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新規プレイヤーのソウ、で間違いないな


 現実時間で一週間。しかしゲーム内時間だと結構経っている。なるほどこれは確かに、短い間に腕の上がるというものだ。現実では味わえない実戦と加速時間によって伸びる鍛錬時間。これにより、俺の技量にも既に以前よりも影響が出てきていた。身体の動かし方がより実戦向けになってきている。未だ人形との実戦は無いが、こういう経験をしていると、技のキレにも影響が出ようというものだ。

 日課の鍛錬を終えた俺は既に日課となっているグランフェストの大地へと降り立った。場所はアジンラートの公衆浴場前。そういやゲーム内で風呂に入ってからそのままログアウトしたんだったな。それは涼子――リフレも同じはずだったので、まぁ少し待てば来るだろう。

 そう思い公衆浴場前のベンチへ移動して座る。すると、俺の前に3つの影が差した。その姿はフード付きのマントを被った三人の――いや一人は女だ。二人の男と一人の女の姿がある。

 マントの色は黒。逆に街中では目立っているこの三人に、俺は全く見覚えが無い。だが彼らは確かに、俺を見つめていた。


「……なにか?」


 俺がそう声をかけると、三人はフードも取らず声をかけてくる。


「新規プレイヤーのソウ、で間違いないな」


 あかんこれ、面倒くさい奴だ。そう思いながら彼らの言葉に肯定を返す。すると今度は女の方が声をかけてきた。


「最近リフレた――リフレさんと一緒に、行動してるわよね」


「まぁ、そうですね」


 この女リフレたんって言いそうになったぞ。どう考えても美少女見守り隊のメンバーやんけ。しかし美少女見守り隊、女もいるのか。いやおかしくはないんだけどさ。


「取引をしないか?」


「取引?」


 三人目の言葉に、思わず首を傾げる。いきなり取引とは、一体なんだろうか。


「そう難しい話じゃない。その日の予定を我々に流してくれるだけでいい」


「予定を?それでどうするんだ」


「勿論しか――げふんげふん。先回りして我々が見守る。それだけだ」


 こいつら思ったより先鋭的な組織だな。欲望がダダ漏れな上に先鋭的。要注意組織としてリストアップしておこう。それにしても。


「お前ら、ガントやシュンにもそういう取引を持ちかけたのか?」


 俺がそう言うと、三人はあからさまに動揺する。うーん、どちらだろう。まぁどちらでもいいがな。そんな事を考えていると、女の方が動揺したまま呟く。


「ま、まさか……リアフレ?」


「リアフレ?……あぁ、現実での知り合いだな。リフレも、ガントもシュンも」


 その言葉に三人は大いに動揺する。あぁもしかしてこいつら、俺が現実でリフレと知り合いだという事に思い至っていなかったのか。それで取引か。

 仮想世界だけの付き合いだったら情報を渡してくれるかもしれない、と。少し浅慮だったなぁそれは。すると、三人は唐突に目の前に跪いた。


「どうか、どうかこの事はご内密に!」


「伏してお願い仕る!」


「何卒、どうか何卒お願いします!」


 その必死な姿に頬が引きつる。どこまで必死なんだよこいつら。まぁいい、こちらに影響さえなければ。


「あんま過激な事すんなよ。遠くから見守ってる程度ならいいが、それ以上は運営に相談するからな」


「は、はい!それは勿論!」


「分かってるならいい。ほれ、リフレが来たぞ。さっさと散れ」


 公衆浴場側から近づいてくる見知った気配の事を告げると、三人は慌てて立ち去った。バラバラな方向に散っていった三人の姿にふぅ、と一つ溜息をつき、近づいてくる気配に声をかける。


「……お前も大変だな」


「あ、あはは……申し訳ありません。あんまり締め付けると、余計に先鋭化するってシュンが」


「過激な新興宗教かよ。まぁ似たようなものか」


 こいつが気付いてない訳がないとは思っていたが、入れ知恵していたのはシュンか。まぁその考えは正しいんだけどな。過激な思想を抑制すると先鋭化しすぎて周囲諸共爆発四散するようになる。現状くらいの、遠くから眺めて楽しむくらいは許容しないといけないんだろうな。人気者は大変だな、本当に。


「さてそれじゃあいくか。今日も西の森で鍛錬か」


「あ、それなんですけれど」


 ベンチから腰を浮かせた俺の言葉に、リフレが待ったをかける。


「そろそろ次の街、ドゥヴァリエに行きませんか?」


「ふむ、その心は?」


「ドゥヴァリエあたりから、プレイヤーのお店が増えてくるんです。それに魔獣も。ソウさんの腕前じゃ、アジンラート周辺じゃ敵は居ないでしょうし」


 なるほど、次の街か。それもいいかもな。


「それに今日休日ですし、徒歩で行くには丁度いいかなって」


「ん?次の街まで徒歩だとどれくらいかかるんだ?」


「ゲーム内時間でトラブルが無ければ大体2日ですね」


 なるほど、トラブルが無ければ、ね。いいね、面白そうじゃないか。


「よし、それじゃあ次の街へ向かうか」


「はい!それじゃあ野営の準備とか色々いきましょう!」


 こうして俺達は、次の街へと移動する事となった。


**********


 アジンラートの市場で野菜や肉を買い込み、野営用のテント、毛布、薪なんかをインベントリへと放り込む。そうして準備して南門から出立した。

 南門から伸びる踏みしめられた街道には様々なプレイヤー、住人が次の街ドゥヴァリエを目指して歩いており、俺達もそれに続く。途中馬車とすれ違ったり追い越されたりとしているが、道中はなんとものんびりしたものだ。

 途中で細い分かれ道へと離脱していくプレイヤーもいるが、そういったプレイヤーは南の草原で狩りを行うのが主目的らしい。

 草原に出るのは基本的にチャージラビットと、草原狼。イノシシなんかは出ないらしい。それ以上の狩りの対象は出ないらしいので、俺達はそのまま次の街へと続く街道を歩いていく。勿論鍛錬を行いながら、だが。


「ソウさん、これ、中々キツい……」


「身に染み込ませるんだ。やってやれない事は無い。出力の制御に意識を向けるんだ」


 普通に歩きながら魔力制御の鍛錬を行う。俺も人に指導できるほど上手な訳では無いが、できない事は無いはずだ。一度魔力制御を開始すると気配と魔力がダダ漏れになってしまうのを、制御に意識を集中して身に染み込ませる。出力の量を抑えつつ自在に調整できるようになれば、きっとダダ漏れ状態が改善できるはずだ。

 俺より先に先行してプレイしていたリフレだが、魔力制御を使用する時は常に全力だったらしいので、そういった細かな制御に意識を傾けた事が無いという。ならばこれから、制御に意識を傾け、細かな出力調整ができるようになればいい。大丈夫、俺も一緒に鍛錬するから。

 自己制御は鍛錬の基本だ。今までの現実の鍛錬を思い出して、一緒に成長していこう。


「あ、魔力切れた」


「俺もだ。じゃあ次回復するまで魔力制御は休憩な」


「はい。……それにしても、ソウさん魔力の扱い上手くないですか?」


「そうか?」


 どうなんだろうな。比較対象がリフレしかいないから分からん。


「私の方が先行してプレイしていますから、確実に魔力量は私の方が上のはずなんですけれど。魔力切れまではほぼ一緒じゃないですか。習得ボーナス乗ってるんですかね」


「あぁ、それがあったか。そう言われると確かに、魔力の細かな調整とかに関しては習得ボーナス乗ってもおかしくはないわな」


 何せこの世界にしかない魔法要素だ。現実では持ち得ない力だから、その習得に魔人種特有の習得ボーナスが乗っていてもおかしくは無い。そういう意味では魔人種で得をしたな。

 そんな事を考えながら街道を進み、魔力が回復したらまた魔力制御の鍛錬を行い、休憩して、また行う。少しずつ少しずつ制御の扱いに慣れてきた頃にゲーム内で夕方となり、俺達は街道沿いの一つの広場へと到着した。

 そこではいくつかのテントが既に張られ、かまどのように石を積んでいる人達がいる。


「リフレ、ここは?」


「ここは街道沿いのセーフティエリアです。といってもログアウトが安全っていうだけで、野生動物も魔獣も現れるんですけれど」


「セーフティエリア外でのログアウトはアバターが残るんだったな」


「はい。なのでプレイヤー的には、ここでログアウトするのは安全です」


 なるほど、徒歩で時間のかかる場所にはこうして安全地帯を設けている訳か。確かにこれなら時間的に都合悪くてもプレイヤーはなんとか次の街へ辿り着けるな。


「それで、俺達はどうする」


「勿論、野営です。住人もいますから」


 なるほどね。住人の事も考えて野営、と。まぁそれもいいんだろうな。俺も久しぶりの野営だ、楽しむか。


「では俺はかまどを設置する。リフレ、お前はテントを張れ」


「分かりました。焚き火はどうしますか?」


「勿論用意するさ。かまどの後に焚き火だ。お前がテントを張ってる間にやっておくよ」


「分かりました、よろしくお願いします」


 さて、全力で取り組ませて貰おうかな。

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