これほどか!これほどの厳しい環境ですか!なんというものだこの山は!
午後のログインで登山の続きだ、休憩小屋に全員がログインしたのを確認してからみんなで小屋を出て早速登山を開始する。8合目の分岐点を超えた所で声が上がった。
「これほどか!これほどの厳しい環境ですか!なんというものだこの山は!」
「これの更に上がもう一段!全く本当に楽しいものだ!素晴らしいものだ!」
「楽しいですなぁ!実に楽しい!このような体験ができるなど本当に思わなかった!」
寒さに震えながら師範代達が本当に楽しそうにそんな事を言っている、やはりこいつらも九堂の剣、俺よりも長い間師範代を務めているだけある、肉体はともかく精神は俺よりも頑強だ。そうして9合目の分岐点を更に超える。
「おかしい!この山はおかしい!なんだこれ!なんだこれ!!」
「乗り越えるんだガント、師範代達の通った道だ、俺達も乗り越えるんだ」
「本当に試練よこれは、本物の試練、神と敵対するほうが生易しい試練」
「絶対に乗り越えるんです、私達ならいけます、一丸となって乗り越えるんです」
ガントの悲鳴にシュンが諌めて、イロハッチとメープリーが気合を入れて山を登る。そうだ、お前達にも乗り越えられる、だから一緒に行くんだ。
「こんなの、聞いてません、こんな山なんて、思ってません」
「アヤカも乗り越えるのですわ、わたくし達に着いてくるなら乗り越えなければいけませんわ」
アヤカの息を切らせながらの言葉にフタバが励ます。俺達に着いてくるならばお前も乗り越えなければなるまいよ、アヤカ。そうしていよいよ最上段、物見台に到着すると、全員が歓声を上げた。
「登ったー!!」
「やってやった、やってやったぞ!」
ガントが両腕を掲げて喜びシュンも喜び手を挙げる。イロハッチとメープリーもお互い抱き合って喜んでいた。娼館組もドS組もクタクタになりながらも喜び合う。そうして物見台からの景色を師範代達が楽しんでいた。
「いやぁ絶景かな絶景かな!雲の上からの景色!素晴らしい!」
「素晴らしいものですなぁ!このような景色にお目にかかるとは思いませんでしたなぁ!」
師範代達は一頻り景色を楽しんだ後で喋りだす。
「さて一先ずあの穴蔵は置いておいて、空気もこれほど薄く寒さもこんなにも厳しい、ならば」
「この場でしか出来ない事をやりましょう、高山トレーニングですな」
「では剣を打ち合わせましょう、やりましょうぞ」
「ですな、では早速」
そうして師範代達が石碑の横の穴を無視して、早速素振りをしてから剣を打ち合わせ始める。
「では隼人、拳を交えよう」
「よろしくお願いします、熊野師範代」
無手の師範代とシュンがお互いに構えて拳を交え始めると、ガントとイロハッチ、メープリーも神剣を手にして剣を交え始めた。その様子を見て、呆れる。
「ねぇ、あの頃の私達が必死すぎたのかしら」
「確かに必死でしたけれど、それでも師範代達はおかしいですよ」
呆れをそのままにネスが言うと、リフレも呆れたまま答える。あの頃の俺達は本当に必死でこの山を登りここに辿り着いた訳だが、そんな高山トレーニングするなんて思考には至らなかったものだ。本当に、呆れる。
「あのような精神状態にどうすれば持っていけるのだろうか」
「それこそ師範代達程度に歳を取らなければ無理でしょう」
俺が真剣に考えているとフタバが苦笑しながら言う。そうだな、師範代達程度に歳を取り経験を積まなければあそこには至れないかもしれないな。今は時間が必要か。
「では彩花さん、私達もやりましょうか」
「ちょっと、待って下さい、もう少し、休憩を」
「人を軟弱者と呼んでおいてそれですか?彩花さんの方が軟弱ですね」
リフレがアヤカに呼びかけるとアヤカが呼吸を整えながら答える姿にリフレが笑う。そうだな、アヤカはリフレを軟弱者と呼んでいた、だが実際に試練を経験してその考えも変わる事だろう。そうして少し時間を置いてアヤカとリフレが槍を交え、俺達も一通り鍛錬を行う。確かに空気も薄く寒さも厳しいこの環境、鍛錬にはうってつけかもしれない。
しばらくそれぞれがトレーニングを行った所で、全員に声をかける。
「それでは皆、そろそろ霊獣と世界樹に顔を出しに行こう、きっと待っている事だろうからな」
「分かりました、行きましょう」
俺の呼びかけに師範代が答え、全員で穴蔵を通り大きなダンジョンの入り口へと入る。お、今回はちゃんと空気圧を調整していてくれるな。そうして少し歩いて、霊獣の所に辿り着いた。
『久しぶりだな、神威を纏う者達よ』
「あぁ久しぶりだな、霊獣。早速だが世界樹に顔を出したい」
『分かっている、では我について来い』
霊獣の案内に従い再びダンジョンの入り口を通ると世界樹の前だ、その世界樹の姿に皆がおおー、と歓声を上げた。
「本拠地にあるものより、遥かに大きい」
「これが世界樹の本当の姿ですか、確かにこれは感動しますね」
メープリーの唖然とした言葉にシュンも感心しながら世界樹を眺める。そう、これが世界樹の真の姿、今の世界の根幹を支える偉大なる大樹の姿だ。
『それではまた、茸と苔などを採取するといい、根を傷つけぬようにな』
「分かっているよ、それでは各々、根を傷つけずに優しく茸や苔を採取するのだ」
俺の言葉に従い全員で根本の茸や苔を採取していると、やはり世界樹からのプレゼント、葉と実、皮が降ってくるのでそれも頂戴する。全てを集めた所で師範代が言ってきた。
「これらは次期師範にお渡しします、胡桃様にお渡し下さい」
「分かった、預かろう。必ず胡桃に渡そう」
師範代から全ての素材を受け取ると、霊獣が声をかけてくる。
『それではお前達を麓へと転移させよう』
「いや我らは結構!下山も登山の楽しみの一つ、折角ここまで来たのですから下山も楽しまなくては勿体ない!」
「そうですな、下山も良い経験、一度皆にも経験させておくべきでしょう」
霊獣の言葉に被せるように師範代が言って転移を拒否する。そうして師範代達はガントやドS組、娼館組へ声をかけた。
「それでは皆着いてこい、下山の楽しみを教えてやろう」
「貴重な経験だ、これほどの山は現実でもそうはない、楽しむべきだ」
そうして師範代達に続いてガント達、ドS組、娼館組がダンジョンの入り口をくぐるのを見送った所で霊獣が言ってくる。
『お前達の仲間は変わっているのだな』
「あれはあいつらがおかしいだけだ」
呆れをそのまま乗せた霊獣の言葉に額を押さえたまま答える。間違いなくあいつらがおかしい、楽しみすぎなのだ大霊山というとんでもなく厳しい環境を。
「俺達は麓に転移してくれ、用事があるからな」
『分かった、それではまた会おう、こちらから何かあれば分身を通して声をかける』
「あぁよろしくな」
霊獣の転移の光に包まれて、俺達は一瞬で大霊山の麓へと移動した。
「あっつい!」
「相変わらずこの急激な環境の変化は凄いわね」
叫びながらアヤカが慌てて防寒着を脱いでネスも言いながら防寒着を脱ぐ。全員が防寒着をインベントリにしまってから馬車駅へと移動してアインドの街へと戻る。今日は何のトラブルも無く転移門へと到着してドゥヴァリエへと戻り、そのまま店へと入る。
店に入るとカウンターにいつもの受付の住人と一緒にシャマールとアイゼーンが居た。シャマール達は俺達に気付くと表情を引き締めて無言で俺の手を引っ張った。
「おいおい、どうした2人共」
「いいですから来てください」
2人に引っ張られながらそのまま会議室に連れ込まれると、そこにはベルカスとナリンセンがお茶をしていた。ナリンセンは俺に気付くと手を上げて、ベルカスが表情を引き締める。そうして俺達はシャマールに誘導されるまま会議室の椅子へと座り、その対面にシャマールとアイゼーン、ベルカスが座った。
「アイゼーン、無事引っ越しは終わったようだな」
「えぇ終わりました、その話はまた後日。今はそれよりも大事な話があります」
俺がアイゼーンを見て言うとアイゼーンが相変わらず厳しい表情で俺を見てくる、一体なんだろうかと思っていると、シャマールが俺に問いかけてきた。
「それで、ソウさん。一体社長と朋美さんに何をしたんですか?」
「何を?何をってなんだ、俺は今日の午後にマリッサとリットンに道場で稽古をつけたぐらいだが」
「宗吾さんは何もしておりませんわよ、したのはわたくし達ですね」
シャマールからの問いかけに俺が答えると、フタバが苦笑を浮かべながら続ける。するとアイゼーンがフタバに問いかけた。
「何したんですか?」
「少しお話を。お話の内容は今この場では言えませんが、大体想像つくのではないでしょうか」
フタバがそう答えると、ネスが言う。
「ナリンセンは言っていないのね」
「うん、言ってない。2人がちゃんと宗吾さんに言ってから言うべき事だから」
「そうですね、そうするべきですね」
ネスの言葉にナリンセンがそう答えるとリフレが頷く。なんだかよく分からん所で話が進んでいるのだが。
「一体どうしたんだ、2人に何かあったのか」
「何か、って、ソウさん、もしかして気付いてないんですか?」
俺の言葉にシャマールが不思議そうに言ってくる、気付いてないとはウーツにも言われたが、俺は何に気付いてないんだろうか。
「何だろう、2人が親父と普通に会話できるようになった事には気付いているが、それ以外となると分からん」
そう言うと、ベルカスが自分の額をペシッと叩いた。
「マジか、ソウさん、マジもんの鈍感野郎だったのか」
「鈍感野郎とは失礼だなベルカス、一体どういう事だ」
「それに気付いてない時点で明らかに鈍感野郎なんですよソウさん」
俺の言葉に額の手をそのままにベルカスが呆れたように言ってくる。するとフタバが苦笑を浮かべながら言った。
「宗吾さんは人の本質を見抜くのは得意ですが、イマイチそういう変化には疎い所はございますわね」
「ナリンセンが実力行使に出るまで気付かなかったんですもの、気付くわけないわよ」
フタバに合わせるようにネスも苦笑しながら言うと、ベルカスとシャマール、アイゼーンが溜息をついた。
「本当ですか、あんな明らかな変化に気付いてないんですか」
「俺はそんなに気付いていないのか、2人の変化に」
「気付いてませんね、間違いなく、気付いていたらそんな言葉出ませんから」
アイゼーンが心底呆れたように俺に言ってくるが、そんなにアイゼーンから見ても2人に明らかな変化が起こっているのか。それを考えているとフタバが笑みを浮かべて3人に言った。
「大丈夫ですわ、今夜宗吾さんがお2人とお話する事になっております、その席で宗吾さんも分かりますわ」
「そうなんですね、今夜。じゃあ私達はそれまで大人しくしてます」
「そうしてあげて下さい、お2人がきちんと宗吾様にお伝えするまで待っていて下さい」
シャマールの言葉にリフレが微笑んで言う。2人が俺に伝えるまで、か。俺は一体2人から何を伝えられるのだろうか、想像してみるが全く分からない。
「それではわたくし達は失礼いたしますわ、これ以上は宗吾さんに余計な情報を教えてしまいそうです」
「そうですね、分かりました。私達は大人しく見守る事にします」
フタバそう言って立ち上がるとアイゼーンがそう答える。そうしてみんなで会議室を出て店を出る途中でシャマールに問いかけた。
「今マリッサとリットンは何をしているんだ」
「朋美さんは私達用の神衣を作る作業をしています、社長はお仕事ですね」
「そうか、様子を見に行った方がいいか?」
「大丈夫ですよ、お仕事の邪魔はしなくて大丈夫です」
俺の問いかけにシャマールが苦笑しながら答えるので、俺達はそのまま店を後にした。本拠地へと戻る途中、みんなに問いかける。
「なぁ、俺は一体何に気付いていないんだ?」
「いいのよ今は気にしなくて、ありのままでいなさい、余計な事は考えなくていいのよ」
俺に対してネスが苦笑しながらそう言う。ありのままでいろ、か。余計な事を考えるのはやめておいた方がいいのか俺は。
「分かった、そうしておく、余計な事は考えない」
「そうしてあげるのが良いですわ」
フタバが微笑んでそう言うので俺は大人しくしている事にする。本拠地に戻って夕食をして当主の間でログアウト、夕食前の時間に茶の間に入るといつも通り涼子と智香子、二葉と胡桃、ついでに彩花もいた。涼子から差し出されたお茶を飲んで一息つくとマリッサとリットンが紬姿で茶の間に入ってきて座り、差し出されたお茶を飲む。
「随分身体の痛みも楽になったわ、休ませるのも大事ね」
「そうですね、あのお布団気持ちいいですね、身体を休めるのに最高です」
「良いお布団を使っておりますから、身体は楽になるでしょうね」
マリッサとリットンのお茶を飲みながらの言葉に涼子が微笑んで答える。そんな様子を見ながら2人を見るが、何か変化があるのか、今の2人に。変化、変化、と思いながら2人を見ているが、2人は普段と変わらず綺麗なままだ、あ。
「2人共、なんか化粧か何かしているか?」
「え、どうしたのいきなり、化粧はしてないわよ」
「お休みですし化粧はしていませんよ、そりゃ化粧水とか使って肌は整えていますけど」
「いや、何か、印象が少し変わったかな、と。綺麗になっている気がする」
俺がそう言うと、2人がほんのり頬を染めて微笑んだ。
「そうかしら、そう見えるなら嬉しいわ」
「そうですねぇ、宗吾さんからそう見えるなら嬉しいです」
微笑んで言う2人の言葉に横に座るシィルミーツが呟いた。
「ほんの少し前進したかな?」
「でもまだまだねぇ」
ミーツに答えるようにオーツが言う。ううむ、まだまだなのか俺は、もっと精進せねば。そうして茶の間での時間を終え、夕食を食べた後で歯を磨いて建物に続く廊下に行くと、マリッサとリットン、智香子達が待っていたのでそこに合流する。
「それじゃ、宗吾さんを少し借りるわね」
「えぇ、いってらっしゃい」
「いきましょう宗吾さん」
マリッサの言葉に笑顔で智香子が頷いて、リットンに言われて2人に続く。建物の広間に到着すると、2人はそこに座布団を置いて正座した。俺の前にマリッサとリットンが正座して並ぶ。
「宗吾さん、左手を貸してくれるかしら」
「私には右手を」
「ん、あぁ分かった」
2人に言われた通り両手を差し出すと、マリッサが左手を、リットンが右手をその両手で優しく包んだ。そうして少しして、マリッサが口を開く。
「私達ね、おかしい状態だったみたい」
「おかしい状態?」
「そうなんです、おかしかったんです」
マリッサの言葉に疑問を口にするとリットンが答える。そうしてそのまま、2人は話を始めた。
「私と朋美は恋人関係だった事は知っているわよね」
「あぁそりゃな、知っているよ」
「いつの間にかその関係も、おかしくなっていたんですよ」
「おかしくなっていたのか、お前達の関係が」
何だそれは、初耳だ、一体なにがあったというんだ2人の関係に。
「私達が宗吾さんと関係を持って、関係を継続している間に、変化していたの」
「とっくの昔から、私達の関係の軸には宗吾さんが居たんです、私達の関係は、宗吾さんを軸に回っていたんです」
「そうなのか、2人の関係の軸に俺が」
2人の間に俺が入ってしまったという事か、それは何か、申し訳ない話だ。
「すまない、そんな事になっているとは思わなかった」
「いいのよそんな事は、大事なのはそこじゃないから」
俺の謝罪にマリッサが微笑んで答えてから言葉を続ける。
「私、自分で思い込んでいたの。私の恋人は朋美で宗吾さんはただの性欲の解消相手、そう思い込んでいたわ」
「私もなんです、愛莉鈴さんが恋人で宗吾さんはただの性欲処理の相手だと、本気で信じ込んでいました」
「そう、じゃないのか?そう言われていたから、俺もそういうものだと思っていた」
マリッサとリットンの言葉に少し驚く。2人から性欲処理の相手だと言われていたから、俺もそう思っていたのだが、違うのか。そう言うとマリッサとリットンが首を横に振る。
「ただの性欲処理の相手を心の支えになんてしないわ普通、そんなのおかしいわ」
「今から振り返るとなんでそう思っていたんだろうと不思議なんですけれど、私の心の支えも宗吾さんだったんですよ、とうの昔に」
「そうだったのか、俺がお前達の心の支えに」
「そうよ、あなたに慰めてもらう前からもう私の心の支えには宗吾さんが居た」
俺の言葉にマリッサが微笑んで言うと、俺の手を包んでいる自分の手に視線を落とした。
「気付く機会はいくらでもあったわ、本当は気付くべきだったんでしょうけれど、それを見ないようにしていた」
「いくら九堂隆二様に言われたからって、ただの性欲処理との関係を継続する為に家に入るなんておかしいんですよ、その時には気付くべきだったんです」
「見ないようにして、朋美が恋人だから、宗吾さんは性欲処理の相手だからって言い聞かせていたわ、おかしな話よ」
「自分達で家に入る事を決めておいて、そう思い込んでこの家に来たんです、家に入る事を決めた時点で、私達は覚悟してなきゃおかしかったんです」
「覚悟って、なんの?」
「宗吾さんと共にあり続ける為に努力する覚悟よ」
俺の問いかけにマリッサが答える。そうか、俺と共にあり続ける為に努力する覚悟、か。確かにそれは必要かもしれない。
「でも昨日、気付かされたわ。私達はとっくの昔に宗吾さんを心の底から愛していたのに、それを見ないふりして過ごしていたのを二葉さんに教えられた」
「心はぐちゃぐちゃにされましたけれど、綺麗に平らになってくれました、歪な心が整地されたんです、その真中には大きく、宗吾さんが存在していました」
「そうか、昨日そんな事があったのか」
俺がそう言うと2人は頷いて、涙を一滴零した。
「あなたが私達の関係に気を使ってあちらの世界の名前を呼ぶようにしているのは分かっているわ、でももういいの、私が今心の底から愛しているのは宗吾さんなの」
「私もです、愛莉鈴さんの事は好きですけれど、今本当に心の底から愛しているのは宗吾さんです、宗吾さんじゃなきゃ駄目なんです」
あぁ確かにこれは、ベルカスに鈍感野郎と言われても仕方ない。俺は2人の心の底からの愛に気付いていなかった、それは確かに鈍感だ。そうして2人は涙を拭ってから、俺に告げる。
「愛しているわ、宗吾さん」
「愛しています、宗吾さん」
「分かった、2人の気持ちは受け取るし、俺も応える」
俺が2人の言葉に答えると、2人は微笑んで頷いた。
「ならばお前達も正式に家に来い、内縁の妻となってしまうが、智香子達の横に並べ」
「覚悟は出来ているわ、どんな形でもあなたと共に居られるなら構わない」
「私もです、どんな形でも宗吾さんと共にあり続けます、その為の努力は惜しみません」
「そうか、なら早速覚悟の必要な事をする必要がある、親父達に挨拶に行こう」
俺の言葉に頷いて一緒に立ち上がる、ならばいい、共に行こう。俺達は一緒に奥の茶の間へと行き、襖を開ける。
「失礼します」
親父と母さんの前に俺を挟んで愛莉鈴と朋美が正座して、挨拶をする。
「正式に、新たに内縁の妻に加わります、橘愛莉鈴と佐藤朋美です」
「よろしくお願い致します、隆二様、奥様」
「よろしくお願い致します」
正座してお辞儀をする愛莉鈴と朋美を見て、親父と母さんは深く頷いた。
「二葉がやったのか」
「はい、二葉さんに気付かされました、私達はとうの昔に宗吾さんを愛していると」
「心を平らにしてくれました、覚悟も固めてくれました」
親父の言葉に愛莉鈴と朋美が答えると、親父が再び頷く。
「現実での行為の教授はどうする」
「私達で行います、必要な事ですから」
「智香子さん達には申し訳ないですけれど、今は私達にしかできない事ですから」
「そうか、そこまで覚悟しているならいい、宗吾に教えてやってくれ」
親父の言葉に愛莉鈴と朋美が決意を硬くして答えると親父が納得する。その様子を見て母さんが微笑んで言った。
「式は花嫁6人ですか、盛大な式になりそうね」
「そうですね、その覚悟は出来ています」
母さんの言葉にそう答える。式に花嫁6人という常識はずれの事になってしまうが、もう今更だ。その覚悟は既に出来ている。
「ならば本館に越してもらうがいいな、部屋は用意出来ている」
「用意出来ているんですか」
「こうなるとは思っていたからな、既に準備してあるよ」
親父に俺が言うと、そんな風に答えてくる。全くこの人は本当に、どこまで読んでいるんだ、恐ろしい人だよ。
「ではそういう事で、他に行くべき所があるだろう、行ってきなさい」
「はい、失礼いたします」
親父に促されて3人で奥の茶の間を後にして、いつもの茶の間に顔を出す。智香子に二葉、涼子と胡桃、三姉妹が揃っていた。ついでに彩花もいるが。そこにいつも通り座って差し出されたお茶を飲むと、二葉が聞いてきた。
「やはり言われるまで気付かなかったのですね」
「あぁそうだな、俺はベルカスの言う通り鈍感野郎なのだ」
苦笑しながらそう答えてから皆に言う。
「正式に内縁の妻に加わる、愛莉鈴と朋美だ、よろしく頼む」
「改めてよろしくね、みんな」
「よろしくお願いしますね」
愛莉鈴と朋美がそう挨拶するとみんな笑顔で頷いてから、涼子が聞いてくる。
「お二人の関係は、今後どうなるんですか?」
涼子のその問いかけに、2人がうーんと悩んでから答えを出した。
「別に今まで通りかしら、私達肉体関係があった訳じゃないし」
「そうですね、付き合い方は変わりません、私達の中心には今まで通り、宗吾さんがいます」
「そうなのねぇ、清い付き合いだったのね2人は」
2人の言葉に智香子が何処か感心したように呟く。なるほど清い付き合い、そういう関係だったのか2人は。
「それで、現実での教授はどうされるんです?」
「私達でやるわよ、経験者は私達しか居ないし」
「どちらが最初にするんですか?」
二葉の問いかけに愛莉鈴が答えると、更に二葉が問いかける。それに少し考えてから、愛莉鈴と朋美は腕を前に出した。
「ジャンケンポンッ!」
「うわー!負けたー!!」
いきなりじゃんけんを始めて愛莉鈴がグー、朋美がチョキを出した後で盛大に頭を抱える。その後で愛莉鈴が笑顔でみんなに言った。
「それじゃみんなには悪いけれど、宗吾さんの童貞は私が頂くわ」
「童貞とか言うな童貞とか」
愛莉鈴の宣言に突っ込む。お前童貞とか言うなよ、恥ずかしいじゃん、事実だけどさ。
「いいですよー、二番目でも。準童貞は私は頂きますから」
「準童貞ってなんだよ、そんな言葉知らないよ」
準童貞という全く新しいワードを呟く朋美にも突っ込む。なんだ準童貞って、そんなものがあるのか。
「仕方ない事だけれど、なんだか残念だわ」
「そうですね、仕方ない事ですけれど残念です」
智香子が頬を押さえて呟く言葉に涼子も残念そうに同意する。そんなに残念がるものなのだろうか、それは。
「いつから始める?」
「本館に引っ越してからかしら、来週の休みの日の夜にでも」
胡桃の質問に愛莉鈴が答える。なるほど来週の休みの日の夜ね、覚悟しておこう。
「その翌日は私ですからね、いいですね」
「分かっているよ、そうするよ、覚悟しておく」
朋美からの言葉にそう返事をする。覚悟の必要な事だ、覚悟しておこう今の内に。そう考えていると彩花が聞いてくる。
「あの、宗吾様、私は?」
「お前は何もかもが足らん、俺との信頼関係も構築できていないし、何よりお前涼子との仲が悪い、そんな奴を加える訳にはいかん」
「そんな~」
俺の言葉に彩花が落ち込む、お前自覚なかったのかよ、なんで仲間に入れると思ってるんだよ。一つ溜息をついてから彩花に言う。
「お前は何よりもまず涼子に今までの非礼を謝罪しろ、話はそこからだ」
「なんで涼子さんに謝罪しないといけないんですか」
「それが出来んのならお前はもうこの茶の間に立ち入るな、あちらでの同行も認めん、お前とはもう関わらない」
「涼子さん!今まで数々のご無礼を働き誠に申し訳ありませんでした!!」
俺が言うと、彩花が涼子に対して綺麗な土下座をする。それを溜息をついてから涼子が答える。
「本当に心から謝罪しているんですか、形だけのものではないんですか」
「はい!本当に反省しております!同じような事は二度と致しません!」
「分かりました、その謝罪は受け取ります、後は行動で示して下さい」
「はい!ありがとうございます!今後は行動で示させていただきます!」
涼子の言葉に礼を言ってから心の底から安堵した表情で顔を上げる。まぁ涼子がそう言うのならばいいがな。
「では後は行動で示せ、少なくとも俺達の狩りに着いてこれなければいかん、時間をかけて信頼関係の構築に努めろ」
「はい、そうします。共に行動して信頼して頂くように心がけます」
「ならば少なくとも俺達との同行は許す、そこから先の話はまだまだ先だ、分かったな」
「はい!」
俺に気合を入れて返事をする彩花に一つ溜息をつく。本当に大丈夫なのかね、こいつは。一抹の不安を覚えながら、俺達はゆっくりと茶の間で過ごすのだった。




