およ?早いですね~。どうされました?
昼食を食べ、少しゆっくりしてから巻藁を殴る。ゲーム内時刻が朝になってからすぐにログインした。天幕を出て少し待つとリフレ達3人が合流する。4人で黙って頷き合ってから『電脳遊戯倶楽部』へ足早に向かう。店に到着すると、丁度リットンが看板を「開店中」に変える所だった。そこで俺達を見て少し驚いた顔をする。
「およ?早いですね~。どうされました?」
「あぁ、ボディガードに」
「……あぁ、そうですね。ありがとうございます」
俺の意図を少し考えて理解したリットンが笑顔で店に案内してくれる。そのまま応接室に通されると、中でマリッサがウィンドウを操作していた。俺達に気付いて片手をあげる。
「どうしたの?こんなに早く」
「ボディガードだ」
「ボディガード?……あぁ、そういう事」
「バカ避けよ」
ネスの単純な言い方に思わず苦笑いを浮かべる。言い方もうちょっと考えろよ。だがしかしそれで正しいとも言うんだよなこれが。俺達の言葉に納得したマリッサがリットンをカウンターに戻して俺達をソファーに座らせる。そうして自ずからハーブティーを入れてくれた。お茶請けにはもちろんル○ンド。
「はい、どうぞ」
「マリッサが煎れるお茶は初めてかもしれんな」
「そうかもね。いつもはリットンにお願いしていたから」
マリッサはそう言いながら対面に座り、ウィンドウを操作する。その作業を邪魔するつもりもないので俺達は静かにお茶を飲んでいた。するとマリッサがあっと口にする。
「なんだ?」
「ナリンセンが死んだわ」
「死んだ!?」
突然の発言に思わず叫ぶ。いきなり死ぬってどういう事!?ていうかなんでそんなに平然としてるんだ!
「もう、今日二回目よあの子ったら」
「既に一回死んでるのかよ」
「さっき戻ってきたばっかりなのにね」
「原因は?」
「ヒュドラの毒ね」
そんなに危険なのかよヒュドラの毒。あの時浴びなくて本当に良かった。心の底からそう思う。
「リスポーンに必要な時間ってどれくらいだ?」
「ゲーム内時間5分ね。チャットが飛んできたわ、やっぱりヒュドラの毒ね」
「危険すぎるだろヒュドラの毒」
「伝説の毒だしね。現実の神話上でもヒュドラの毒は猛毒で一撃必殺と言われてるわよ」
それと同じ性能してるとしたら本当にやばいものだな。一撃必殺とか恐ろしすぎる。そんなものがあの毒袋一杯にあるのだとしたら、今ゲーム上で一番危険な場所はここなのではないかと思う。
「でもあいつが毒の管理を疎かにしたりするか?」
「自分で人体実験してるのよ。動物実験より確実だし、来訪者はリスポーンできるしね」
「なんてチャレンジャーなんだあいつは」
「そのお陰で毒消しとかも作れてるしね。ウチの店の毒消しはナリンセンの努力の成果よ」
凄いなナリンセン、ちょっと尊敬しそうだ。チャレンジャーすぎるけど。
「そういえばあなた達、ゲーム内の朝食は食べた?」
「いえ、そういえばまだですね」
「まだ露天も何も開いてないしね」
マリッサの問いかけにリフレとネスが答える。そうゲーム内ではまだ朝早い。露天も何もやっていないから買い食いもできないのだ。
「じゃあデリバリーでも頼もうかしら。サンドイッチでいい?」
「プレイヤーの店ならもうやってる所もあるか。じゃあそれをお願いしようかな」
「人数分頼んでおくわね」
そう言ってウィンドウを操作する。なるほどフレンドチャットを利用したデリバリーか。俺もそういう店作っておこうかな。ていうか何か、俺はここに世話になりに来た訳じゃないんだが。
「なんか今のうちにやっておくべき事とかあるかな」
「今はまだ特にないんじゃないかしら。公式動画が公開されてからが勝負よ」
「そうだよな。それまではギルドバトルのスレでも見ておくか」
「今日いっぱいだものね」
そう、アダマンタイト争奪ギルドバトルは今日いっぱい。既に午前を消化して午後に入っている。最後の駆け込みで挑戦者来るかな、と思ったけど今の所やっぱりなし。スレ上ではどこなら勝てるか、どうやったら勝てるかの検討会になっている。答えはどれも厳しい。統率力は【キングスロード】以上、防御力は【白銀騎士団】以上、魔法攻撃力は【アブソリュートゼロ】以上のギルドじゃないと無理という結論。そんなギルドあるのかな。総合力がとんでもない事になっている気がするけれど。
「ナリンセンがリスポーンしたわ」
「お、帰ってくるか」
「多分またすぐ死ぬでしょうけど」
「あぁ、なんかそんな気がするわ」
死ぬ未来しか予想できない。今までどんな方法で死んだのか聞いていないが、ヒュドラの毒がそんな危険物ならまたすぐ死ぬわあいつ。
「マリッサは前回動画公開されてすぐ気付いたみたいだけど、どうやって気付いたの?」
ふと気になったのか、ネスがそんな事を聞いている。マリッサはそれに単純明快な回答をした。
「掲示板のスレの勢い上位検索をしているのよ。それで公式動画スレが上位に来てると大体公式動画が公開されるわ。それをゲーム内で確認して連絡してるだけ」
「なるほど、そういう事なのね」
「そう、単純な話よ」
笑顔でそう答えてからまたマリッサが言った。
「ナリンセンが死んだわ」
「死ぬペース早くない!?」
「今回は過去一で早いわね」
「リスポーン地点からここまで戻ってきてすぐ即死みたいなペースじゃねぇか」
あまりにも早すぎる死に思わず呻く。一体なにをしたらそんなに早く死んでしまうというのか。毒ってそんなに恐ろしいのか。そんな事思っていると応接室のドアがノックされてリットンがやってきた。手にはバスケットを持っている。
「デリバリーのサンドイッチきましたよ~」
「待ってたわ。みんな呼びましょう」
「そうですね。ナリンセンももう3パターンで死んでると思うのでリスポーンしたらすぐ食べに来ると思います」
「毎回そんなにパターン試してるのか」
「ステップ周辺の獣毒の時は死にませんでしたね~」
なるほど、だからステップの獣毒は弱いという判断なんだなこの店は。みんなナリンセンの死に慣れているなこの店。そんな事を思っていると再び応接室のドアがノックされ、ベルカスとシャマールが入ってきた。
「あれ、ソウさん達いらっしゃい」
「こんな早くからどうしたんですか?」
「ボディガードよ」
2人からの質問にマリッサが端的に答え、少し考えてから2人は納得する。すると部屋の隅から折りたたみ椅子を持ってきてテーブルの側に腰掛けた。そうして自然とバスケットからサンドイッチを取り出して食べ始める。
「お、ハムサンド」
「川魚の揚げ物サンドでした」
2人が食べ始めたのを皮切りに俺達もバスケットに手を伸ばして食べ始める。うん、これは干し肉っぽい。
「なんだか焼き鳥の味がしますわ」
「それは当たりよフタバさん」
「これは当たりなんですの」
フタバがもぐもぐ食べる焼き鳥っぽいサンドは当たりなのか。それじゃ外れもあるのかな。
「あれ?これサラダとマヨネーズですね」
「それは外れねリフレさん」
「あ、外れなんですか」
うん、肉かどうかの違いだけかな。肉は当たり、野菜は外れ。割とわかりやすいかもしれない。そんな事を考えていると再びドアのノック音。ナリンセンが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりナリンセン。サンドイッチあるわよ」
「食べる」
普通に入ってきてマリッサの隣に腰掛けサンドイッチを食べ始めるナリンセン。こいつ鋼のメンタルの持ち主だな。口をもぐもぐしながらナリンセンが俺達を見て聞いてくる。
「ボディガード?」
「正解」
すぐに解答が出たので同意する。よく分かってるじゃないか。しばらくみんなでサンドイッチをもぐもぐして朝食を終え、シャマールとベルカスはすぐに作業場に戻っていった。
「あいつら忙しいのか?」
「ベルカスは早速研究、シャマールは今ネスの鎧の修復してるわ」
「手間をかけるわね」
「継ぎ接ぎだけだしゲーム内の今日中に終わるって言ってたわよ」
ネスが頭を下げるとマリッサがそんな風に言う。ゲーム内の今日中にあの修復ができるのか、すごいなシャマール。そしてナリンセンに聞きたい事がある。
「ナリンセン、なんかもう3回死んだみたいだけどなんでだ?」
俺が不躾にそう聞くとナリンセンは簡単に教えてくれた。
「一回目。試験管に移して温めてみて蒸気を吸い込んだら即死した。苦しむ暇もなかった」
「蒸気で即死するんですか……」
思わずリフレが呟く。確かに蒸気で即死ってただ事じゃない。というか部屋の中は大丈夫なのだろうか。
「二回目。小指の先で触ってみた。あっという間に毒が回って死んだ。これも痛みもなにもなかった」
「小指の先でそれですか」
想像以上の威力にフタバが驚く。うん、俺も驚くわそんなん。小指の先でそれってやばいだろ。
「三回目。綿棒に染み込ませて舌先につけてみた。触れた瞬間死んでた」
「今までの経緯でよく舌に乗せようと思うわね」
ネスの言うことはもっともだ。よく舌の上に乗せようと思ったなナリンセン。お前やっぱりチャレンジャーだ。絶対マネしたくないけど。
「結論として、あの毒を解毒するには予防薬か何かを飲んでおくしかない。それ以外での解毒は無理」
「触れただけで即死するならそれしかないよな」
「次は酸を試すつもりだけど、多分似たような結論になる。というかネスの鎧溶かした時点で人体は簡単に溶ける」
「それもそうね」
ナリンセンの当たり前の結論にマリッサが同意する。そうだな、ネスの鎧溶かした時点で人体は無理だわ。金属はどうか分からんけどな。
「なので金属を試す。鉄から魔鋼、ミスリル、金、銀、アダマンタイトまで」
「そこまでやるのか」
「可能な限り試すのが職人」
職人ってすごい。そこまでやれちゃう執念凄いな。いやこの場合ナリンセンが凄いだけかもしれない。そんな事考えていると、急にナリンセンが真面目な顔になった。
「ソウさんに言っておいた方がいい事がある。ヒュドラの胆石の事」
「あぁ、あのでかい石がどうかしたのか?」
「あの胆石、胆石だけど石じゃない」
その真面目な表情と発言に少し嫌な予感を覚えながら問いかける。
「石じゃなかったら、あれはなんだ?」
「ベルカスとシャマールと軽く話しただけだけど。あれもしかしたら、オリハルコンかもしれない」
ナリンセンのその発言と嫌な予感が的中した事に対し、俺は顔をしかめるしかなかった。




