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その少女、闇に魅入られて  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第2章 忍び寄る闇
22/69

022 怒り

 


「ひゃっ……」


 中身を見た亜希が、そう言って尻餅をついた。


「な、なんなのよ、それ……」


 青ざめた顔で口をパクパクさせ、声にならない声を上げる。


「……」


 奈津子はじっと箱を見つめていた。

 ぎっしりと詰め込まれた、昆虫の頭部。

 数えるのも面倒くさい、そう思った。

 やがて机の上に箱を置くと、小さく息を吐いた。


「……何なんだろうね、こういうのって」





 これまでにも奈津子は、クラスメイトたちから様々な嫌がらせを受けてきた。

 暴言を書きなぐったノートの切れ端や、机に刻まれた「シネ」の文字。


 自分の中にある憤りをぶつけたい。何とか彼女を(おとし)めたい。

 勉強が手につかなくなるくらい、精神的に追い詰めたい。


 そういった負の感情を抱え、高みにいる者に対して起こす無様な抵抗。

 そんな彼らに、哀れみを覚えていた。

 なんて子供なんだろう。そう思っていた。


 しかし今、自分の目の前で起こっているこの現実は、そのどれよりも幼稚な行為だと思った。


 なんて愚かしいんだろう。


 そして思った。

 この嫌がらせの為に、犯人は必死になって虫を捕まえ、一匹ずつ首をむしり取っていたんだと。

 そんな暇があるなら、他にするべきことがあるでしょう。

 滑稽だよ、あなたがしていることは。


「ひ、姫……大丈夫?」


 亜希が震える声でそう言った。


「うん。大丈夫だよ、亜希ちゃん」


 淡々と答える奈津子に、亜希は生唾を飲み込み額の汗を拭った。


「な、何だか今の姫、ちょっと怖い……」


「どうして?」


「どうしてって……姫ってば、何でそんなに落ち着いてるの? と言うか、何で笑ってるの?」


 そう言われて、奈津子が慌てて表情を引き締めた。


「……何て言ったらいいのかな。高校生にもなって、こんな子供みたいなことをする人がいると思ったらね、ちょっとおかしくなっちゃって」


「丸岡! あなたね、こんなことをしたのは!」


 突然響き渡った怒声。教室内の空気が張りつめた。

 声の方向を見ると、丸岡に詰め寄っている玲子の姿が目に入った。


「や、やばっ。姫、玲子を止めないと」


「え?」


「いいから早く。これ、ちょっとやばいから」


 そう言った亜希だが、膝が震えて立つことが出来なかった。奈津子が手を貸してようやく立ち上がると、二人は玲子の元へと向かった。





「何だよ和泉、訳分かんないぞ」


 玲子の勢いに動じる様子も見せず、丸岡が口元を歪めて笑う。


「こんな馬鹿なことをするの、このクラスであなた以外にいないわよ!」


「だから何のことを言ってるんだよ。いきなり怒鳴られて、本当訳が分かんないんだよ」


「しらばっくれてるんじゃないわよ! 奈津子の引き出しにあれを入れた犯人、それがあなただって言ってるのよ!」


「引き出し? 何のことかさっぱり分からないな」


「奈津子にテストで負けた。だから嫌がらせでこんなことをした。どれだけ歪んでるのよ!」


「おいおい和泉、黙って聞いてりゃお前、いい加減なことを言ってんじゃねえぞ。証拠もないのに人を犯人扱いして、違ってたらどうするんだよ」


「証拠? 証拠なんて必要ないわよ。このクラスに、あなた以上の馬鹿はいない。それだけで十分なのよ」


「お前、ふざけるなよ」


「ふざけてるのはどっちよ!」


 そう言って丸岡につかみかかろうとした玲子を、奈津子と亜希が二人がかりで押さえた。


「離してよ! このクズ、一発殴らないと気が済まない!」


「玲子、やめなってば」


「そうだよ玲子ちゃん、ちょっと落ち着いて」


「落ち着いていられる訳がないじゃない!」


 二人の腕を強引に払い、玲子が感情のままに声を張り上げた。


 玲子の意外な姿に奈津子は驚いた。そして、そんな彼女をなだめる亜希。

 いつもと真逆な立ち位置の二人に困惑した。




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