ゲーム内での活動は順調か?
現実での夕食時、師範から声をかけられる。
「ゲーム内での活動は順調か?」
「まだ全員が拠点付近に集合した所です。本格的な活動は明日からになりますね」
「そうか。まぁお前の準備が上手くいったようで何よりだ。今後もよろしく頼むよ」
「可能な限りサポートします」
そんな会話を終え夕食後にログインする。いつもの金の牡鹿亭の部屋を確認してから廊下に出てリフレ達と合流。そのまま宿の受付へと行く。
「ソウ様。どのようなご用事でしょうか」
「あぁ。この宿には世話になった。今以上の宿泊の延長はしないつもりでな」
「なるほど、そうでございますか」
そう言うと受付の男性はカウンターの下から一つの銀色に輝く小さなプレートを出してきた。
「これは?」
「当館グループの会員証となります。ソウ様にはこちらをお持ちいただく資格がございますので。当館グループであればこちらを提出いただければ、今後はスイートルームのご利用も可能となります」
「そうか。ありがたく頂いておこう」
「残り少ない期間ではございますが、何卒よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
プレートをインベントリにしまって宿を出ると、リフレが言ってきた。
「すごいですね。噂のVIP用パスですよ。何が原因なんでしょう」
「VIP用パス?そんなものだったのか」
「プレイヤーの間ではそう言われてますね。金の牡鹿亭のスイートは普通の人は泊まれない仕様なんですよ」
「長期滞在……だけだったら他のプレイヤーでもできるでしょうし、何が原因かしらね」
リフレとネスの言葉にうーんと頭を悩ませるが答えは出ない。ま、いいか。貰えるものは貰っておこう。別に困るものでもないしな。
俺達は一路九堂武術道場の集まる北門近くへ行くと、天幕の周辺では何やら色々と作業をしている者達がいた。あれはガミンガ達か。そこへ近づき声をかける。
「お前達、どうしたんだ?」
「おぉ鬼神殿か。今無手の者達の採寸を行っているのだ」
俺の問いかけにガミンガが答える。どうもガミンガとレイコップからは鬼神呼びが定着してしまったが、まぁいいか。
彼らは確かに門下生の腕を測り、それを横にいる青年がメモしている。この青年は住人か。恐らく雇っている従業員だろう。
「それは助かるな」
「なに、全員の武器を『電脳遊戯倶楽部』だけで賄うのは無理だろう。それに俺達にも客がつくというメリットもある」
「そういう事ね」
俺の礼にレイコップとシャーサが答える。確かに彼らからすれば商売のチャンスでもあるわけか。彼らは次々に腕を測り、全員の分が終わると検討に入った。
「最初はこの近辺で取れる皮でいいだろう。後々装備の更新が必要になった時にまた作り直せばいい」
「それもそうですね。ガントレットではなく手甲ですからそれほど作業量も多くないですし」
「となるとブラックドッグと三つ目狼かしら。二重構造にはしたいわよね」
「そのくらいが妥当だろうな。最初から良い装備を渡してもという問題はあるし、赤色熊は在庫が少ない」
などなど、職人同士で色々検討を行っていると、俺に対して横から声がかけられる。
「宗吾様」
「ん、どうした?」
そちらの方を振り向くと、緑色の髪の毛を流した着物の女性が立っていた。あぁ経営陣の方だな。うん、着物?
「あれ、その着物どうしたんだ?」
「あ、こちらは昨夜、『電脳遊戯倶楽部』の方からいただきました。洋服は落ち着かないと言った所こちらを渡されたので」
これはナリンセンの仕業かな。比較的落ち着いた藍色の紬だ。帯もしっかりしている。中々やるじゃないか、ナリンセン。
「それで、何か用事か?」
「はい。無手の型以外の者達が既に狩りに出かけております。師範代共々」
「……師範代達も行ったのか」
「はい、喜々として向かいました」
うん、そうか。喜々として向かったか。まぁ実戦なんて長らくしていないだろうから仕方ないか。
「それで、現在の所私共の仕事がありませんので、まずはこのゲームの機能や仕様について勉強したく。どなたかご教授いただけないかと」
「そうだな……。ならば一緒に『電脳遊戯倶楽部』へ向かうか。俺も知らない機能などがあるし、ギルド機能は特に分からんのだ」
「ある程度なら私やリフレが教える事は可能だけれど、知識量で言えば圧倒的にマリッサ達には負けるものね」
俺の言葉にネスが同意する。すると経営陣の方は他の2人も呼んで、俺達と経営陣3人で『電脳遊戯倶楽部』へと向かう事になった。経営陣3人はいずれも着物姿だ。やるな、ナリンセン。
『電脳遊戯倶楽部』へと入ると、リットンがカウンターにいた。いつものことだ。
「いらっしゃ~い。なにかご用事ですか?」
「あぁ、ちょっとゲームの機能や仕様について経営陣の方に教えてくれる教授役を探していてな。俺が思いつくのはこの店の人間しか居なかったのだ」
「なるほどなるほど~。そういう事でしたら店長にお話しましょうか。今暇してるはずですし」
「あぁ、頼めるか?」
するとリットンがウィンドウを操作し始める。数秒置いて、応接室からマリッサとナリンセンが出てきた。
「いらっしゃいみんな。ゲームの機能について教えてほしいって事だけど」
「あぁ、こんな事頼めるのはこの店の人間しか知らなくてな。頼めるか」
「いいわよ。暇な時に教えてあげるわ。ついては今からある程度教えるから、会議室に行きましょう」
そうしてマリッサが快く教えてくれる事になり、会議室に先導される。その途中で、ナリンセンに声をかけた。
「ナリンセン、着物作ったんだな」
「うん、でもまだちょっとしか出来てない」
「今後も追加で研究開発を行ってほしい。金は今渡すから、必要なだけ使ってくれ。その代わり優先的にウチのギルドに納品して欲しい」
そう言って俺はナリンセンに百万ロンの入った袋を手渡す。ナリンセンはそれをインベントリに入れると、一つ頷いた。
「分かった。優先的にそっちに卸す。今後は単衣だけじゃなく裏地のついたものとかも作っていく。デザイン性の向上も目指す」
「あぁ頼むよ」
ナリンセンとの交渉が済んで会議室へと入る。円卓状の会議室に固まって座り、俺達はマリッサの講義を待つ。
「とりあえず今一番必要だと思うのがギルド機能よね。ここらへんの機能について説明するわ」
「よろしくお願いします」
そうしてマリッサからの講義が開始した。俺も知らなかったギルド機能について詳しく教えてくれる。結局この日は眠る時間近くまで、マリッサからの講義を受け続けるのだった。
明けて翌日。朝食後午前の鍛錬を行い、風呂に入ってからゲーム内へログイン。ゲーム内にログインすると、メニュー画面のギルドの項目が点滅していた。
それを開くと『ギルドインフォメーション』が表示される。『ギルドインフォメーション』はギルドメニューを表示するとトップに表示される告知画面だ。今まで俺は更新せず空欄だったのだが、どうやら経営陣の方が更新してくれたようだ。そこには現実時間での各食事の時間と鍛錬の時間が記載され、この時間には必ず顔を出すようにと記載されている。当たり前の事ではあるが、重要な事だ。
またギルド機能にある『ギルドマネー』に個人が得た収入の中からいくらかを入金するようにとの記載もある。『ギルドマネー』機能はその名の通りギルド内で共有されるお金の事だ。そのお金を元手にギルドに必要な物品を揃えたり、土地や建物を買ったりといった事ができる。このお金を引き出す権限を持つものは今の所ギルドマスターである俺とサブマスターである師範代5人、そして経営陣の3人を設定している。入金は誰でも可能だ。これで遠く離れていてもギルド内であればお金を共有できるという事だ。ぶっちゃけこの機能超便利。
そして財産の共有という意味ではもう一つ『ギルドインベントリ』という機能がある。これは個人のインベントリとは別に、ギルド内でアイテムを共有するインベントリだ。この機能はギルドに所属している全員が使用できる。これも便利なので、今後はギルド内で共有するべきものがあったら使用していこうと思う。
他にも『ギルドチャット』などの機能もあるが、これは必要な時しか使わないだろう。
そうしてギルドの告知を確認してから宿の廊下に出ると、リフレとネスが待っていたので合流する。そのまま自然な流れで北門を出て門下生達の集まる場所へと訪れた。
道場となる建物は既に家屋部分の建築に着手しており、着々と進んでいるのが分かる。こうして進捗を確認できるのは楽しいな。
その様子を横目で見ながら天幕へ行くと、経営陣の方が出迎えに来てくれた。
「宗吾様」
「なにか問題はないか?」
「はい、特に問題はございません。こちらは通常通りです」
「それは何より。そろそろ俺達は次の街へ移動しようと思っている。基本的な運営部分については任せても大丈夫か」
「はい、問題のないように運営いたします。それで、具体的な日取りはいつになるでしょうか」
「そうだな、現実時間で夕食後になると思う」
「かしこまりました」
そう言って頭を下げる経営陣の方に見送られてその場を後にする。街中に戻りながらリフレとネスと会話をした。
「みんなも来ましたし、いよいよ次の街ですね」
「久しぶりにこの街から移動する事になるわ」
「あぁ、やっと移動できる。ギルドの拠点が完成して正常に稼働するようになればもっと安心できるんだがな」
「移動は駅馬車ですか?」
「さすがに歩いて2日3日は現実の時間が取れないからな。今回は駅馬車だ」
「となると、現実時間の午後の鍛錬でシュン達の鍛錬は一旦一区切りね」
「そうなる」
そんな事を話しながら東の森へと入る。ここ最近のお気に入りの場所だ。北のステップより襲ってくる敵も多いし、ブラックドッグは好戦的だ。何より薬草類の素材も手に入る。ブラックドッグの毛皮の質が低いのだけが難点だな。
そうして薬草類を採取しながら森を奥へと進み、ブラックドッグを対処する。ブラックドッグの攻撃パターンはワンパターンなのだが、あのヒリつくような殺気は身が引き締まる。良い鍛錬相手だ。
そうして薬草類を採取しブラックドッグの毛皮を得ていると、一本の実のなる木が生えていた。その実は桃のように薄桃色をした果実が実っている。
「お、これはなんだ?」
「あぁこれはクリンの実ですね。こんな所に生えているなんて珍しい」
「クリンの実?」
謎の単語に頭を捻らせる。聞いたことの無い実だ。
「この実の果汁は洗剤代わりになるのよ。実を干すと石鹸代わりね。だから食べちゃ駄目よ」
「こんな美味そうな見た目で食べられないのかよ」
「見た目は桃に似てますもんね。実際プレイヤーが食べて口の中が大変なことになったって聞きました」
「それは確かに大変だ」
洗剤を口にぶち込まれるなんて悪夢以外の何物でもない。この世界じゃ美味そうな果実でも気をつけて食べるようにしよう。
「折角だから採っていきましょ。ギルドで洗剤として使ってもらえばいいわ」
「そうしましょうか」
そうして俺達はクリンの実を採取した。一本の木から結構な量の実が採れたのでお得だな。これは2人の言う通りギルドの洗剤代わりに使ってもらおう。というかこの世界の洗剤ってどうなっているんだったか。
「もしかしてこの世界の石鹸て、原始的な脂で作った奴なのか?」
「流石に獣脂ではないみたいですが、木灰を水に溶かして油を固めてるみたいです」
「でも基本はこのクリンの実を使うのが多いみたいよ。こっちの方が量は取れるし安全だしね」
「なるほどなぁ」
2人の説明に納得する。クリンの実のような便利なものがあればそっちを優先的に使うのは当たり前か。そんな事を思いながら、俺は再び森の探索へと戻るのだった。




