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その少女、闇に魅入られて  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第6章 真相
57/69

057 過去

 


「お願いです! 次は頑張りますから許してください!」


 暗闇に飲み込まれた奈津子が見たもの。

 それは中学二年の自分だった。

 自分の部屋で(ひざまず)き、必死に訴えている自分。

 相手は考えるまでもない、父だった。





 そうだ。成績が落ちた時、私はいつもこうしていた。

 激高する父には、どんな言い訳も通用しない。例え高熱で試験に集中出来なかったとしても、それはお前の甘えだと言われ、余計に「指導」の時間が長くなった。

 だから自分には、こうするしかなかった。手をかけられることはなかったが、しかし父の機嫌を損ねれば、全裸で風呂場に連れていかれ、頭から水を何度も浴びせられていた。


 そんなことを思いながら、奈津子は(ひざまず)く自分を見つめた。


「全部私の驕りが招いた結果です。明日、いえ、今から心を入れ替えて頑張ります」


 そんな奈津子を見下ろす父、明弘。開けられた扉の向こうには、正座してうつむく母、陽子の姿もあった。


「駄目だ。お前はいつもそうやって、何とか私の指導から逃げようとする。それでも私は、お前はまだ精神的に未熟な子供だ、しっかり指導すれば前向きに勉学に取り組むと思い許してきた。

 だが奈津子。二年になってから、お前の成績はどんどん下がっている。塾の時間も増やしたし、家でもお前は、睡眠時間を削って勉学に勤しんでいる。確かにお前の中に、慢心があったのは事実だ。しかしそれを考慮しても、今のお前の成績は下がりすぎだ」


 下がったって言っても、学年で10位以内には入っていたんだけどね。

 俯瞰(ふかん)しながら、奈津子はそう思った。


「お前の驕りだとか慢心だとか、最早そういう次元の話ではない。そもそもの、お前の能力の問題だと私は悟った」


 そう言って、明弘がネクタイを外す。


「私は子供の頃から優秀だった。そして自分に厳しかった。おかげで一流大学に入り、今は一流の商社で働いている。周囲の者も、私が優秀だということを理解している。

 そんな私の遺伝子を受け継いだお前が、こんな無様な結果しか出せない訳がない。いつもそう思い、お前に厳しく接してきた。いいか奈津子、全て、お前の可能性を引き出す為なんだ。お前にとっては辛いことかもしれないが、父さんはお前のことを思えばこそ、厳しく接しているんだ」


「勿論です。私はお父さんにいつも感謝しています」


「だが……お前には私だけでなく、母さんの遺伝子も交じっている。私が選んだ妻だ、決して不出来な遺伝子ではない筈だ。だが……それでも私に比べれば、劣っていることを認めざるをえない」


 そう言って陽子に視線を送ると、陽子はうつむいたまま静かにうなずいた。


「だから私は決めた。お前の遺伝子に上書きすると。私の優秀な遺伝子をお前に注ぎ込むことで、お前の能力は更に高みへと向かう筈だ」


 そう言うとワイシャツを脱ぎ捨て、陽子の元へと放り投げた。

 陽子はワイシャツを手にすると、その場で丁寧にたたむ。


「さあ奈津子。私を受け入れるんだ。お前が次のステージに進む為に」


 奈津子の腕をつかみ、力任せに引き上げる。


「嫌! お願いやめて!」


「聞き分けなさい奈津子! 殻を破るんだ!」


「嫌、嫌! 助けて、助けてお母さん!」


 奈津子が必死に抗う。しかし父の力に逆らうことが出来ず、そのままベッドに引きずられていく。


「お母さん、お母さん!」


 泣きながら母に懇願する。しかし陽子はうつむいたまま微動だにせず、小声で「……お前の為なんです。お父さんの言う通りになさい」そうつぶやいた。


 その言葉に、奈津子は愕然とした。

 体中の力が抜ける。


 その奈津子の上に父が覆いかぶさってきた。

 これから何が行われるのか。それを考えると恐怖で壊れそうになった。


 奈津子は何度も「お願いです、お願いします! 許して、許してください!」そう叫んだ。


 しかし。

 やがて。


 その願いは打ち砕かれた。


「嫌あああああああっ!」




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