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その少女、闇に魅入られて  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第4章 壊れていく日常
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046 手掛かり

 


「ごめんなさい、奈津子。辛い思いをして、苦しんでいるあなたにこんなこと……本当は言いたくない。でも私」


「いいんだよ、玲子ちゃん」


「奈津子……」


「実はね、玲子ちゃんが言おうとしてること、おじいちゃんにも言われたんだ」


「宮崎のおじさんが」


「うん。ほら、前に玲子ちゃんに相談したでしょ? 小太郎が死んだ時に」


「……宮崎家にまつわることかな」


「そう。私が経験してること。それをひとつひとつ書き出していったの。何者かの意志が働いているんじゃないか、関係ないと思えることにも、何か共通点があるんじゃないかって」


「それは……物の怪(もののけ)とか、妖怪の存在を考えるってことかしら」


「おじいちゃんはそう言ってた。でも正直、突然妖怪の話をされても、訳が分からなかった」


「そうよね。でも……私もね、奈津子の助けになればと思って、図書館にも行ってみたの。でも、説明出来る文献には出会えなかった」


「ありがとう、玲子ちゃん。大変な時だったのに」


「私には……これくらいしか出来ないから」


「そんなことないよ。今だって私、玲子ちゃんのおかげで気持ちが軽くなってるんだから」


「どういうこと?」


「あれからもずっと、視線に悩まされているの。今だってそう。誰かが私をずっと見てる。

 正直言って、ちょっと気持ちが折れかけてた。一日中、どこにいても私は見られている。逃れることが出来ない。

 この感覚……息が詰まりそうって言うか、心が休まらないって言うか……何が目的なのかは分からない。でもこの視線の持ち主は、間違いなく私を狙っている。私の何かを奪おうとしている。そして小太郎や亜希ちゃんはきっと、その巻き添えになったんだと思う」


「奈津子、あまり思いつめない方がいいよ。原因が全て自分にある、そんな風にも考えてほしくない」


「ありがとう。でもね、そうやっていくら自分を慰めても、何も解決しないと思ったの。自分を守る為にも、そして周りの人を守る為にも、私はこの問題に立ち向かわなければいけないの」


 そう言った奈津子の瞳に、玲子は圧倒された。


「……でもね、そんな威勢のいいことを言ってみても、本当のところでは疲れてた。何度も諦めそうになった。どうなってもいいやって思ったこともあった」


「奈津子」


「でも玲子ちゃんが来てくれて……すごく安心してる自分がいるの。だからありがとう、玲子ちゃん」


「……奈津子は本当に強いね。どうしたらそんなに強くなれるのかしら。そんなあなたに出会えて嬉しい。あなたと友達になれて、本当によかった」


 玲子が奈津子の手を握る。その力強さ、温もりが嬉しかった。

 奈津子もその手を強く握り締め、小さくうなずいた。


「玲子ちゃんに……見てもらいたいものがあるの」


 そう言って、神代風土記を差し出す。


「これって……」


 玲子がつぶやく。

 受け取った手が少し震えていた。


「何だか……ものすごい存在感を感じるわね」


「まあ、かなり古いものらしいから」


 そう言って奈津子が笑った。


「ついこの前まで、この本の翻訳作業をしてたの」


「と言うことは奈津子、これを全部読んだの?」


「何とかね。よく分からない言葉もあったけど、それでも大方解読出来たと思う」


「こんな古いものを一人で……すごいね」


「この本、おじいちゃんから借りたの」


「宮崎のおじさんから」


「うん。なんでもこの本、先祖代々受け継がれてきたものらしいんだ」


「じゃあこれは、そういう(たぐい)の物ってこと?」


「翻訳したデータはパソコンに入れてるんだけど、読み返してみて分かったの。これは言ってみれば、昔この国にいた妖怪たちをまとめたもの」


「妖怪のことが書かれた書物……」


「生活様式や寿命、人間にどんな災厄を与えるのか。そして弱点なんかも詳細に書かれていてね、結構衝撃だった」


「……何だか身震いしてくるわね。聞いているだけで」


「ここに書かれていることが真実なのか、それは分からない。ひょっとしたら、娯楽として語られていたものをまとめただけなのかもしれない。でも私はこの中に、今の状況を打ち破るヒントが隠されているような気がしたの」


「そうなんだ。でもすごいね、こんな昔の書物を解読しただなんて」


「追い込まれていたからだと思う。それに……このまま何もしなかったら、私の周りでまた、不幸なことが起きてしまうから」


「奈津子……」




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