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それにしても……凄いですね


 アジンラートの西門を出て30分程街道を歩いた先に、ある森。俺達はそこへ来ていた。薬草摘みの時にも思ったがこの世界は森なんかに入ると途端に野生動物の気配が増える。自然が凄い生きてるなぁと思いつつ森林内をなるべく音を立てず歩く。

 木の根や下草などで足場は悪いが、特に大きく影響するようなものはない。リフレは被っていたフード付きマントをインベントリへとしまい、槍を手にして俺についてくる。その槍も材質はガント達と同じミスリル製のようだ。


「それにしても……凄いですね」


「あ?なにがだ」


「いえ、森歩きに慣れているというか……」


「そりゃ、何度も経験あるからな」


「現実で、って事ですもんね」


 俺の言葉にほう、と溜息をつきながらリフレが言う。確かに現実で山籠りなんて今時現実的ではないのだが、俺にはその経験がある。山籠りにこれくらいの技量は必須だったのだ。まぁ現実の山じゃ、ここまで野生生物の気配を感じた事は無いが。

 思いつつ歩いていると、横から一つの意識を感じる。下草でまだ見えないが、こちらに対して敵意を持った何かだ。その場に足を止めて、姿を現すのを待つ。リフレもそれに気付き、槍を構え見据えた。

 ガサガサと音を鳴らしながら姿を現したのは、一匹の小型犬並みのウサギだった。


「ふむ、あれは?」


「チャージラビットですね、動物です。皮はそんなに手に入りませんが、肉は狩猟ギルドで買取してます」


「なるほど、動物ね」


 ウサギはそのまま勢いをつけるように俺へ飛びかかってきたので、その場を動かず上から拳を叩き込む。結構な勢いと高さのジャンプだったが、ただそれだけだ。脅威にはならなかった。

 カウンターとして入った拳の勢いのまま地面へと叩きつけられ、チャージラビットはあえなく撃沈した。


「こんなもんか」


「まぁ、ソウさんならそうですよね」


 俺の言葉に頷くようにリフレが言い、そのままチャージラビットを拾い上げる。それを手にしたまま俺に問いかけた。


「どうします、今捌いちゃいますか?狩猟ギルドにそのまま納品してもいいですけれど、バラしてから納品する方が買取額高いですよ」


「じゃあバラすか」


 俺がそう言うとはい、とリフレがウサギを手渡してくる。


「ソウさんの獲物なので、ソウさん解体して下さい」


「なるほど、了解」


 そのままウサギを受け取り、腰につけていた小剣を引き抜く。防具店で貰った解体用ナイフだ。それでウサギの首を切り、血抜きを行う。

 血抜きが終わった所で腹を捌いて内臓を抜く。そして皮を剥いで終わりだ。一応皮とウサギの頭は繋げておく。その手際にリフレがおー、と声をあげる。


「さすが、完璧ですね。皮も傷ついていないし、結構な買取額になるかも」


「武器を使うとどうしても肉や皮が傷つくか」


「そうですね、なるべく急所狙いで、頭だけ狙うように狩るぐらいですかね」


 でも、とリフレが槍を構えながら言う。


「血の匂いで来ましたね。先行2体ですね」


「ま、それもわざとだ」


 リフレの索敵レンジに引っかかったのだろう、2体の獣の気配に槍を構えたリフレに笑みを浮かべながら言い、捌いたウサギをインベントリに放り込む。俺の言葉に一瞬呆れたような表情を浮かべたリフレが、それでは、と槍を引いた。


「お任せします」


「おう。全体で6体だな、まぁこれぐらいか」


「……本当に、この人は」


 ガサガサと音を鳴らしながらこちらへと駆けてくる比較的大きな獣。狼か。これくらいならどうとでもなる。やがて姿を見せたそれに、俺の方からつっかけた。

 バカ正直に獲物と見込んで突っ込んできた狼の鼻っ柱に拳を叩き込み、勢いを殺さず回し蹴りでもう一体。後続の一体に足刀を喉に浴びせ、返す刀でもう一体に裏拳を叩き込む。これで四体。

 残った二体にもきっちりと打撃を与え、全ての狼が地面へと倒れ伏した。さてそれじゃあ、解体の時間だ。合計6体、解体の方が時間かかりそうだ。


「リフレ、解体手伝え」


「はい。あ、それじゃあこれ使いますね」


 俺がそう言うとリフレが周囲へと呼びかけるように言葉を紡ぐ。


『精霊よ。獣達を木に吊るして』


 すると周囲の木々に絡まっていた蔦が這い、狼達を勝手に周辺の木に吊るしていく。おぉ、これが精霊魔法か。


「なるほど、便利だな」


「私の習熟度だとこれくらいしかできないですけれど。こういう時には楽ですよ」


「確かに。俺も練習してみるか」


 精霊魔法の便利さに驚きながら狼の毛皮を剥いでいく。狼は毛皮だけの買取で、肉は買取外だそうだ。筋張って硬く旨味の無い肉は買取されていないらしい。確かにとも思う。

 狼の肉はそのまま地面へと埋める事にした。その時に初めて俺は精霊魔法を使い地面へ穴を開ける。使った瞬間若干の虚脱感を覚えたのだが、これがゲーム内で言う所の『魔力を消費する』感覚らしい。

 ううむ、このゲーム奥が深いなと思いながら穴を開けてそこへ狼の肉を放り投げる。そして再び埋め戻す。この時にも虚脱感を覚えたが、無事に狼の死体は土へと還された。


「魔力を消費する感覚、慣れんとな」


「今回は初めてで結構大きな穴開けてましたし、少しずつ慣らしていけばいいと思いますよ」


「そういうものか」


「はい。あとは日々の練習で魔力制御を行っていくのが良いかと」


「魔力制御?」


 確か初ログイン時にそんな言葉を聞いた覚えがあるな。そう思っているとリフレが唐突に構えを取ると、全身から淡い燐光のようなものを出す。それと共に気配も増した。


「これが、魔力制御です。全身と武器に魔力を纏って、敵を攻撃するんです。攻撃力増加と防御力増加、あとは通常の物理攻撃の通用しない敵への攻撃に有効ですね」


「なるほど。通常の物理攻撃の通用しない敵っていうと?」


「ゴーストとか、ポルターガイストとか。幽霊系の魔物がいるんです」


「ふむ、厄介な敵もいるものだな」


「そういう敵には魔力制御で攻撃とか、魔法で攻撃とかが有効です。あとは銀ですね」


「おぉ、王道」


 なるほどファンタジー。そういう敵もいるのか。しかし、だ。


「それ、気配ダダ漏れなんだよなぁ」


「そう、ですね。確かにそうなっちゃいます」


「今のでこっちに向かってきていた獣がどっか行ったぞ」


「あー、まぁそれは、仕方ないということで」


 てへへ、と言いながらリフレが笑う。まぁ実演して貰えたのは助かるからな。俺も一度やってみるか。


「それで、魔力制御に関して意識はどのように置けばいい?」


「はい、強固に『魔力を纏う』という意識を置く事で自然と可能になります。習熟度でどの程度の強固さになるかが変わってくるので、要練習ですね」


「なるほど。よし一度やってみるか」


 俺はそう言うと正中の構えを取り、魔力制御を意識する。途端、チラチラと淡い燐光が身体から発せられるのが分かった。その俺の姿におー、とリフレが声を上げる。


「一発で成功ですか。流石というかなんというか、でも」


「やっぱり目立つよな、これ」


「ですねぇ」


 自分でも分かる程に、気配が増大している。それに、魔力の放出量が結構多い。これはまだ、無駄があるという事かな。確かに要練習だ。だがこれは、なんというか、やり甲斐があるな。


「よし、これは修練だな。最終目標は気配を消しながら魔力制御ができるようになるといい」


「えっ、それは……できるんでしょうか」


「まぁやってやれない事は無いだろ。何事も修練だ」


「そう、ですね。頑張って下さい」


「何いってんだ、お前もやるんだよ」


「えっ」


 俺の言葉にリフレが頬を引きつらせる。俺に同行する以上、お前にもそうなって貰わないと困るからな。お互いに、要練習だ。


「という事で、今日はこのまま魔力制御の修練をしつつ、狩りだ。異論は許さん」


「は、はいっ。わかりました」


 その後の狩りで、獲物には出会えなかった。しかしちょっとだけ、魔力制御が上手くなったような気がする。うむ、要練習、だな。

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