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宗吾、少しお話があります


 休日二日目。昨夜は色々あったが、なんとか収まる所に収まったというべきか。そうして日課の巻藁を殴ろうかと思っていた所に、母さんが声をかけてくる。


「宗吾、少しお話があります」


「……わかりました」


 これは絶対俺にとってはアレな話だ。だが断る事は選択肢にないので、母さんに誘導されるまま着いていく。連れて行かれたのは俺が普段使っているのとは別の、当主の間に近い側の茶の間。普段母さん達が使用している場所だ。いよいよこれは良くない流れだなと思いつつ指し示された座布団へと座る。そうして母さん自ずから差し出された茶を一口飲んだ後で、聞かれた。


「宗吾、智香子さんを泣かせましたね」


 その話か。思わず額を押さえてしまう。これは説明するのが難しいんだが、どう説明しようか悩んでいる。これは智香子には悪いが、正直に話すしか無い。後で何か言われるかもしれんが、それは甘んじて受け止めよう。そうして俺は、昨夜の一連の流れの事を話した。その話を聞いた母さんは一口お茶を飲んでから頷く。


「なるほど、理由は分かりました。智香子さんの心情も分かります。その上で言います」


「はい」


「あなたになら迷惑をかけても許される、あなたになら迷惑をかけてもなんとかなる。そう思われるように努力をしなさい」


 努力。俺の側の努力か。だがそれでも智香子はそれを嫌がるだろうと思う。迷惑をかけたくないのに迷惑をかけてしまう自分が許せないあいつは、そうなってくれるだろうか。


「人とはどうしても誰かに迷惑をかけながら生きていくものです。でもこの人になら迷惑をかけても心から信頼できると、そう思われるようになりなさい」


「それは……とても難しい事なのでは」


「えぇ、難しい事です。信頼関係の事ですから。ですからあなたは、今少し包容力を持つべきです。何でも包み込んでくれると思われればこそ、智香子さんも安心してあなたに迷惑をかけられるでしょう」


「それを、智香子が望みますか?」


「そう思われるように努力なさいという事です。あなたならば安心して任せられると、心から思われるようになりなさい。今の所信頼関係の構築はできているようですが、まだ智香子さんはあなたに甘える事ができていないようですね」


 智香子が俺に甘える。それは確かに、想定していない事だ。智香子が今一番甘えられる人と言えば、リットンとマリッサだろう。その上に俺が来るという状況が想定できないな。あいつは共に歩むものだが、涼子のようにこちらに甘えるような相手ではない。いや、この考えこそがあいつが俺に甘えられない証拠なのかもしれない。


「分かりました、努力はしていきます」


「よろしい。どうやらあなたの方も、甘えられても問題ない腹積もりは出来ているようですね」


 言われて気付く。確かにそれは、そうかもしれない。あいつらの事であれば俺はいくらでも骨を折る覚悟は持っている。それは以前よりも確実に、前進しているという事だ。ならばこのまま前に進もうか。


「どうやらそのようです。あいつらの事であれば俺はいくらでも骨を折りましょう」


「ではそれを形にして、見せてあげなさい。それだけで相手も安心できるというものですよ」


「わかりました。ありがとうございます」


「では戻りなさい。そろそろ時間なのではないでしょうか」


 指摘されたのでガジェットを見ると、確かにそろそろゲーム内は朝だ。午前中は巻藁殴れなかったか、まぁいい。それじゃあいくか。


「それでは失礼します」


「えぇ、頑張りなさい、宗吾」


 母さんの声援を受けて部屋へと戻る。思わぬ話ではあったが、少し収穫もあったのでいいか。そうして俺はゲーム内へとログインした。ログインした瞬間の光景は見覚えのある部屋だが、あ、そういえば。するとテーブルについていたマリッサが手を挙げてきた。


「おはよう、いらっしゃい」


「あぁ、一瞬忘れてた。悪かったな昨日は」


「気にしないで」


「わざわざこちらで作業してくれていたのか?」


 俺の問いにマリッサは静かに頷く。なるほど気を使わせてしまったようだ。しかしその気遣いはありがたい。そうしているとすぐにリフレ、ネス、フタバがログインしてきた。3人共一瞬戸惑っていたが俺とマリッサの姿を見て昨日の事を思い出したようだ。


「みんないらっしゃい」


「お気遣いありがとうございます」


 その挨拶にリフレが察して御礼を言う。フタバも頭を下げると、ネスも謝罪をした。


「昨日は悪かったわ。ごめんね、迷惑かけて」


「気にしないで。今リットンが来るわ」


 マリッサが言うが早いか、会議室のドアがおもむろに開き、リットンが入ってくる。俺達の、特にネスの姿を見て明らかにほっとする。


「リットン、お茶を。まずは少し話をしましょ」


「えぇ、そうね」


 ネスもみんなも大人しく席につくと、リットンがお茶を入れてくれる。それからマリッサが静かに話し始めた。


「あの後、ボリマンは私達にも謝罪しながら帰っていったわ。何かあったら連絡してくれると約束してくれた。一応フレンド交換もしておいたから、本当になにかあったら連絡をくれると思うわ」


「そう、ボリマンにもあなた達にも迷惑をかけるわね」


 そうか、ボリマンはそんな事をしていたのか。あいつはやはり真面目で律儀な奴だな。その事にネスは感謝しながらお茶を飲む。そうして溜息をついた。


「ダメね、私は。最近泣いてばかりだわ。みんなに心配ばかりかけている気がする」


「事情は分かっているから、こちらが勝手に心配しているだけよ」


「そうですよ、ネスちゃんは気にしないで下さい」


 少し落ち込み気味のネスにマリッサとリットンが励ます。そういうネスの心配をかけまいとする心情も理解できてしまうからな。そういう所も好ましいんだが。


「あなた達の方はまぁ、今の状況を見ればわかるけど、落ち着いたんでしょ?」


「あぁ。俺達は俺達のやるべき事をやる、それは何も変わらない」


「そう、ならいいけれど。問題はハリンツ対策よ」


 少し心配そうにマリッサが言う。ハリンツねぇ、あいつに関しては正直、俺が無い知恵絞って考えた事がある。


「それに関してだが、俺は何も問題ないと思っているんだ。あいつがネスだろうが俺だろうがについて回ろうが、それは結局、俺に対して喧嘩を売っている事に変わりない。というか既にあいつはネスを自分のパーティに引き抜こうとした。九堂武術道場があいつに喧嘩を売る理由としては十分だ」


「それは……いいの?」


 俺の言葉にネスが少し不安そうに聞いてくるが、俺は力強く頷く。


「何も問題ないだろう、ネスはウチの大事なメンバーなんだから。それに多分、ハリンツはネスが九堂武術道場のメンバーであるという事を知らない。昨日言っていたボリマンの話で、ネスが九堂武術道場のソウと一緒にいたとハリンツから聞いたとボリマンは言っていた。ハリンツは、ネスと九堂武術道場を別個に考えている可能性が高い」


「だからネスさんを自分のパーティに引き抜けると考えた可能性はありますね」


 俺の言葉にリフレが同意を示す。そう、ハリンツの中でネスと九堂武術道場が同一になっていない可能性が高い。つまりそれに関してはハリンツは知らないという事になる。ということは、だ。


「ハリンツはエルフレアからそこら辺を教えてもらっていない可能性があるな。いや、逆にエルフレアがわざと教えなかった可能性もある。あの女は性悪だ、教えたらハリンツが動かないと考えたかも知れない」


「それは大したタマをお持ちの方ですわね、お友達になるには適しておりませんわ」


 フタバが苦虫を噛み潰したような顔をする。確かにあいつと友達には絶対なりたくないような性悪だ、その気持ちはよく分かる。


「あのバカ女のやりそうな事ではありますが、本当に呆れるほどバカですね」


 俺達の結論に、リットンがそう締めくくる。リットンの言うように確かにあのバカ女のやりそうな事なのだ。呆れるほど何も考えていないバカだ。だから俺は、それを利用する。


「なので俺の方針としては、今回でも次回でも、ハリンツが護衛任務とかでこちらに絡んでくるようなら、正面切って喧嘩を売る。あいつが喧嘩を売ってきたんだし、こちらとしても喧嘩を売るには十分な理由だ。その上で、エルフレアと俺達が敵対している事も教えてやる。そうすればいくらハリンツでも自分がエルフレアに利用されている事を理解できるんじゃないのか」


「うん、それは十分効果のある手段なんじゃないかしら。上手く行けば今後は絡んでこなくなる気もするわ」


 マリッサの太鼓判があるなら十分効果が見込めるだろう。よし、それじゃ早速動くとするか。


「それじゃあ、俺達はオアシスへの護衛依頼を受けに行こうか」


「そうですね」


「大事なお仕事ですわ、気合を入れましょう」


 席を立ち上がるとリフレとフタバも立ち上がる。そうだ、大事な仕事だから可能な限りやっていこうと思う。それに続いてネスも立ち上がると俺に言った。


「迷惑をかけるわね」


「俺にならいくらでも迷惑をかけていい。それくらいどうって事ない」


 その返事にネスは一瞬面食らったような顔をした後で、笑顔で頷いた。うん、それでいい。


「それじゃ、邪魔したなマリッサ、リットン」


「えぇ、またね」


「砂漠素材待ってますね~」


 店の会議室を後にして出入り口へと向かう。会議室にリットンがいたのでカウンターにナリンセンが立っていた。彼女に手振りだけで挨拶して店を出て、そのまま転移門で第6の街シャスチニへと転移する。そのまま商業ギルドへ直行し、顔なじみの受付の女性に顔を見せると彼女は面食らった後でその顔を苦笑に変えた。


「いらっしゃいませ、ソウさん。もしかして護衛依頼ですか?」


「えぇ、受けようと思いまして」


「それは助かるんですが、いいんでしょうか。ソウさん達は今やこの街の英雄ですよ?」


「別にそんな事俺は気にしないですけれどね。やりたい事をやっているだけなので」


 俺がそう言うと受付の女性は嬉しそうに言った。


「正直ありがたいです。今はオアシスの復興で便も増えてますし、やることも多いので。現在はオアシスの方が安定するまで護衛料も割高になっています」


「そうなんですね。そういえば話は変わるんですが、【輝く黄金のソロバン】というギルドが最近こちらに絡んできていませんか?」


 そう問いかけると受付の女性は少し不思議そうな顔をする。


「えぇ、そうですね。来訪者の商人さんですが、これから護衛を依頼する便にもいらっしゃいますよ」


「注意しておいた方がいいですよ。来訪者独自の情報網ではオアシスの方で何か企んでいるみたいなので」


「……分かりました、信頼できる情報筋からの情報提供という事でこちらでも注意しておきます。情報提供ありがとうございます」


 受付の女性は一転して厳しい顔で書面を書く。それからすぐに笑顔に戻って普段通りの対応をしてくれた。


「それでは護衛の方はいつも通りの場所で、お願いしますね」


「はい、それでは」


 そうして移動する途中でリフレが言ってくる。


「【輝く黄金のソロバン】に関しても手を打つんですね、流石です」


「ま、できる事は全部やろうじゃないか。俺達にやれる事は多くある」


「そうですわね。わたくし達がパンクしない程度には、できる事はやっておいて損はありませんわ」


 俺の言葉にフタバが同意して護衛の集合場所に行く。まだ集まっている護衛は少ないが、そこに見知った顔がいた。


「よぉ、ゲンザーじゃないか」


「あ、ソウさんまたですね。ネスティフさんは何度見ても素晴らしい」


「本当にそれやめてくれないかしら」


 再びロリコン変態紳士のゲンザーと巡り合わせた。ゲンザーの挨拶に毎度の事ながらネスが拳を握ってしまう。今日のゲンザーはどうやらパーティメンバーと一緒のようだ。


「今日はパーティで参加なんだな」


「えぇ、護衛依頼も増えて料金も割高になっているので、受けておくのが得かなと」


「それは確かにそうだな」


 ゲンザーの言葉に同意するとゲンザーが他のパーティメンバーを紹介してくれる。


「紹介します、左から熟女好き、巨乳好き、貧乳好きの娼館仲間です」


「その紹介の仕方はどうなんだろうなぁ」


 パーティメンバーを紹介するのに名前じゃなくてそいつの趣味嗜好を紹介するのってどうなんだろうか。しかも3人とも無駄に顔がいいし趣味嗜好を暴露されたというのにむしろ堂々としている。やっぱりこいつら変態紳士だな。


「貧乳好きとロリコンは別物なの?」


「貧乳好きとは、通常の体型をしているのに胸が小さいというコンプレックスを抱えている女性に対して萌える属性なんですよ。すべてが小さいのが好きなロリコンとは似て非なるものです」


 ネスの軽い質問に貧乳好きが熱く語りだした。その姿に聞いたネスも、リフレとフタバすら引いてしまう。いきなり熱く語りだすのが性癖の話ってどうなんだよ。そういえば巨乳好きがいるんだが、そいつはフタバを見ても何も言わない。その事を不思議に思い少し彼の顔を見ると、彼は困った顔で頬をかいた。


「フタバさんの事は公式動画で知っています。フタバさんは爆乳なので、私の嗜好からは外れているんですよ」


「よく分かりませんが人の胸を見て自身の嗜好を語るのはやめていただきたいのですが」


 胸を庇いながら不気味そうに巨乳好きに言うフタバ。うん、巨乳好きには巨乳好きの一定のラインというものがあるんだな。でかければいいというものじゃないのか。それにしても、見事変態が集まっているパーティだな。


「よくこれだけのメンバーが集まったな。全員変態だけど」


「ロリコンはともかく、熟女も巨乳も貧乳も割とどこの街の娼館にもいますからね。ハーフリングの娼館は私の知る限りこの街だけです」


「お前が一番業が深いっていう事は分かったよ」


 こんだけ揃っててもゲンザーの業が一番深いっていうのはある意味凄いなゲンザー。

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― 新着の感想 ―
自分の性癖を隠さず曝け出すことに共感は持てるね 変態だけど
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