門下生の中で娼館に通っている者がおりました
現実で昼食を食べ、午後の鍛錬をした後ログイン。当主の間を出ると、すぐに経営陣の方がやってきた。
「宗吾様、ご報告がございます」
「あぁなんだろうか」
「道中お伝えしますので、道場へ。他の方にも既に声はかけております」
一体なんだろう、道場で用事か。道場までの短い距離を歩きながら経営陣の方が教えてくれる。
「門下生の中で娼館に通っている者がおりました」
「……あー、そうなのか」
「はい、その沙汰をお願い致します」
「……俺が?」
「はい」
そうか、娼館か。通ってしまったのか。うーん、どうしよう。少し悩みながら道場に辿り着くと、そこには道場の右側に同情心を隠さず見守る男性陣。左側に汚らわしいものを見るかのように見つめるリフレ達含めた女性陣。その真中に正座をしている門下生5人と、その後ろに立つ師範代5人。ここに入るのすげぇ嫌なんだけど。でも俺が行かないと何も解決しないので、覚悟を決めて俺は門下生5人の前に立つ。5人はそれはそれは青い顔をしていた。とりあえずは、だ。
「お前達、娼館に通っていたというのは本当か?」
「……はい、事実です」
青を通り越して白くなりそうな顔で門下生が答える。そうか、本当なのか。それで次は。傍らの経営陣の方に聞く。
「こいつらが娼館に通っていた事になんで気付いた?」
「洗濯物に出した服の中に娼館の名刺が入っているのを使用人が見つけました」
キャバクラ通いがバレたサラリーマンかよお前ら!なんて間抜けな事しているんだ!はぁ、それじゃあ言い訳のしようもないな。それで次だ。
「なんで通った?」
「……呼び込みに誘惑されたのと、その、経験がなかったので」
あぁー、まぁ、お前達若いもんな。そういう事も興味あるよなそれは。俺も経験ないけどさ。でもこれ、どうする。若さ故の過ちだけど、同情できる範囲内なんだよな。じゃあ、そうするか。
「分かった。ここにいる全員に言うが、娼館に通う事は別に構わん。やるべき事をきちんと成した上での事であれば息抜きも必要だろう。だからそれは各人の好きにすればいい。だが俺達の目的は研鑽を積むことだ、それを忘れてはいけない。それが出来ていないと判断すれば、この世界に来る事を禁じる。分かったな」
『分かりました!』
俺の言葉に、道場にいた男性陣全員が返事する。それで正座している5人はホッとしているが、申し訳ないんだがこれでは男性陣に甘い顔をしただけになってしまうので、お前達には生贄になってもらう。
「だが、今回に関しては隠していた事と、それが間抜けな事にバレた事に関する処罰を行う。ドS組、程々に任せたぞ」
『分かりました!』
俺の言葉にドS組が嬉しそうに返事をする。それと同時に5人の顔が青くなる。すまんな、許せ。
「それではドS組と娼館に通っていた5人以外は解散!ドS組は程々に道場で折檻しろ!以上!」
そうしてみんなで道場を離れる。残るは嬉しそうなドS組と青い顔をした娼館5人組。頑張れよと心の中で呟いてから、俺はリフレ達と合流して道場から転移門へと向かった。
「よろしかったんですの?娼館通いを許可して」
「きちんと研鑽を積んだ上での事であれば問題ない。息抜きは必要だしな」
フタバの問に答える。うん、息抜きは必要だと思うし、それでちゃんと回るならそれでいいと思うんだ俺は。そう思っていると今度はネスが聞いてくる。
「自分が通う為の布石?」
「通わねぇよ!」
なんでそう思うのかね君は。何度も言うが俺は娼館には興味ないんだ、将来的にも行くつもりもないんだよ俺ぁ。
「それで今日はどこへ行きますか?」
「健脚豚に興味があるので探しに行こう」
リフレがまともな問いかけをしてきたので普通に答える。健脚豚がどれほどの健脚なのか興味があるのだ、それを見ない訳にはいかない。俺達は第5の街に転移して、そのまま西門を出て一時間、健脚豚とスリープシープの出る草原へと辿り着いた。
「今回スリープシープは無視だ。健脚豚を探そう」
「分かったわ」
スリープシープはもう処理した事あるしな、今回は無視だ。健脚豚を集中して探す。それに同意したみんなで周囲を探索して一時間、そいつらはいた。遠目に見えるピンク色の肌の団体。あれは間違いなく豚だ。
「いたぞ」
「野生の豚もあんなに群れていますの?」
「野生の豚も見たことないなぁ」
フタバの不思議そうな声に答える。日本には豚も野生でいないからな、いるのは猪だ。そうして豚の群れに近づいて残り200メートルほどで、ネスが言ってきた。
「これ以上近づくと逃げられるわ。作戦を考えましょう」
「作戦って、正面から相手すればいいんじゃないのか?」
ネスの言葉に俺が不思議そうに言うと、ネスは溜息を一つついてから俺に言ってきた。
「ちゃんと作戦を立てないと無理なのよ。一度やってみる?」
「そうだな、一度正面からやってみよう」
「じゃ、あなた全力で突っ込んでみて」
「いいだろう」
軽く煽られているような感じもするが、まぁいい。一度正面からぶつかってみればいいのだ。そう思い、俺は一気に駆け出した。自身の最高速、スピードに乗って全力で豚の方向に駆け出すと、俺に気づいた豚達が、一斉に俺とは逆方向に駆け出した。しかも速い!
「おおおおおっ!!」
俺もさらにスピードを上げようと頑張って駆けるが、な、なんだと!全力で走っている俺が追いつけないどころか、引き離されている!!そんな馬鹿なと思うが冗談じゃない、マジで健脚すぎる豚はあっという間に俺を置き去りにして駆け去っていった。そうして姿が見えなくなった豚を見送ってとぼとぼとみんなの前に戻る。するとネスが微妙にしたり顔で言ってきた。
「だから無理って言ったじゃない」
「豚があんなに速いなんておかしいだろう」
思わず口を尖らせて言ってしまう。あの逃げ足の速さは異常だ、さすがに健脚すぎる。だが事実俺が置き去りにされるほどのスピードだったのだ、それは認めなければならない。ならばどうするか。
「挟み撃ちしかないよな。片方が迂回して逆側に回り込み追い込む。それしかない」
「ですわね。ソウさんが全力で追いつけないほどの足を追うなど現実的ではありませんわ」
俺の提案にフタバが納得する。うむ、それしかないと思うのだ。さて、それでは組み合わせをどうするかだが。
「俺が追い込み役、3人で待ち受け役でどうだ。2人は魔法が使える」
「一人で大丈夫ですか?」
「俺を見て集団で逃げるんだから、俺一人で追い込めるだろう」
リフレからの疑問に答える。俺一人で多分大丈夫だし、待ち受けには魔法が使える2人がいた方がいいと思うのだ。それにフタバでは俺の全力に追いつけない。
「じゃあそれでいきましょう。次の獲物を探すわよ」
ネスの一声で決まり次の獲物を探して30分、やっと次の群れを見つけた。ある程度まで近づいてから俺が一人で離脱、反対方向に回り込む。うまい事逆に回ってから、俺は再び豚目掛けて全速力で駆け出した。
「おおおおおっ!!」
声をあげながら走って豚を追い込む。くそ、相変わらずこの豚速い!しかしその向かう先には3人が待っている!上手いこと誘導できた事にほくそ笑みながら駆けていると、正面でネスとリフレの魔法が発動した。
『《ストーンウォール》』
瞬間石の壁が横に2つ出来上がる。なるほどギルドバトルの時に見た魔法か!突然現れた壁に豚は右往左往している。そこへフタバが切り込んだ。
「せいっ!」
太刀を振るいながらフタバが突っ込み、その壁の横からリフレとネスが現れ豚の群れを攻撃し始める。次々と討伐される豚、そこへやっと俺が追いついた。
「おりゃぁっ!」
駆け寄った勢いのまま拳を振るい豚を吹き飛ばす。逆方向にももう逃さん!攻撃さえ当たってしまえばこちらのものだ。豚の群れは次々倒れ、あっという間に全滅した。えーっと、倒したのは30匹くらいか。
「完全勝利ね」
「やりましたね」
豚を処理しながらネスとリフレが笑う。うむ、言う通り間違いなく完全勝利だ。追い込んでしまえば容易い相手だった。しかしこれは、解体に時間がかかる。
「血抜きと内臓処理だけでいいか?」
「そうね、バラすのはギルドでやってもらいましょう」
俺の言葉にネスが頷いてそうする事にした。血と内臓を精霊魔法で穴を掘って放り込み、埋める。30体分だ、大分時間かかった。全ての処理を終えてから一息つく。おもむろにリフレがゴザを敷き、ネスがその上に魔除け石を設置した。そうして買っておいた弁当を広げる。
「さ、休憩しましょ」
「お茶もありますよ」
「準備いいのですね」
2人の手際にフタバが若干呆れる。俺も少し呆れながらゴザの上に乗って食事を始める。ここは草原、見晴らしも良い。いつかのステップの時を思い出すな。そんな事を考えていたらリフレが唐突に言う。
「フタバ様が悲しい事になるので、今回は膝枕はやめましょうか」
「そうね」
「膝枕ですの?」
リフレとネスの言葉にフタバが不思議そうに問う。その話をするつもりかい。心の中で思いながらも2人は話しを続ける。
「えぇ、以前ソウさんを2人で膝枕した事があるんです」
「まぁそれは。わたくしもやりたいですわ」
「でも今のフタバさんの格好じゃ、膝枕してもソウの顔は見えないわよ」
そんな直球なネスの言葉に一瞬唖然としてから自分の胸元を見るフタバ。そこにはミスリルの鎧の大きな山があるので、フタバが正座して俺を膝枕しても、確実に俺の顔は隠れるだろう。あの山じゃ自分の足元だって見えていないだろうし。
「……それは悲しいですわ」
「ですよね」
心底悲しそうに言うフタバにリフレが同情する。まぁこればっかりはしょうがないよな、と密かにほっとしているとネスが余計な事を言いだした。
「じゃあソウに膝枕してもらおうかしら」
「それはいいですわね!」
「マジか」
ネスの提案にフタバが喜び俺が突っ込む。マジか、俺がやるのか。思わずリフレに視線を向けると、リフレはにっこり微笑んだ。
「機会は平等に、ですよ」
「マジか」
結局俺に拒否権など無く、3人を平等に、膝枕する事になった。




