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その少女、闇に魅入られて  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第2章 忍び寄る闇
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016 短刀

 


「私が怖がれば、犯人が喜ぶ……」


「特殊な人間もおるじゃろう。もしそうであれば、色々と手も打てる。ただの異常者であってほしいとわしも思う。じゃが……どこにいても見られている、そんなことの出来る人間、とてもじゃないが想像出来ん」


「私はね、自分が自意識過剰なのかなって思ったりもしたの」


「それならもっと簡単じゃ。お前の頭を一発張って、『気のせいじゃ。心配せんでもお前のことなんて、他人はそんなに興味ないわい』と言ってしまいじゃからな」


「……おじいちゃんは私の言葉、全部信じてくれるんだね」


「可愛い孫の言葉じゃからな、当然じゃよ。お前は嘘をついてわしらを困らせる、そんな子でもなかろうて。それに嘘なら、どれだけ嬉しいか」


「ありがとう。今のが一番嬉しいよ」


「よく話してくれたな。お前が言ったこと、ばあさんには内緒にしておくから安心するといい。お前もあまり、人に言わんほうがいいだろう。笑われるのがオチじゃからな」


「そうするよ。でもひょっとしたら、亜希ちゃんと玲子ちゃんには話すかも知れない。いいかな」


「お前が決めればいいさ。その年になったんじゃ、自分で決めて、自分で動けばいい。わしはただ、助言するだけじゃ」


「ありがとう、おじいちゃん」


「まあ、そういう訳じゃからな、気をつけるようにするんじゃぞ。本当に物の怪(もののけ)の仕業なら、何か意図がある筈じゃ。それが分かるまでは迂闊(うかつ)に動かず、慎重に行動することじゃ。

 ただの異常者なら……バス停までの道のり、気をつけることじゃな。何ならわしが送り迎えしてやってもいい」


「ありがとう。でも……うん、もう少し頑張ってみるよ。携帯も持ってるし、何かあればすぐおじいちゃんに知らせるから。あと、暗くなる前に帰るようにするよ」


「怖くないか?」


「怖くないと言えば嘘になるけど……今まで、色んなことから逃げて来たの。でもここに来て、おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に住むようになって、自分を変えたいって思った。私はここで、新しい自分に生まれ変わりたい。だからおじいちゃん、もう少しだけ私の我儘(わがまま)、聞いてほしいの」


「分かった。奈津子がそう決めたんならそれでいい。わしも少し調べてみるとしよう。奈津子を狙っとるのが物の怪(もののけ)じゃとしたら、どういったやつなのか突き止めたいしな」


「そんなこと、調べられるの?」


「正直分からん。じゃが、何もせずにおるのは性に合わんからな。今度一度、図書館にでも行ってみるさ」


「私も調べてみるよ」


「それとな、お前にこれを渡しておく」


 そう言うと、宗一は岩壁に行き、中から何かを取り出して戻って来た。


物の怪(もののけ)を退治した時、天子様から賜った短刀じゃ。全ての魔を打ち払うと言い伝えられておる」


 奈津子が、差し出された短刀を恐る恐る受け取る。


「……」


 (つか)を握り締め、ゆっくりと(さや)から抜く。

 鈍い光を放つ刃には、何かしら不思議な力が宿ってるように思えた。


「護身用に持っておけ。そのサイズなら、鞄の中に入れておいても大丈夫じゃろう。教師に何か言われても、カッターナイフの代わりですとでも言っておけばいい」


 確かにそれは、短刀と言うにはかなり小振りだった。これならペーパーナイフだと言っても、通用するかも知れないと思った。


「そうだね、この大きさなら大丈夫だね」


「まあ、物の怪(もののけ)との大戦(おおいくさ)と言っても、わしら宮崎家はほとんど役に立っておらんかったみたいじゃからな。参加賞みたいなもんじゃろうて。うはははははははっ」


 宗一の言葉に、奈津子も思わず笑みを漏らした。


「参加賞って、ふふっ、何よそれ」


「仕方ないじゃろう。わしらのご先祖様なんじゃぞ? そんな大層な働きが出来るとは思えんじゃろうて」


「それにしても……ふふっ、酷いよおじいちゃん。ご先祖様に叱られるよ」


「うはははははははっ、悪い悪い」


 宗一の豪快な笑いにつられ、奈津子も笑った。

 この人の笑い声を聞いていると、本当に心が落ち着いてくる。私を守ってくれる、そんな思いになれた。


「そろそろ帰るか。ばあさんも待っとるじゃろ」


「うん」





 来た時とはまるで違う、晴れやかな気持ちになっていた。

 足取りも軽い。

 何かが解決した訳ではない。

 しかし奈津子の心は、不思議と軽くなっていた。


 自分を狙っている何か。

 異常者なのか変質者なのか。それとも妖怪なのか。

 まだ正体は分からない。

 それでも奈津子は今、その何かに立ち向かおう、そう心に強く思っていた。


 逃げない。負けない。

 そんな決意を胸に、もう一度笑顔を宗一に向けたのだった。




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