こんなに大規模にやってんだな
先程の飲食店での馬鹿みたいな騒ぎについて、多くの見物人がいた事から掲示板でも若干話題になっていた。『やっぱりあれは浸透勁だったのか』『ソウは運営公認リアルチート』『現場であれ見たけどやった事が意味わからん』といった具合だ。とにかく俺のチート、不正疑惑に関しては払拭されたと言っていいだろう。何よりGM、運営が不正は無かったと公言したのが大きい。実際不正なんて何もしていないしね。そんな掲示板を眺めながら酒を飲み、ゆっくりした後で坑道前へと訪れた俺達は一つの建物の中にいた。その中には煙が立ち込め大量の熱が発生している。炭焼き施設だ。煙を吐き出す煙突以外を全て土で塞いだいくつもの窯が並んでいる。
「こんなに大規模にやってんだな」
「熱が凄いですね」
俺の感想にリフレが追従する。確かに熱が凄い。高温で木を炭にするのだからそりゃ高熱が発生するものだ。そんな当たり前の感想を言っていると、管理しているおじさんが話しかけてきた。
「こんだけやっても全然たんねぇよ!窯を増設するかって話にもなってんだ」
「それは、管理が今以上に大変になりそうですね」
おじさんの言葉にフタバが当たり前の懸念を言う。これ以上の窯の管理なんて何より管理するおじさん達の体力が大変そうだ。そんな事を言うとおじさんはガハハと笑った。
「そりゃあ大変だけどな!大事な仕事だ、やり甲斐ってもんがある!金払いもいいしなぁ!!」
「そうなのね。頑張ってほしいわね」
「ありがとようお嬢ちゃん!」
おじさんはそう言ってネスの言葉に再び笑う。俺達はそのまま炭焼き施設を出て坑道前の通りを歩いた。
「はぁ、中暑かったわ」
「予想以上の熱気だったな。炭焼き職人も大変だ」
ネスの若干疲れたような感想に俺も続く。そうして通りを歩いていると、何やら賑やかな一角があった。どうやら飲食店らしいが、そこの前に置かれた大樽の腕で男達が肘をついて腕を組み合っている。あれは腕相撲か。坑夫達が観戦しながら盛り上がっている。
「もっと気合入れろおらーっ!」
「踏ん張れこらー!」
観戦している坑夫が酒を飲みながら好き勝手言ってる。かなり盛り上がってるなぁ。やがて片方の男の腕が倒されて、勝負はついた。その事に周囲の坑夫達はさらにやんややんやと騒ぎ立てる。お陰で店は繁盛しているようで、酒とつまみが大量に運ばれていた。坑夫達の息抜きも大変だな。
「ソウさんも参加してみたらどうですか?」
「いや坑夫だけで盛り上がってるんだからそんな無粋な真似できんよ」
リフレの言葉に苦笑いしながら言う。うん、坑夫に混じって参加とか遠慮したい。酒の入った坑夫達に周辺でやんややんや言われるとかしんどそうだ。それにあれは坑夫達の息抜きだし。そんな盛り上がっている酒場の前を通り過ぎると、以前見かけた革鎧を着た女性が客引きしている建物に辿り着く。あぁ、ここは、そういう店の所か。3軒くらい並んだそういう店の前で、革鎧を着た女性がそれぞれ前を通る坑夫に声をかける。それを通り過ぎる者もいれば、誘われてフラフラと入っていく人もいる。しかしなんでみんな革鎧着てるんだろうか。
「ねぇ、なんで革鎧着てるのかしら?」
「いや、なんでだろうな」
ネスの当然の疑問に俺も疑問で返す。するとそんな俺達に声がかけられた。
「この辺にもたまに野生の獣が出るからだよ」
その聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはローブ姿のダンザがいた。
「ダンザか!」
「よう、久しぶりだなソウ!」
「あぁ久しぶり!元気そうだな」
お互い歩み寄って握手を交わす。どうやら丁度鉱山ダンジョンから出てきた所らしく、少し埃がローブについていた。
「そっちのお嬢さん達も久しぶりだな。あんたは初めましてだな」
「初めまして、フタバと申します」
ダンザの言葉にフタバが丁寧に礼をする。どうやら俺の態度から友好的な人物だと感じ取ってくれたらしい。
「それで今日はどうした、これから鉱山ダンジョンって訳でもないんだろ?」
「あぁ、ちょっとこの通りの見学をな。ダンザはダンジョン帰りか」
「まぁな。仲間は先に帰らせた。丁度お前達を見かけたんでな」
なるほど、仲間達とのダンジョン帰りだったか。それで俺達を見かけたから声をかけにきてくれたと。やっぱりこいついいヤツだな。
「それにしてもこの通りの見学なんて変わってるな。坑夫と娼婦しかいねぇぞ」
「炭焼きに興味があってな、見てきたんだ」
「それもまた変わってる。相変わらずみてぇだなぁ」
そう言ってダンザはハハハと笑う。うん、確かにそういった施設をただ見学に来るっていうのは変わっているのかもしれないな。
「あぁそうだ、もし暇だったら兵団本部にこねぇか?団長がお前に会いたがってるんだよ」
「ジェニスが?またどうして」
ダンザの突然の話に思わず問い返す。そうるとダンザは苦笑いを浮かべた。
「いや、報酬の件で言いたい事があるんだと。俺とレイナードにあんたをまた見かけたら呼ぶように言われてたんだ」
「なるほど。別に暇と言えば暇だからな、今から行っても構わないぞ」
「そりゃ都合がいい。今日なら団長も確実にいるからな、是非来てくれよ。そっちのお嬢さん達も一緒にな」
ダンザの言葉にみんなを見回すと頷くので、そのまま兵団本部へと向かった。傭兵団グランドールの本部は相変わらず質実剛健な作りだ。ダンザに先導されてそのまま中へ入ると、ダンザは受付に何かを言付けてから俺達を部屋へと案内した。案内されたのは以前の応接室よりも一回りくらい広い部屋。更に上のグレードの部屋があったのか。そこのソファーに腰掛けるように案内されると、ダンザが俺達にお茶を入れ始めた。
「意外だな、お茶を入れられるんだな」
「俺のお茶を飲めるなんて中々ねぇ事だから感謝しろよ」
そう言って笑うダンザに俺も笑いお茶を飲む。うむ、中々美味いじゃないか。そうしてしばらくダンザと喋って待っていると、部屋の扉が開く。そこに入ってきたのはジェニスとレイナード、そしてジェニスの2人の妻だった。
「やぁ、ソウ。久しぶりだね」
「あぁジェニス。あの日以来だな」
「久しぶりだ」
「レイナードも元気そうで何よりだ」
相変わらず無愛想なレイナードだが気にせず挨拶をする。そうして互いに挨拶をしてから席に座って、ジェニスが俺に聞いてきた。
「そちらのお嬢さんは初めてだね。この傭兵団グランドールの団長ジェニスと言う」
「フタバと申します。よろしくお願い致します」
ジェニスの自己紹介にフタバが綺麗な礼をして返すと、ジェニスは笑顔で頷いた。
「またお綺麗な方じゃないか。ソウは相変わらずだな」
「なにをもって相変わらずって言ってるんだ」
「周りを見れば分かるだろう?」
そう言われては何も言えない。思わず苦笑いを浮かべると、ジェニスの妻ジャスリーンがジェニスに言ってきた。
「団長、本題を」
「あぁ、そうだね。ソウに伝えておかないといけない事がある」
「何かあったのか?」
そう聞くと、ジェニスは困ったように頬を掻いた。
「いや実はだね。君から貰ったアダマンタイトなんだが、半分だけ市場に流したんだよ。それくらいなら相場も荒れることは無いと思ってね」
「まぁ、それくらいなら大丈夫じゃないのか?」
「ところがだ。相場は大いに荒れた。上昇が止まらなかったんだ」
ジェニスの言葉に思わず目を見開く。ジェニスの報酬として渡したゴーレムの頭は、全体で見れば一割にも届かない量だ。それなのに相場が上昇を止めなかったという事か。
「どうやら来訪者のグループが絡んでいるらしくてね、市場のアダマンタイトを買い漁っているらしい」
「来訪者か。それは商人のグループか?」
「窓口は商人だけどね、裏にいるのはその来訪者グループだ。どうも前線組とか呼ばれているグループらしい」
また出た前線組。なんでこんな所でまで奴らが絡んでくるのか。
「ギルド名とか分かるか?」
「複数のギルドが協合で金を出しているらしい。それを商人が経由して購入している、と。市場の操作どころの話じゃない、市場を完全に荒らしに来ているよ」
「はぁ……なんて迷惑な輩達だ」
「全くだ。お陰でこちらは今後の市場への鉱石の流通に慎重にならざるを得ない。相場を崩すのはこちらの本意ではないからね」
全くなんていう事だ。来訪者が市場経済をメチャクチャにするつもりなのか。しかしそれは、どうするか。
「実は来訪者独自の情報網で、俺が大量のアダマンタイトを所有している事を多くの来訪者が知っている」
「それは、また。もしかしてそれが市場に流れるのを期待してその来訪者グループは市場のアダマンタイトを買い漁っているのか?」
「その可能性はあるかもしれない。だがジェニスに警告された通り、俺は市場に流していない」
「なるほど、それでアダマンタイトの値上がりが激しくなっているのか。既存の量しか流通していないのだから、ソウが持っている分を吐き出さない限りは値上がりは続く可能性もあるな」
ジェニスの言う通りだ。俺が所有するアダマンタイトを放出しなければ、アダマンタイトの相場が高止まりしたままの可能性もある。でもなぁ。
「それ、やるべきだと思うか?」
「難しい所だね。アダマンタイトは戦う者であれば誰もが欲しがる素材だ。君達も必要だろうから、それを身を削って放出するなんて事はしなくても良いとは思うが」
「市場経済としては現状は健全ではないよな。俺が放出すれば自然と価格は抑えられるが、それをする俺のメリットが金しか無い」
「だね。だから難しい所だ。それに君が大量に保有している事を他の来訪者も知っているのであれば、既に何らかの接触があったんじゃないのかい?」
「あぁ、何件かな。商人の来訪者グループは追い返して、前線組の一つの来訪者ギルドとは戦争になった。こちらが勝ったがな」
「なるほど、戦争に勝ったか。であれば直接手を出す訳にはいかなくなっているだろうね。それで余計に市場に流れるのを期待する、と」
あぁ本当に、前線組はどうしてこうも俺に迷惑をかけてくるのか。いや今回に関しては俺だけの問題じゃない、この世界の市場経済にも迷惑をかけている。なんて自己中な輩なんだ、前線組。
「今の所解決策と言っていいものは思い当たらないね。奴らの金が尽きて諦めるのを待つのが一番いい気がしてきたよ」
「金はさすがに無限じゃないからな、それがいいかもしれない。あの時ジェニスに警告されてなかったらもっと酷い状況になっていたかもしれないな」
「それは何よりだ。だが君は今後も警戒しておいたほうが良い。今の市場ははっきり言ってめちゃくちゃだ。君の行動一つで市場経済が大きく変動する可能性が高い」
「……そんな重荷背負いたくないんだが、こうなっては仕方ない、か。また何かあったら教えてくれると助かる」
「あぁそうだね。だが俺は君の連絡先を知らないぞ?」
あ、そう言えば言っていなかったか。
「ドゥヴァリエに拠点を置いているギルド【九堂武術道場】だ。そこの代表をしている」
俺がそう言うとジェニスは笑みを深め、隣の彼の妻ジャスリーンとローレンが驚きの表情を浮かべていた。一体なんだ?
「先日スェーミェで大暴れした道場じゃないか。なるほど、君の所か。いや納得したよ」
「耳が良くて助かるよ。その時の大暴れが来訪者ギルドとの戦争だ」
「そうだろうね、納得だ。それじゃあ何かあったら情報をそちらに流すよ」
「あぁ、助かるよ。それじゃ俺達はこの辺で、ちょっと相談してくる」
「分かった。くれぐれも気をつけてな」
「ありがとう」
そう言って席を立つ。ジェニス達に見送られて兵団本部を後にしてから俺はネスに話しかけた。
「今の内容を相談しないとな。マリッサに連絡を取ってくれ。俺は経営陣に連絡する」
「分かったわ。マリッサの所で落ち合うように言いましょう」
俺はギルドチャットで経営陣へと連絡し、『電脳遊戯倶楽部』で落ち合うよう指示する。ネスもマリッサに連絡を終え、俺達はそのまま転移門へと移動した。
「全く、なんでこんな話になってるんだか」
「アダマンタイトの件は、まだまだ落ち着か無さそうですね」
リフレの言葉にその通りだと心の中で返事をしてから俺達は転移門で再びドゥヴァリエへと帰還した。




