィリアらしい。


 中に入ると、民族的な飾りがたくさんのランプに照らされていた。

 うん、やっぱりオシャレだ。というか異文化感が半端ない。



「来たか、少年」



 大きな座布団のような物の上で、立てた右膝に腕を乗せて座るソーンさん。

 ラフに下した左手のおかげで、辛うじて股が隠れている。


 改めて思うが、目に毒な女性が多い気がする。

 男として嬉しいと思うのが半分、経験のない高校生という性質を持つカナメからすれば、刺激が強すぎるというのがもう半分だ。 



「ハルフリート、ユーファ。少年とセフィの三人で話がしたい。悪いが席を外してくれるか」

「了解した」

「わかったわ」



 ユーファレッタさんが素直に言うことを聞いているところを見ると、この人がリーダーなんだと思い知らされる。


 二人が移動している間に、セフィリアが人数分の水を木でできた湯呑のようなものに入れて持ってきてくれる。

 何も飲んでなかったことを思い出したとたん急に喉が乾いてくるのだから不思議なものだ。



「まずは座って喉を潤すといい」



 顔に出ていたのか、ソーンさんが気を使ってくれている。

 ソーンさんの前ではしたない振る舞いはしたくないが、如何せん喉の渇きが限界なので、ここはお言葉に甘えていただくことにする。


 テーブルを挟んで座り、一杯、二杯、三杯と飲んでようやく落ち着いてくる。


 隣に座って四杯目を注いでくれるセフィリア。

 彼女も自分のコップを取り二人揃って水を飲む。

 

 この超絶美少女とのプチ新婚体験を通して確信した。

 セフィリアは将来絶対良いお嫁さんになる。



「遅かったが、セフィと子作りでもしてたのか?」

「ぶーーーー!」

「ブッ、プッ!!」



 邪な妄想をしているときにタイミングよく飛び出た思わぬ一言。

 少年は盛大に吹き出し、少女は口元を押さえたせいで却って被害が悪化していた。

 


「ゴホッ! 何言ってるんですかソーンさん!?」

「ゴホッ! エホッ! ソ、ソーン!? 何をいって!?」


「冗談だ。大方ユーファが原因だろう」



 ソーンさん。冗談になってませんよ?

 だってほら? セフィリアがフードの中に隠れてしまってますよ?


 両手でフードの端を押さえ、またも太陽はお隠れになってしまった。



「あのセフィがな……まぁ、ゆっくり辿っていけばいい」

「辿る?」 



 辿るって何をだろうか?

 大人たちが歩んできた道をだろうか?



「いや、冗談が過ぎた。少年、名は何という?」

「大和 枢です。カナメが名前で、別に大家の出とかでもないので好きに呼んでもらって大丈夫です」

「そうか。ヤマトカナメ」



 好きに呼んでいいとは言ったけど、まさかのフルネーム。まぁいいんだけど。



「今回の件は、本当にすまなかった」



 手をついて、テーブルにゴツンと鈍い音を響かせるほど深々と頭を下げるソーンさん。これで異世界に来てから四度目の謝罪だ。



「それはもういいです! 気にしてないですから、顔を上げてください!」

「いや、気にしないとダメだろう?」



 何を言ってるんだこいつ? みたいな表情で首を傾けている。

 それはそうなのだが、なんか理不尽だ。



「あれは不幸な事故で、皆さんに悪気があったわけじゃない。謝ってもらったし、俺はこうして五体満足! みんな無事なんだから笑って明日を迎えた方がいいですよ!」


 

 目を丸くしているソーンさん。何か変なことを言っただろうか?

 言ったとしてもこれが素の大和 枢なので、受け入れてほしい。

 拒絶されたらこの先が不安過ぎる……。



「ヤマトカナメ」


「はい」


「お前でよかった」


「俺も今は、異世界で最初に出合えたのが皆さんで良かったと思ってます」



 やっぱり、この人は出来た人だ。そんなソーンさんを慕って付いてきてる村の人たちも、多分皆んな良い人たちなんだと思う。


 

「異世界か。そうか……ならばせめてもの償いという訳じゃないが、行く当てがないならこの村にいるといい。不便はあるかもしれないが、歓迎させてくれ」



 願ってもない提案だ。



「俺の方から土下座でお願いします! 木こりでも荷物持ちでも何でもしますので、この村にいさせてください!」 



 異世界召喚されて、死にかけて、殺されかけて、何だかんだでようやくだ――、

 ヤマト・カナメに初めて居場所と呼べる場所ができた。


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