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ログインした時いつもの天幕じゃないから混乱したわ


 朝食を食べて午前の鍛錬、風呂に入ってからゲームへログインすると、だだっ広い部屋に出た。一瞬混乱したがそういえば屋敷に住めるようになったんだった。ここは当主の間だ。まだ家具はほとんど無いが近い内になんとか揃うだろう。そうして部屋を出て玄関までの廊下を歩いていると、リフレ達が前方にいたので声をかける。


「お疲れ」


「お疲れ様です」


「ログインした時いつもの天幕じゃないから混乱したわ」


「間取りが現実と一緒なので助かっております」


 なるほどネスは俺と同じ目にあったか。フタバとしては確かに助かるだろう、生まれてからずっとあの屋敷で暮らしていたんだから、その間取りと同じなら過ごしやすいというものだ。そうして4人で一緒に玄関を出て行くと、別口から門下生がぞろぞろと外へ出ていく。我々本家の者や内弟子、師範代とは別の出口を門下生は利用する事になっているのでしょうがない。俺達の姿を見ると揃って頭を下げてくるので手を挙げてそれに応じながら一路『電脳遊戯倶楽部』へと向かう。店の出入り口には「本日閉店」の看板がかかっているのでノックをすると、すぐにリットンが出てくれた。


「いらっしゃ~い。お待ちしてました」


 リットンはそう言って俺達を会議室へと先導し、その扉を開ける。会議室の中には既に全員揃っており、どうやら俺達が最後だったようだ。


「悪い、待たせたか?」


「そんな事ないわよ、みんなさっき来たばかり」


「それなら良かった」


 そう言って空いている席へと座る。何故か俺は一番の上座で、その横にマリッサとウチのパーティメンバーだ。そうして全員の前にリットンとナリンセン、シャマールがお茶を配膳した後で、マリッサが口を開く。


「それじゃ、早速始めましょう。まずはリットン、報告して」


 そう言うとリットンが立ち上がり、一枚の布を出す。その布は何を加工したのか分からないが、光沢を放っていた。


「これはですね、布を染織する時の染料にヒュドラの鱗、牙、骨の粉末を一つまみ入れたただの普通の布です。ですが、ベルカス。これを普通のナイフで刺してみて」


 リットンにそう言われてベルカスはナイフを取り出し布に突き刺す。だが布は、そのナイフを通さなかった。これ、普通の布って言ってたよな。マジか。


「この通り、ただのナイフじゃ貫くどころか破けもしません。鱗だけの染料、牙だけの染料、骨だけの染料で試しましたが、それらは普通よりちょっと丈夫かな、程度です。ですが3種類を合わせるとこんな何倍もの効果を発揮します。はっきり言ってこれは強化布どころの強度じゃありません。丈夫で長持ち、耐久性も素晴らしい。吸水性も抜群ですし、汚れにも強い。これで服を作れば一生ものになるでしょう」


 リットンの力強い断言に驚きを隠せない。ただの布がそんなに凄いものになってしまうなんて、どうなってるんだヒュドラ素材。リットンはその布をしまうと席に座る。続いてマリッサがベルカスに向かって言う。


「それじゃ次、ベルカス」


「はい。俺はガミンガ、レイコップと共同で各素材を研究しました。鱗、牙、骨。この3つを削り出して鋭利にするだけでもそれなりの代物にはなります。ですが、もっとも有効活用できるのはやはりその粉末です。まずはこれ、ロックスネークの硬革です。これを普通の鉄の短剣で刺します」


 そう言ってベルカスはロックスネークの革を取り出し鉄の短剣で突き刺す。だがその革は刃を通さず、表面に傷もつけなかった。


「このように、傷もつけられません。それだけこの革は元々頑丈です。ですが、これは鱗、牙、骨の粉末をそれぞれ小さじ一杯鉄に溶かして叩いた短剣です。これを見て下さい」


 次にベルカスが取り出したのは同じく短剣。だが先程の短剣よりもその輝きは強い。そしてベルカスは先程の革に同じように短剣を刺すと、まるでバターに刺すように短剣の刃が刺さった。スルッと何の抵抗も無く。


「鱗だけ、牙だけ、骨だけでも試しましたが、少し頑丈になったかな、程度でした。ですが3つの粉末を合わせる事で、これほどの業物になります」


「はっきり言えば、貴族の齎した情報が大きい」


「あぁ。オリハルコンの加工方法の知識。あのヒントがなければこの結論にはならなかったかもしれない」


 ベルカスの言葉に続けてガミンガ、レイコップが答える。なるほど、オリハルコンの宝剣を製造した時のあの話か。それにより3つの素材を合わせる事を思いつき、これだけのものに仕上がったと。


「これは鉄ですが、同じように魔鋼にも有効です。金や銀、銅、ミスリル、アダマンタイトとは相性が悪くこうはなりませんが、鉄に用いれば魔鋼以上の代物に、魔鋼に用いればアダマンタイトの混合鋼に限りなく近い業物にできます。オリハルコンに使用すると何でも切り裂ける、という伝承は恐らく本物でしょうね」


 その言葉に納得すると同時に驚愕を禁じえない。魔鋼に用いればアダマンタイトにも匹敵する。ウチの道場が所有するだけでも相当の量なのに、そんなものが一杯作れてしまうのか。これはちょっと、やばいな。少し考えているとマリッサがベルカスに聞く。


「ウチの保有する素材量で、鉄で剣を作ったとしたら、何本くらい作れそう?」


「そうですね、100万本くらいはいけます」


「100万だとっ!?」


 ベルカスの答えに思わず叫んでしまう。この店の所有する素材量だけで100万本なんて、ウチの素材を使ったらもっと作れてしまう。そんな兵器の大量生産ができる量なんて、やばすぎる。マリッサもその答えに驚いたのか、少し頭を抱えた。


「ウチの量でそれくらいじゃマズいわね、全来訪者に配れてしまうかもしれない量だわ。やっぱり信頼できる常連だけに流すだけにしましょう」


「それがいいと思います。ウチの在庫で何本作れるか、という情報に関しては秘匿しましょう」


 ベルカスの言う通り、それがいい。一気にこの店やガミンガ達の店に全来訪者が押し寄せてしまう。信頼できる一部だけにその商品は渡すに限る。そうしなければいけない。ベルカスはそう答えると席に座る。これだけでも頭の痛い情報なのに、まだあるというのも頭が痛い。次にマリッサは、シャマールに話を向けた。


「それじゃシャマールお願い」


「はい。私はシャーサ、イレイザと一緒に革の研究を行いました。やはり革としては内布より外革に使用するのが適切です。そこで私達は、外側の硬革として加工しました」


「普通の硬革の加工と同じ手順で加工できたから助かったわ」


「えぇ、そうですね。特殊な物は必要ありませんでした、通常の手順で問題ありません」


 シャマールの言葉にシャーサとイレイザが続ける。なるほど、通常の手順で十分に加工は可能なのか。それは確かに使いやすいな。そう思いつつシャマールは話を続ける。


「そして硬革の性能ですが。こちら、混合鋼の短剣になります。しっかり見て下さい」


 そう言ってシャマールは硬革を立てて、アダマンタイトの混合鋼の短剣で思い切り突き刺す。だが短剣は、硬革を突き抜けず途中で止まった。おいおい、そんな事あるのかよ。


「私の腕だからこんなものなのでネスちゃん達みたいにプロがやると突き通せるとは思います。ですが少なくとも、今まで知るどんな革よりも丈夫で、柔軟性もあります。外革にこれを使い、内革に所有するジャイアントトードを使えば、貫けるものはあとは本当にドラゴンの攻撃とかしかないんじゃないでしょうか。そして、次にこれです」


 シャマールがインベントリから取り出したのは同じような硬革と液体の入った瓶。その硬革は先程のものより輝いて見える。液体の中身も若干の輝きを持っている。


「これは先程のヒュドラの硬革にこの液体を塗料として塗ったものです。この液体の中身はやはり普通の塗料に鱗、牙、骨の粉末を一匙入れたものになります。その効果がこれです」


 そう言って今度は混合鋼の短剣を縦に通す。すると革は、薄く傷をつけた。薄い、まるでかすり傷程度だ。この塗料を塗るだけで更に頑丈になるという事か?そう思ったがそれ以上があった。シャマールがその革に手から魔力を流す。するとゆっくりとだが、薄い傷が、より一層薄くなっていく。まさか。


「これ、再生してる?」


「はい、そうです。魔力を通す事で再生するようになります。これはヒュドラの革にこの塗料を塗った時だけに起こる効果です」


 マリッサの問いかけにシャマールが簡潔に答える。なんという事だ、ヒュドラ素材を組み合わせると、修理いらずの革鎧まで作れてしまうのか。確かに再生力は物凄かったが、革にまでそんな効果が付与されるなんて。


「この革を使用してネスちゃんとソウさんの革鎧を、ソウさんの手甲と足甲を作ります。それとこの塗料は他の素材も頑丈にしてくれる効果もあるので2人の革鎧は勿論、リフレさんとフタバさんのミスリル鎧にも塗布します。これで並大抵の事では傷もつかないでしょう」


「強化されるのは構わん、構わんが」


「そうね、頑丈になるのはいいけれど、再生するのはあまり見られない方がいいわね」


 シャマールの言葉に俺は応じるが、ネスが懸念している事を正直に話す。そうだな、再生していく革鎧の姿はあまり見られないほうがいい。だがこれは間違いなく、俺達を強化するものだ。それは歓迎しよう。シャマールは一通り話すと席につく。さて、ここまでも相当な爆弾だった。素材の質としては極上。きっと今までの素材の中ではありえないくらいの効果だ。しかしここからはきっと、さらなる爆弾がある。もうちょっと覚悟を決めて、次の話を聞くとしよう。マリッサは最後に、ナリンセンに話を向けた。


「じゃあ最後はナリンセン。発表するものが多いけれどよろしく」


「わかった。まずはヒュドラの毒と酸。これに関しては既に共有した通り。毒は触れれば即死、酸も触れれば人体も溶かす。有効な防御手段はどちらもヒュドラの革だけ」


 立ち上がって発表するナリンセンの発言は既に聞いているものだ。ヒュドラの毒と酸はヒュドラの革だけが防御になり得る。ナリンセンは次からは俺達の知らない情報を教えてくれる。


「次は、大量にあるヒュドラの血液。これはそのまま飲むだけでも滋養強壮の効果はあるけれど、もっと有効な手段としては、各種ポーションの素材に水と一緒に混ぜる。すると効果が3倍くらいになる。ブーストポーションの場合も同じ。そして魔法的にこの血液を結晶化させると、魔力の増幅器になる。ミスリルよりも上。血液を呪符を作る墨に混ぜるのも、呪符の効果を飛躍的に高める。2倍くらいの効果にはなる」


「そんなに多機能なのかよ」


 ナリンセンの発表に思わず呻く。あの大量の血液にそんなに有効な使用法があるとは。それでもナリンセンは発表を続ける。


「次に目。目自体に特殊な能力は無かった。けれど目の中にある結晶体、これが魔力を増幅する。先程のヒュドラの血液よりも更に上。恐らくこの結晶体を通して魔力を増幅して目からビームが出ていたと思う。この結晶体の増幅量は『ヒュドラの石』に匹敵する。現在この店が確保しているのが10個」


「それもそれでやばい情報だけれど、目自体に特殊な能力は無くて良かったと言うべきね。目自体が石化の魔眼とかだったらもっと恐ろしい事になっていたわ」


「ん、間違いなく奪い合いになってた。この店自体が戦場になる。でも『ヒュドラの石』と同程度の効果のものが更に10個あるというのはいい情報。『ヒュドラの石』だけに魔力増幅量の期待が持たれない」


 ナリンセンの言う通り、魔力増幅量の効果が石程度のものが他にもあるというのはいい情報だ。焦点が分散される可能性がある。それと共に、一つの懸念が示される。俺はその懸念を、ナリンセンに問いかける。


「ナリンセン。ナリンセンの見解でいいが、オリハルコンにヒュドラの目の結晶体を組み込んで、タカシマナノワさんくらい強い魔法使いが『エクスプロージョン』を全力でぶっ放したら、どの程度の威力になると思う?」


「……多分、この街の三分の一くらいが吹き飛ぶ」


「やっぱり相当な危険物になるのか」


 予想していた通りのひどい答えが返ってきた。単独でワイバーンを倒せる実力者のナノワさんが、オリハルコンとヒュドラの結晶体という魔力増幅器を二重で手に入れた場合、相当な大きな街であるこの街の三分の一も吹き飛ぶ。戦略級兵器の完成だ。だがオリハルコンはともかく、ヒュドラの結晶体に関しては情報公開した方がいいか、今の所10個はあるし。


「まぁいい、個数に関しては公開せずに、そういう性能であるという事だけ公開する。他のものに関してもどれだけ生産できるかは公開しないが、そういう性能であるという事は公開する。それでいいかな」


「あとはそうね、取り扱っている店に関しては非公開にしましょう。ソウさんがウチの店やガミンガ達と懇意にしてるのは知ってる人は知ってるけど、それだけはしょうがないし。あとは各人が信用できる常連さんに連絡して、商品を売ればいいわ」


「そうして貰えると助かるな」


 俺の言葉にマリッサが付け加え、レイコップがお願いする。うん、それならいい。そうしよう。


「じゃあスレに投稿する文章を一緒に推敲してくれ。そうしてスレに投稿しよう」


「そうね、それじゃもう少し頑張りましょう」


 マリッサの号令の元みんなで文章を推敲してから、『素材・アイテム情報スレ』に投稿した。さてこれでどうなるか、不安と期待が入り交じるぞ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 強いボス倒すだけで一生困らない量の強力な武器の材料が手にはいるってゲームとして破綻してない? 本来ヒュドラを倒す頃にはこの程度の素材は投げナイフや撒き菱といった消耗品にするしかないくら…
[一言] SLB再現も夢じゃない
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