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その少女、闇に魅入られて  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第4章 壊れていく日常
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041 真相を求めて

 


 この子は本当に強い。宗一が強く感じた。


「奈津子。お前にもう一つ、話しておくことがある」


 宗一の雰囲気に気付き、奈津子も姿勢を正す。


「はい……」


「今回のことは、本当に残念じゃった。辛かったと思う。出来る物ならわしも、これで話を終わりたい……じゃがわしは、お前の祖父としての責務を果たそうと思う」


「はい。お願いします」


「お前の周りで起こっている事件。わしも色々調べてみた」


「何か分かったの?」


「いや……結論から言うと、何も分かってはおらん」


「そう……なんだ……」


「じゃから今、もう一度お前の口から聞いておこうと思う。今のお前には辛いことかもしれんが、わしにとって、お前はたった一人の孫なんじゃ。お前を守る(すべ)を見つけたい。何とかしてお前を守りたいと思っておる」


「ありがとう、おじいちゃん。その言葉だけで、私は一人じゃないんだって思える」


「すまんな」


「ううん、謝らないで。それに……おじいちゃんはきっと、こう思ってるんだよね。私に起こってることが、前に話してくれた宮崎家の(ごう)に関係あるって」


「ああ、そう考えた方がいいと思う。そうでないことを祈ってるが、それはあくまでも願望じゃ。そんなもんにしがみついて、後で後悔するのはごめんじゃからな。最悪の事態を想定するべきじゃと思っとる」


「私も、おじいちゃんと同じ意見だよ。でも、そう考えることが怖かったの。

 突然妖怪の話をされて、そんな摩訶不思議な存在に立ち向かわないといけないのかって思ったら、流石に躊躇しちゃって……でもそれじゃいけないんだって思った。

 私も早く解決したい。真相が知りたい。だからおじいちゃん、協力してください」


 そう言って頭を下げる奈津子に、宗一は微笑み頭を撫でた。


「お前が気付いてる限りでいい。これまで起こったこと、もう一度教えてくれるかの」


「うん……」





 奈津子がこれまでの異変を語る。

 両親の事故死、強い視線。転校初日に落ちてきた蛍光灯、部屋に残されたメッセージ。小太郎の死、丸岡の死。そして亜希の死。

 時間をかけてゆっくりと、少しでも状況が伝わるように。宗一は何度もうなずきながら、時折新聞広告の裏にペンを走らせた。


「……なるほどな。これだけのことが、この僅かな期間に起こっていたのか。よく耐えてきたな」


「そんなこと……全部私の目の前で起こったこと、それは事実だよ。でもね、私が直接何かをされたことは一度もないの。むしろ、私の周りで(わざわい)が起こってるようで、みんなに申し訳ないと思ってる」


「確かにな。異変のスタートとなった事故では、お前も当事者の一人じゃった。じゃが、あれだけの事故にも関わらず、お前の体には傷ひとつなかった。他のことにしてもそうじゃ。全てお前の目の前で起こっているが、お前が被害にあった訳じゃない。と言うか、紙一重で回避してるようにも見える」


「……」


「丸岡の(せがれ)の時も、お前たちの目の前に岩が落ちてきた。あと数歩立ってる場所が違っていたら、岩はお前の上に落ちていた。そういう意味では、お前はついとったのかもしれん」


「でも」


「その通りじゃ。それは楽観的すぎる。都合のいい解釈にすぎん」


「……だね」


「お前に向けて残されたメッセージは二つ。それはこの異変が続くことを宣言してるともとれる」


「うん……」


物の怪(もののけ)の存在。滝で話を聞いた時には五分五分じゃった。じゃがこの事件が、そんなわしの考えを打ち砕きよった」


 そう言って宗一が指差した先には、小太郎の名が書かれていた。


「小太郎の死に様。お前に聞いた時、すまんが信じることが出来んかった。じゃが、玲子ちゃんも同じことを言った。いくら動揺していたとは言え、二人揃って同じ妄想をするとは思えん。じゃからわしも信じることにした。そして考えた。

 小太郎の死に関して、正しく説明出来る人間はいないじゃろう。切断された首を残して、体だけがお前の元に歩いてきた。しかも小太郎の顔を見る限り、苦痛も感じている様子はなく、自分がどうなってるのかさえ認識していなかった。あり得ん話じゃ。

 玲子ちゃんの解釈を信じるとすれば、ほとんど厚みのない何かによって、一切の苦痛も感じさせず、一瞬の内に首が切断されたことになる。そんなことが人の手で出来るとは思えん。あの事件はな、奈津子。わしら人間の常識で説明出来るものではないんじゃ」


「私もそう思う」


「そんな芸当が出来るものがおるとすれば、それはわしらが出会ったことのない何かじゃ。物の怪(もののけ)とか、そういう(たぐい)のものじゃ」


「……」


「わしはさっき言った。お前は全ての事件、紙一重で回避しとると」


「うん」


「しかし、それは本当なんじゃろうか」


「どういうこと?」


「お前の周りで起きてるにも関わらず、お前は奇跡的に被害を受けておらん。そういう意味では、全てが失敗に終わってるとも言える。じゃが……もしこれが全て、お前を狙っている何かの筋書通りだとしたらどうじゃ」


「筋書き……」


「やつの目的が何なのかは分からん。じゃが、もし筋書き通りなのだとしたら……奈津子、これからお前の身には、もっととんでもないことが起こるやもしれん」


「そんなことをしてその何かは、私をどうしようとしてるの」


「お前はどう感じている? これだけのことを経験して」


 そう言って、書きなぐった数々の事件を指差す。


「私は……正直怖い……亜希ちゃんのことがあって、その怖さに絶望が重なった。そして……少し疲れてる……」


「それが目的だとしたら、どうじゃ?」


「え……」




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